(23日、大相撲秋場所13日目)

 初優勝目前の13日目にきて、豪栄道の首投げが出た。日馬富士に右を差されて攻め込まれていた。俵づたいに後退。もう危ない、と思われたときだった。右腕を横綱の首に巻いてひねり、たたきつけた。「横綱の体を起こし、頭をつけたかったが、させてくれなかった」と顧みる劣勢からの、逆転白星だった。

 大関になってこれまで日馬富士と9番取り、勝ったのは今年の春場所だけ。そのときも首投げだった。よく繰り出す手ながら苦し紛れとも見られ、本人は評価していない。だが、そんなぜいたくはいっていられない。「あまりほめられた技じゃないけど、今日に関しては、よしとします」。上気した顔で自分を許した。

 取組前から熱気が漂った。仕切りで横綱とにらみ合いになった。2人とも行司に促されてやっと塩を取りに向かったほど。「自分から目をそらしたら、やられると思ったので」と豪栄道。日に日に高まる期待の中、硬くならないわけがない。事をなす力士は、いかに早くそれから解き放たれるかだ。もはや緊張のかけらもなく、闘志だけがみなぎっていた。

 また一つ、壁を突き破って、いよいよ大詰め。「まだ何も終わっていない」。大関はこう言い残して車に乗り込んだ。13日目を終え、2差をつけてトップを走る力士が後続に優勝をさらわれた例は、過去にない。(隈部康弘)