奈良県明日香村のキトラ古墳(特別史跡、7世紀末〜8世紀初め)の近くで、実物の極彩色壁画を保存・公開する国内初の施設「キトラ古墳壁画体験館 四神(しじん)の館」が24日、オープンする。壁画の発見から33年。異例の石室からのはぎ取りや修理などの苦難を乗り越え、「安息の地」を得た。危機に瀕(ひん)した遺跡や文化財の保護のあり方を考えるモデルとしても注目されそうだ。

 壁画は、現存する世界最古の本格的な星図とされる「天文図」、中国思想に基づいた方角の守護神「四神」(青竜〈せいりゅう〉、白虎〈びゃっこ〉、朱雀〈すざく〉、玄武〈げんぶ〉)、獣頭人身の「十二支像」などが石室内に描かれた。四神の館では9月24日〜10月23日、白虎と朱雀の壁画とともに、天文図が初めて公開される。

 キトラ古墳の壁画をめぐっては、1983年11月、住民たちが学者とメディアの協力を得て、発掘せずに盗掘穴にファイバースコープ(内視鏡)を通して石室内を調査。住民主導の異例の試みが玄武の発見に結びついた。同じ村内にある「飛鳥美人」の国宝壁画で知られる高松塚古墳(特別史跡、7世紀末〜8世紀初め)に次ぎ、国内2例目の極彩色壁画の発見だった。98年と2001年にもデジタルカメラなどによる調査で次々と壁画を発見した。

 同時に、壁画の描かれた下地の漆喰(しっくい)が崩落寸前に陥るなど深刻な劣化も判明。文化庁は04年、国内初の壁画のはぎ取りを決め、村内の仮設施設で修理を進めてきた。ただ、修理を終えた壁画の保存先については、古墳内での保存技術が確立されていないため、文化庁の有識者会議が09年、「遺跡の現地保存」という文化財保護の原則を転換し、古墳の石室内には戻さず、当面の間は古墳外で保存することに決めた。

 有識者会議委員の経験があり、明日香村文化財顧問の木下正史・東京学芸大名誉教授(考古学)は「現地保存の原則を転換する苦渋の選択をした。だからこそ、キトラ古墳の価値を知ってもらう機会にしなくては」と話す。激動の東アジア情勢の中で「古代の文明開化」を目指し、「日本国」を誕生させたのが飛鳥時代だった。「なぜ壁画が描かれたのか。当時の時代背景の理解も深めて欲しい」