今や常識となったが、腸内では、悪玉菌の勢力が優勢になると腸内環境が悪化。それにより便秘や下痢になるだけでなく、カラダ全体の免疫力も低下していく…。

当然悪玉菌は我らの敵! となりがちだけど、果たして体内はそんなに単純? 1000兆個ともいわれる、私たちのカラダに住み着く常在菌との本当に上手な付き合い方を知りたくて、菌のプロフェッショナルたちの元を訪ねてみた。

≪菌と上手に付き合うのが、今必要な予防医学。≫
まずお話を伺ったのが、カラダの入り口「口腔内」のスペシャリスト・鴨井久一先生。

「常在菌はとても利口でしたたかなんですよ。口腔内のフローラも、あらゆる菌が勢力争いをして戦い、必要ないものが排除されていきます。逆に考えれば、善玉菌、悪玉菌、そして日和見菌のバランスは、今のあなたのカラダにとって、なるべくしてなった状態ともいえるのです。ですから、悪玉菌とはいえ、抗生物質などで善玉菌ともども殺してしまっては、バランスが一気に崩れることになり、逆に悪玉菌の増殖を招いてしまう可能性もあります。それより、今ある菌と共生し、良い菌を育てながら、少しずつ菌のバランスを整えていくやり方のほうが、予防医学としては理に適っていると思います」

元々“プロバイオティクス”という言葉は、抗生物質のことである“アンチバイオティクス”に対応する形で、生命を助ける、共生する、という意味から生まれた。

「口腔内の菌の種類、バランスは人それぞれ。最近は唾液検査や抗体価検査などで、その人の菌バランスが分かるシステムが普及してきています。今後は、個々人に合った菌の育て方をアドバイスできるようになるでしょうね」

≪悪玉菌の力を、必要以上に恐るるなかれ。≫
善玉菌も悪玉菌も含めた菌との共存共栄…。なんだか混沌とした人間社会みたいで、細菌たちにもグッと親近感が湧く。

「悪玉菌の悪さも、そんなに怖がらなくていいですよ。本来、肌は善玉菌の働きで自然に美肌を保つようにできているんです。ニキビ、肌荒れ、アレルギーなど、肌のトラブルを引き起こす悪玉菌は、どうしてそんな悪さをしているのか。それぞれの菌の好きな環境、嫌いな環境を知れば、トラブルの仕組みが分かってきます」

肌の菌のスペシャリストの出来尾格先生は、強すぎる清潔志向こそ肌トラブルの元凶になりうる、と現代女性に疑問を投げかける。

「アトピー発症の引き金を引く悪玉菌・黄色ブドウ球菌は、肌だけでなく、地球上至る所にウヨウヨいます。でも、肌に本来の力があれば、悪玉菌に負けないのです」

善玉菌の表皮ブドウ球菌は、人や霊長類の肌にしか存在しない。ちなみに、悪玉菌の黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌は、一見そっくりな見た目をしているそう。人の善悪、表と裏のような関係だ。

◇鴨井久一先生 医学博士、歯学博士。日本歯科大学名誉教授。ヨーロッパで始まった、プロバイオティクスに基づく口腔ケアや予防歯科の理念を、日本で提唱した第一人者。

◇出来尾 格先生 皮膚科医。東京女子医科大学東医療センター皮膚科講師。アクネ菌や表皮ブドウ球菌の肌への良い働きを研究し、効果的なスキンケア製品の開発にも携わる。


※『anan』2016年9月28日号より。イラスト・吉田トキオ  文・板倉ミキコ