◆ 白球つれづれ〜番外編・逃げないドラフト〜

 いよいよ本年度のプロ野球ドラフト会議が間近に迫ってきた。今年の超目玉は大学球界ナンバーワンの呼び声高い田中正義(創価大)。春先は右肩の故障で関係者をひやりとさせたが、秋のシーズンに入って何とか復調。150キロはゆうに超す快速球と鋭い変化球を駆使して完成品の域に近い。「初年度から先発ローテーションに入って2ケタ勝利も夢じゃない」とある在京球団のスカウトも絶賛する通り、5〜6球団が1位指名で競合も予想される。

もっとも今年は特に投手の豊作年と言われている。田中と同等に近い評価を受ける佐々木千隼(桜美林大)や高校ビッグ4と呼ばれる寺島成輝(履正社)、藤平尚真(横浜)、高橋昴也(花咲徳栄)、今井達也(作新学院)らの優秀な人材が目白押し。球団の戦略によっては田中のような複数競合が確実とされる選手を避けて単独指名を狙うこともあり得る。

スカウトたちはドラフト当日まで他球団の動向を探り万が一、競合に敗れたときの次の指名選手を調査。さらには即戦力の獲得に成功の場合と失敗の場合では2巡目以降の指名の仕方までガラリと変わることも珍しくない。まさにドラフトとはスカウトたちの「研究発表会」であり、くじ運一つでチームの将来までが変わる「魔物」との戦いの場でもあるのだ。


◆ 独自のドラフト戦略を支える意思疎通

 こんな中で近年、異彩を放っているのがパ・リーグの覇者、日本ハムのドラフト戦略だろう。何せこの10年余りでダルビッシュ有(現大リーグ・レンジャース)、中田翔、斎藤佑樹、大谷翔平らを指名獲得。かつての不人気球団は北海道移転もあって瞬く間に人気だけでなく強豪チームの仲間入りを果たした。

 この球団の合言葉は「逃げないドラフト」だ。その真骨頂は2011年から12年の作戦に見て取れる。11年は「巨人以外なら浪人」と公言していた菅野智之(当時東海大)を敢然と指名。巨人とのくじ引きに勝って交渉権は手に入れたものの案の定、菅野サイドの意志は固く宣言通りに浪人から翌年の巨人入りにつながった。

さらに翌12年もメジャー志望の意志が固く他球団が指名を避ける中でまたも敢然と大谷翔平を単独指名。難航の予想された交渉は監督・栗山英樹の出馬と「共に二刀流を築いていこう」の殺し文句で入団に結びつけた。その後の大谷の圧倒的な存在感と活躍は説明の必要もないだろう。

仮に大谷の獲得も失敗していたら?他球団ならスカウト部門のトップは責任問題に発展していたかもしれない。ところが日本ハムの場合は、オーナーから球団幹部、スカウトまで「逃げないドラフト」で意思確認がなされているからブレない。まさに「意志あるところに道は通じる」のである。


◆ もう1つの柱

 日本ハムのもう1つの強化方針の柱が「スカウティングと育成で勝つ」戦略だ。大谷獲得の担当スカウトとして尽力した大渕隆(役職名はスカウトディレクター)は、チーム躍進の大きな要因として先を見据えた高校生の獲得を挙げる。

 「スカウトは必ず二軍の試合で使ってくれる高校生を獲ろうと確認している。しかも二軍で頑張ればすぐに一軍に行ける仕組みがあると思うと選手もやりがいがある」。こうして育った選手の代表例が西川遥輝、中島卓也や近藤健介らだ。

一方で生え抜きのベテランたちの流失、退団も目立っている。2012年オフには糸井嘉男がトレード移籍。14年には稲葉篤紀、金子誠が引退、小谷野栄一と大引啓次がFA移籍などだ。これも見方によっては衰えの見えだした高年俸の選手を出すことによって若い芽を育てる一環と言える。


◆ 日本ハムの土壌

 スカウトのトップの大渕が高校教師からの転出という異色の経歴の持ち主なら、ファーム選手たちが暮らす千葉・鎌ヶ谷の「勇翔寮」の責任者は教育ディレクターの本村幸雄。こちらも前職は神奈川・光明学園相模原高の野球部監督だった。

本村もまた人間力の育成に重点を置き各個人の目標設定シートの作成から朝の読書の時間まで設けている。近年は外部から講師を招いて講演も開催、陸上自衛隊の幕僚長や日本舞踊の先生までがやってくるという。

 人としての成長は野球の技術の成長にもつながるという方針の下で強化に余念がない。今では二軍環境に学ぼうと他球団からも視察に訪れる。そういえばこの球団の実質上の現場トップであるチーム統括本部長兼GMの吉村浩もスポーツ紙記者、連盟職員からメジャーにフロント留学という経歴の持ち主だ。

さらに監督の栗山もヤクルトで選手経験はあるが、引退後のスポーツキャスターや白鴎大学で教壇に立つなどいわゆる野球にどっぷりと漬かったタイプではない。ともすれば、経験則が幅を利かせる球界にあって柔軟な発想のできる人材をうまく活用しているからこその躍進だろう。

 ライバルとは一線を画して独自の路線を貫く日本ハムのドラフト。今年もまた「逃げない」方針のもと「当然、田中を指名するでしょう」と担当記者。そして「育てる」ことを意識して高校生に重点を置いた補強策となるか?ドラフト戦線でもこの球団から目が離せない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)