アリーナスポーツや年末のカウントダウンコンサートなど、日本のエンターテイメント界にとってなくてはならない存在でもある東京都渋谷区の国立代々木競技場が、2017年7月2日から休館に入るのをご存知だろうか。

 代々木競技場第一体育館は、2020年東京オリンピックのハンドボール、東京パラリンピックのウェルチェアラグビーと車いすバドミントンの会場として使用される予定だ。もっとも、オリンピック、パラリンピックの会場として使用する場合、その建物は最新の耐震基準を満たす必要がある。そのため、建築後53年を経過し、新基準への対応を迫られた代々木競技場は、外観のデザインを変更せず、柱の補強など約22カ月の改修工事を経て、2回目のオリンピック会場へと生まれ変わることとなる。

 この代々木競技場の歴史を紐解くと、1964年東京オリンピック開催までさかのぼり、日本の有望な競技であった水泳を行う大水泳場が必要とされたことで建設された。「ちょっと待って、水泳場?」と思う方もいると思うが、この起源に間違いはなく、第一体育館は競泳と飛び込みの会場として整備された。

 現在、その面影を感じるのは難しいが、ステージを支える体育館の床下には競泳用と飛び込み用の2つのプールがいまだに残っており、これらプールに鉄骨を渡し、上部に木のパネルを貼ってアリーナとして活用している。

 このアリーナ建設にあたっては大変な苦労があったと聞く。当時、都内の利便性の高い土地は、在日アメリカ軍に接収されており、競技場建設予定地の確保に長い月日を費やすこととなった。オリンピック開幕まで約1年半に迫ったタイミングでようやく着工し、日本でも有数の建築家、丹下健三氏の設計の下、わずか38カ月で完成に至るという、高度成長期の勢いを感じさせるエピソードも有名な話である。

 当時、世界でも例の少ない『吊り屋根方式』を用いて建設された第一体育館の魅力は、この手法が可能とした一体的な巨大空間だ。この吊り屋根は、大きな2本の支柱の間に全長280メートルのメインケーブルを2本渡して屋根を支えている。さらにそのケーブルの両端は地中へと伸び、屋根を引っ張りあげ、メインケーブルに梁を渡して鋼板を張るという独特な建築工法だ。

 代々木競技場を運営する独立行政法人日本スポーツ振興センター国立競技場運営調整課の畠野麻妃子さんはこう語る。「何といっても、第一体育館の魅力は、独特の吊り屋根と天井に並ぶ照明の美しさですね。いつアリーナに入っても、天井を見あげてはうっとりとしてしまいます」

 一般的にはバレーボール、バスケットボールなどの競技やライブコンサートなど、箱の中で実施されるイベントに注目するため、“造形美”には目を向けないと思うが、歴史的建造物の美しさを改めて確認するのも良いだろう。

 また、第一体育館の魅力はそれだけではない。あまり知られていないが、南ロビーと北ロビーには、彫刻家の岡本太郎氏がスポーツをモチーフに創作した作品を展示している(大きすぎて気がつかない人も多いと聞く)。イベントの開演時間に余裕を持って来場し、ゆっくりと鑑賞するのもオススメだ。

 1964年のオリンピック直後は、一般開放されてプールやスケート場として利用された第一体育館。今では様々なスポーツや文化の中心として年間約320日間の稼働と、まさに大車輪の活躍で、平日や週末を問わずに人々の余暇を支えている。

『世界の名建築100選』に選ばれた第一体育館はバスケットボール界でも、2016年9月22日のBリーグ開幕戦において、LEDコートや華々しい演出による新たな幕開けの舞台として関心を集めた。また、同時に改修作業が行われる第二体育館はバスケットボール界の“聖地”と呼ばれ、これまで天皇杯・皇后杯全日本総合バスケットボール選手権大会(オールジャパン)をはじめ、海外のナショナルチームを招致したキリンカップ・バスケットボールや、長い歴史を持つ早稲田大学vs慶應義塾大学の“早慶戦”などが開催され、数々の名勝負が繰り広げられた。だが、7月以降に代々木競技場でエンターテイメントを楽しむ機会がしばらく巡ってこないと思うと、寂しさを感じずにはいられない。

 そんな想いを持つ方に朗報がある。1月14日に第一体育館で行われる「B.LEAGUE EAST ASIA CLUB CHAMPIONSHIP〜日韓クラブ頂上決戦!〜」は、まだチケットに余裕があるそうだ。この機会に川崎ブレイブサンダースと安養KGCの試合を楽しみながら、日本が世界に誇るアリーナをゆっくりと堪能してはいかがだろうか。

文=村上成
写真=独立行政法人日本スポーツ振興センター