♪海の声が 聞きたくて〜 歌声とともにあの人気CMが流れると、つい手を止めてテレビ画面に見入ってしまう。

太くて荒っぽいようだけれど、心にじんわりと響くあったかい歌声。そんな素敵な声の持ち主は、今“浦ちゃん”で大ブレイク中の桐谷健太さん。トレードマークでもある関西弁で、ロック好きの先生、ヤンキー高校生や料理人と、クセのある役でも、技術が求められる役でも、体当たりで挑む骨太な役者だ。

――浦ちゃん人気、スゴイですね。

桐谷:街を歩いていて「あ! うらちゃん、うらちゃん」って幼稚園児20人ぐらいに囲まれて、「海の声」を大熱唱されたこともあります(笑)。もちろん普段は浦島太郎に扮していないですから、園児たちから不思議そうに「うらちゃん、かみのけ、切ったん?」って言われたりすると、ほんまに可愛いなぁって笑顔になりますよね。それから70〜80代の方から、歌を聴いて感動しましたなんて手紙をいただいたりもするようになりました。「海の声」はたくさんの人に歌ってもらえて、ひとりひとりの歌になったんだなぁ、と嬉しく思います。僕はみなさんの代表で歌っているだけ。

――それにしても、ここ最近の活躍は目覚ましいですね。役者の枠を飛び越えて、ナレーションやミュージシャンとして、声までも求められて。アルバムリリース、待ち望んでいました!

桐谷:ありがとうございます。高校時代は軽音部で、コピーバンドをしてました。THE BOOMとか、オジー・オズボーン、ニルヴァーナ…ってテイストめちゃくちゃやな。だからオリジナル曲を作ったのは初めてやし、0から1を生み出す作業をしたのも生まれて初めて。役者の仕事は本や台詞があるうえで1を広げてゆく。それに対して、音楽作りは何もないところから歌詞や音を作り上げてゆく。でもこの0を1にするという作業が、今までになくものすごく刺激的で、楽しかったんです。

――初めてのオリジナル曲を作るにあたり、一番最初にしたことは何ですか?

桐谷:何かのヒントになればいいなと思って、大阪のオカンに電話して高校生の時に書きためていたポエムノートを送ってくれ、って頼んだんです。「絶対中見るなよ!」って言って。

――それって…見てますよね(笑)。

桐谷:…せやろな(笑)。当時はやりたいことをやれていなかった歯痒さから、常に想像を掻き立てられていて、思いの丈をひたすら、バーッと文字にして書き連ねていたんです。でもね、届いたノートを見たら、まぁ思春期ですわ。急に気取ってクサイ言葉が綴られているかと思えば、底抜けに明るいのもどん底に暗いのもあって、我ながら「おかしいで情緒が…何があったんや、こことここの間に!」って笑けました。そんなポエムは、いま作りたかった曲とシンクロしなかったので、ただ昔の俺に恥ずかしくなっただけやけど。

――アルバムには浦島太郎(桐谷健太)の「海の声」のほかに、テレビドラマで演じた役柄・河野勇作(桐谷健太)×イナズマ戦隊の「喜びの歌」「君の旅路に桜が笑う」が収録されていますが、リード曲の「香音−KANON−」はこれまた切なくて泣ける曲ですね。作詞は桐谷さんがされたそうですが、作曲をしたのは、桐谷さんの高校時代の同級生だと聞きました。

桐谷:はい。直感的に彼と一緒に作りたい、そう感じました。やっぱり付き合いの長い高校時代の仲間なんかな、できあがった音を聴いたのと同時に、サビの「忘れないで 忘れないで 君の心に花がある」という歌詞がすっと出てきた。そんなふうに自分から生まれるという感覚を大事にしていたら、レコーディングの日までにどんどん歌詞が生まれていったんです。映画なら2時間、ドラマなら約10話を通してその世界観や感動を伝えるけれど、音楽って短い時間で、しかも聴いた瞬間に心が動く。そんな音楽の偉大さにも改めて気づくことができました。

――作曲を担当した方だけではなく、いま桐谷さんについているスタイリストさんも高校時代の同級生だと聞きましたが。

桐谷:そうそう。あとFMラジオでDJをやっている同級生もいますよ。

――クリエイター揃い! 何十年も信頼し合える友情を育めるのも、桐谷さんの魅力だと思います。人付き合いのコツはありますか?

桐谷:う〜ん、コツとかあまり深く考えたことないですね。カッコ悪いとは思われたくないけど、カッコいいと思われたいとも思っていない。自分の気持ちに正直にいつもいるだけです。だから、気がついたら、自分のことを長々話して隅々まで吐露しちゃってるんやな(笑)。まあ唯一心がけていることと言ったら、いつでも心をパカッと開くようにはしている。開いた瞬間にイヤなこと言われてグサッと傷つくこともあるけど、それでも通じ合える方が全然いいから。

――そう思えるようになったきっかけは何かあるのでしょうか。

桐谷:20代前半かな、大きく挫折した時期がありました。それで強くなりたい、辛さなんて感じない強靭な男になってやる、って心を固くしたんです。

――明るくてユーモアがあって、という印象の今の桐谷さんからは、全然想像できないですね。

桐谷:ところがある時、楽しさをまったく感じていないことに気づいたんです。それで、あ、俺強くなったんじゃなくて鈍感になっただけやん! ってわかった。楽しめないぐらいなら、傷ついても心を開きっぱなしにしておいた方がいい、傷ついたらその瞬間に、その苦しみはパッと手放してしまえばいいやんって。そして、小さなことで楽しさやよろこびを感じられることこそが、ほんまの幸せだということも知りました。運がよかったと思ったのは、そうやって気づけたことだし、気づかせてくれた友達がいたこと。

――やはり、桐谷さんがきちんと人付き合いをしてきた証でもあるのかと。

桐谷:でも人付き合いも大事やけど、自分付き合いも大事やなって思う。人間誰でもすぐに考え込んでしまうのは、そういうクセをつけちゃったからやと思うんです。俺も大きな挫折をしてから、また挫折するのが怖いし、あかん、あそこにはもう二度と戻りたくない、という思いから、いちいち気にするクセがついた。でも、あとからごちゃごちゃ言っても始まらん。これが俺のクセやな、脳の回路を考え込みやすいように自分で作ってしもうたなって。それなら常にその思考回路の道を掃除してきれいにして、今日の俺がんばったで、今日しかない俺が出たで、って、褒めてあげた方が素敵やと思うんです。そのためには全力で準備することも大切。

◇きりたに・けんた 1980年2月4日生まれ、大阪府出身。大学進学の上京と同時に役者を目指す。ドラマ『九龍で会いましょう』で俳優デビュー、『ROOKIES』でその名を広める。auのCMで、浦島太郎に扮し「海の声」を歌ったところ人気曲となり、初の本人名義でのアルバムリリースに至る。

◇自身が初めて作詞を手がけたリード曲「香音−KANON−」が収録されたアルバム『香音−KANON−』が9月28日に発売。同アルバムには2016年上半期最大の配信ヒット「海の声」も収められており、初のCD化として話題。『香音−KANON−』(全6曲)初回盤はCD+DVD+28Pフォトブックで¥3,000、通常盤CDは¥1,800。

◇ジャケット¥75,000 シャツ¥24,000 パンツ¥30,000(以上ポール・スミス/ポール・スミス リミテッドTEL:03・3478・5600)


※『anan』2016年9月28日号より。写真・森滝 進(まきうらオフィス) スタイリスト・岡井雄介 ヘア&メイク・INOMATA(&'s management) インタビュー、文・若山あや