◆ CSファイナルで165キロを計測

 最後まで、2016年のパ・リーグはこの男の独壇場だった。

 札幌ドームで行われたCSファイナル第5戦。この日「3番・指名打者」でスタメン出場の大谷翔平が、最終回に5番手としてマウンドに上がる。160キロ台の直球と150キロ台のフォークボールでソフトバンク打線を寄せつけず、きっちり3人で締めると、チームは4年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。

 自身の持つ日本最速記録を更新する165キロも計測。その直後には、試合中にもかかわらず、バックで守るファーストの中田翔やセンター陽岱鋼らチームメイト達が、「こいつ凄いな…」という表情で思わず苦笑いを浮かべる様子がテレビカメラに捉えられるほど。圧巻の投球内容だった。

 4年目の大谷は、野手としてキャリア最多の104試合に出場。382打席で104安打を放ち、打率.322、22本、67打点、OPS1.004の好成績。さらに投手としても21試合で10勝4敗、防御率1.86、174奪三振を記録し、チームの4年ぶりリーグ優勝に大きく貢献してみせた。

 ソフトバンクと戦ったCSでも、初戦に「8番投手」として先発すると、7回1安打無失点の快投で勝ち投手に。2戦目以降も「3番・指名打者」でスタメン出場を続け、3勝2敗で迎えた最終第5戦では前述の通り、3点リードの最終回に指名打者からクローザーとして登場し、プロ初セーブを記録。

 これにより、大谷が投手と打者の“二刀流”で出場した試合のチームは、ペナントとポストシーズンを合わせて「計9戦全勝」。まさに獅子奮迅の活躍である。


◆ 5月以降に本領発揮

 今季は序盤こそ勝ち星に恵まれなかったものの、5月1日のロッテ戦で初勝利を挙げると、5月中旬から7戦7勝を記録。

 7月3日のソフトバンク戦(ヤフオクD)では「1番・投手」として先発出場すると、プレイボール直後の初球を右中間スタンドに叩き込む初球先頭打者の離れ業。7月10日のロッテ戦では右手中指のまめを潰して、先発復帰まで2カ月近くかかってしまったが、その間は打者としてしっかりチームを牽引し、シーズン終盤には再びエースとして戻って来た。

 昨年までは否定的意見も多かった“二刀流”論争にも、ひとまず圧倒的な結果で自らピリオドを打った形だ。


 少し気は早いが、大谷は高卒4年目・22歳のシーズンでのMVP受賞も濃厚だろう。ドラフト制導入以降の最年少MVPは94年・イチロー(オリックス)と07年・ダルビッシュ有(日本ハム)の「高卒3年目」という記録が残っているが、もし大谷が受賞となれば、96年・松井秀喜(巨人)の「高卒4年目」と並ぶことになる。

 ちなみに、過去の“高卒4年目野手と”いう観点で見たら、「野手・大谷」に最も近いのは77年の掛布雅之(阪神)だろう。この年、4年目を迎えた掛布は103試合で打率.331、23本塁打、69打点、OPS.986と今年の大谷と非常に近い打撃成績を残している。

 投手として165キロを計測するエースであり、打っては掛布クラス。そしてゴジラ松井と同じく高卒4年目のMVPプレーヤーへ...。それが、2016年の大谷翔平である。


◆ 気になる大谷の年俸

 ここまで凄まじい活躍をすると、気になるのが“年俸”だ。

 1500万円でスタートした大谷の年俸は、現在2億円。来季は倍増以上の大幅アップが予想されるが、過去の例を見てもNPB球団が抱えられる限度額は6〜7億円のラインだろう。

 今季の球界最高年俸は黒田博樹(広島)で6億円+出来高。阿部慎之助(巨人)の最高年俸時も黒田と同じく6億円。04〜05年の佐々木主浩(横浜)は6億5000万円。松井秀喜も日本時代の最高年俸は6億1000万円(02年)である。

 イチローやダルビッシュは年俸5億円を超えると、その存在が名実ともに所属球団の枠に収まりきれなくなり、ポスティング制度でMLBへと移籍して行った。果たして、日本の野球ファンはあと何年、大谷という稀有な才能をNPBの舞台で見ることができるのだろうか?

 いつの時代も、天才とは一種の儚さとともに存在する。いつまで続くか分からない奇跡のような時間。通算756号本塁打を放った「1977年の王貞治」、130試合制で年間210安打を記録した「1994年のイチロー」、シーズン24連勝でチームを日本一に導いた「2013年の田中将大」と同じように、「2016年の大谷翔平」は数十年後も日本球界の伝説として語り継がれることだろう。

(※金額はすべて推定)


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)