講談社の編集次長・朴鐘顕容疑者(41)が、妻殺害の容疑で逮捕された件だが、今回の逮捕に衝撃を受けたマスコミ人は多かったのではないだろうか。普段から犯罪者を報じたり、批判を続けるマスコミ人は身内(同業者)のことになると、からっきし甘くなる傾向がある。


 私(編集者・中川淳一郎)は朴容疑者の知り合いではないものの、彼の知り合いは知っているわけで、「知り合いの知り合い」がまさかの重大事件を犯した容疑をかけられていることに戦慄が走っているのである。以前、知り合いの大手出版社社員が逮捕されたが、この時は大麻取締法違反だった。彼は結局解雇され、一緒にやっていたプロジェクトを途中で放り出すことになった。悲痛な謝罪と悔恨のメールがやってきたが、大麻であれば誰かの人生を毀損することはなく、明確な被害者も家族以外にはいないため、「復活の日をお待ち申し上げます(笑)」といった虚勢を張った励ましメールを送ることはできた。


 そして、不思議な話なのだが、銀行員の横領や官僚への収賄であればまったく衝撃を受けないばかりか「ざまーみろ」と思っておしまいなのだが、同業の編集者による殺人容疑というものはまったくもってして別次元の感覚を抱いてしまった。途端に「自分事」になってしまったのだ。


 また、2008年、私がかつて勤務していた博報堂で現役社員の2名が「セレブの飲み会」と称してイベントコンパニオンをホテルに招き入れ、酒に睡眠薬を入れてわいせつな行為をし逮捕された事件があった。この時も被害女性のことを慮ることに加え、2人に対しては、「バカなヤツがいるもんだ」「お前、失うものと得るもののバランス考えろよ」といった感覚は抱いたものの戦慄は走らなかった。自分事ではなかったのだ。


◆朴容疑者の件が他人事ではないと感じられた3つの背景


 一体今回の件で何がここまで衝撃的だったのかを考えると、一つの理由に行きつくことが分かる。職歴の面で朴容疑者の華々しいキャリアと私ごときを比較するのもたいへんおこがましいのだが、以下の点で他人事とは思えなかったのである。


【1】大手出版社で働いている(朴容疑者は正社員で私はフリーランスとして週2回)

【2】同世代(朴容疑者は41歳で私は43歳)

【3】国立大学出身


 【3】についてだが、ここには若干の偏見がある。「集団レイプ事件」や「集団泥酔事件」などは私立大学のチャラいサークルがやるもので、真面目だけが取り柄の国立大学生はやらないのでは? と思っていた。もちろん完全に偏見である。それは過去に「スーパーフリー」に東大生がいたことや、昨年の東大生・千葉大学生によるレイプ事件などを見れば明らかである。しかし、少数派である国立大学の人間は、若干の連帯意識というものがあり、会社に入っても妙に気が合うのが、いかにも学生時代に遊んでいなさそうで、モテなさそうだった国立大学出身の人間同士だったりする。


 前出「セレブの飲み会」についても、若い方は元々チャラい男として知られていたようで年長者の方が地味な人物だと聞いていた。だから、チャラい方の男に対しては一切の憐憫の情は抱かなかったし、他人事だと思っていたのである。


 私も一体この原稿で何を言いたいのかは分からなくなってきたのだが、とにかく動揺している。一つ言えるのは、決して殺人という重大事件であっても他人事とは思わず、常に品行方正な人生を送るよう心掛けるという決意を持つことが重要だということだ。それには、自らの「逮捕記事」というものを想定しておくのも良いかもしれない。そして、そこから派生するであろう知り合い・家族への迷惑と人生崩壊――今回の朴容疑者の件は、他人の人生を時にめちゃくちゃにすることを厭わぬマスコミ人の目を覚まさせる結果となったのかもしれない。


 というわけで、私も自分自身の「逮捕記事」を書いてみる。よりリアルに書いた方が自身への戒めになることだろう。決してそのようなことはしない、という歯止めにするため、バカげた行為ではあるものの、やってみる。思えば私自身も酒の上での失敗は色々してきたが、犯罪行為に手を染めたことはないし、逮捕されたことはない。それは朴容疑者の件を考えると「たまたま」とも言えると思ってしまったのである。架空の人物とは言え殺してしまうのは申し訳ないため、容疑は「器物破損+傷害」ということにしてみる。


◆架空の「自分逮捕記事」を書いてみた


【第一報】新聞ベタ記事


 10月12日、警視庁渋谷警察署は東京・外苑前の路上で編集者で自称・IT小作農の中川淳一郎容疑者(44)を器物破損と傷害の現行犯で逮捕した。酒に酔っていた中川容疑者は、神宮球場近隣の飲食店の看板を路上に投げて破壊したほか、この行為を制止しようとした50代の男性会社員に罵声を浴びせたうえで顔面を数回殴打し全治3週間のけがを負わせた。中川容疑者は取り調べに対し、「神宮球場でヤクルト対阪神の試合を見に来た。阪神が今日で優勝の可能性が潰えたので喜ぶヤクルトファンを見てカッとなり看板を投げてしまった。ケガをさせてしまった男性には申し訳ない」と語っている。


――これが第一報だ。恐らく器物破損・傷害の現行犯であれば一発目から名前は出ることだろう。朴容疑者の場合は、当初は「会社員」として報じられていたが、それはまだ容疑が固まっていなかったことから報道でもそのように配慮していたのだろう。今回朴容疑者の件がここまで大きく報じられたのは講談社の社員であることと、有名雑誌の関係者であったからという理由もある。私自身も多数の大企業と仕事をしているほか、ネット上に出している記事の本数がとんでもなく多いため、それなりに後追い報道が出る可能性はある。


 また、この段階で2ちゃんねるやツイッターでは「あの酔っ払い、いつかやらかすと思ってたwwwww」などと書き込まれていることが想定できる。


【第二報】週刊誌ワイド記事


 阪神タイガースのペナント制覇可能性が消えたことから腹を立て、路上に飲食店の看板を投げつけ、制止した50代男性に全治3週間のけがを負わせた編集者の中川淳一郎容疑者(44)だが、一体この男はこの年齢になっても何をやっているのか。


 今回、中川容疑者は神宮球場でビールを何杯も飲んでおり、犯行時には酩酊状態だったというが、同容疑者にビールを売った売り子の女性は顔を曇らせた。

「毎回私から買ってくれるのはありがたいのですが、さすがに7杯も飲んでいたので『お客さん、そろそろやめておいた方が……』と正直思いました。球場では陽気だったのですが、負けた後、突然変わってしまったのかもしれません」


 古参の阪神ファンもあきれ顔だ。

「阪神が優勝しないなんてことは毎度のことなわけで、その度に看板を投げて人を殴っていたら、私なぞ前科60犯ぐらいですよ(笑)。阪神は負けるのも合わせて愛するのが本当の虎ファンの姿です。中川容疑者は阪神のことは本当は好きではなかったのではないでしょうか」


 中川容疑者は以前より酒の面でのトラブルが多かったという。かつてニコニコ生放送の「人狼」というゲームを行った際は泥酔してルールを把握しないまま嘘ばかりつき場をかき乱した結果主催者から追放されたり、TBSラジオの『Session-22』では酩酊状態で生出演をし、暴言を吐きまくり同様に番組から追放された過去を持つ。同容疑者の知人が声を潜めて言う。

「中川さんは、とにかく酒ばかり飲んでいる。昼間の打ち合わせで大抵指定してくるのは渋谷の24時間居酒屋。午後3時を越えると別の居酒屋で打ち合わせ。それで、結局そのまま夜まで延々次々と飲み会相手がやってきて飲み続け、気付いたら朝になっていることが多かったそうです」


 同容疑者は複数のニュースサイトの編集に携わり、複数の新聞・雑誌連載を持っているが、いずれも穴を開けることになるほか、現行犯逮捕という事実の重みを鑑み、いずれの社も契約を打ち切る方針だ。


 さすがに今回の件はゲームや番組からの「追放」では済まなかったようだ。

(仕事をする時も常にビールを手放さなかったという中川のPC周辺)


――ここまで架空の話として書いたが、こんなことを生まれて初めて考えたのも朴容疑者という存在が登場したからだ。人は自らの立場に近い人間を無意識のうちに信用することがある。そして、彼らと同様に自分も聖人君子であると思いたがる。だが、そんなことは決してないのだと朴容疑者の騒動は思い知らせる結果になった。少なくとも私にとっては。


文/中川淳一郎(編集者)