落ち着きがなく衝動的で、集中力に欠けていて、小学校の授業中、椅子に座っていられない子どもがいることは、いまでは広く知られるようになった。「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」という病名がついている。


●「ADHD」は大人にも多いことが判明

 ADHDは、小学校低学年から適切な治療を行えば、十分子どものうちに治せる病気だが、放っておくと、思春期を経て大人になっても症状が残るケースが多いことが分かってきた。ある研究によれば、小児期にADHDの既往をもつ成人の31%から66%が、成人しても依然としてADHDの症状を有しているという。

 実は、この「大人のADHD」に悩む人が、世のなかに決して少なくない。歴史上をみても、ベートーベン、モーツァルト、ピカソなどは、おそらく大人のADHDだっただろうといわれている。


●大人のADHDは、多動でないことが多い

 大人のADHDは、すでに多動が落ち着いていることが多く、一見、ADHDだと分かりにくいのが特徴だ。しかし、不注意や衝動性といった基本的な症状は残っているため、仕事を先延ばしにする傾向がある、感情が不安定でキレやすい、ストレス耐性が低い、対人関係が苦手、自己評価や自尊心が低い、飽きっぽく独創的といった症状が出てくる。

 周囲に、片付けができない人、事故を起こしやすい人、よく昼間に居眠りする人、タバコ、コーヒー、アルコール、薬物、過食、ギャンブル、浪費、異性関係などに依存・耽溺する人がいたら、大人のADHDかもしれない。以前、『片づけられない女たち』という本がベストセラーになりましたが、この著者もADHDである。


●合併症や二次障害を起こしやすいのが特徴

 大人のADHDは、素人では正確な診断が難しい病気だ。最終的な診断は専門医に相談することをお勧めする。なぜなら、ADHDは思春期・青年期以降に、合併症や二次障害を起こしやすいからだ。

 合併症としては、うつ病、躁うつ病、神経症、パニック障害、PTSD、不安神経症、薬物依存、アルコール依存、過食症、ギャンブル・セックス依存などがあり、非行、犯罪、異常性愛などに走るケースも見られる。人格障害、チック症、トゥレット症候群、学習障害などに陥っていることも少なくない。

 ADHDは幼少期から、周囲から怒られる、いじめられるといったことが多く、自己評価が下がりやすい病気である。そのため、特に思春期・青年期には、心気症や自律神経失調症、不登校、ひきこもり、家庭内暴力、抑うつ・無気力状態、非行、破壊的・攻撃的行動、いじめなどの二次障害を起こしやすく、この点にも注意が必要だ。


●タバコ、食品、遺伝子…。原因は複合的

 ADHDの原因として、これまでにさまざまなものが挙げられてきた。仮死出生などの周産期異常、胎児性タバコ・アルコール症候群、食品添加物、環境ホルモンなどが、ADHDを引き起こしているといわれている。一方、遺伝子の影響も強く、現在はいくつかの遺伝子が関わっている「多遺伝子仮説」が有力と考えられている。つまり、ADHDの原因は極めて複合的で、1つに絞ることは難しいのだ。


●周囲の人がADHDを理解することが重要

 ADHDは、幼少期から対応していけば十分に予防・治療できる病気だが、そのためには、親や家族、先生などがADHDを十分に理解し、注意深く、粘り強く接する必要がある。大人のADHDについても、パートナーや家族などがどのように接するかで、症状の現れ方は大きく変わってくる。大事な人がADHDかもしれないと思ったら、まずご自身がADHDのことを学び、理解するところから始めていただきたい。周囲に支援者がいれば、ADHDは乗り越えていける病気である。

【参考文献】星野仁彦『知って良かった、大人のADHD』