学習塾で講師をしているAさんという知人がいます。コーチングにも熱心に取り組んでいて、子どもたちに対する愛情にも半端ないものを感じさせる熱い先生です。教育に向かう真摯な姿勢に、「Aさんと出会える子どもたちはなんて幸せなんだろう」と思わずにはいられません。「この誠実で情熱的な姿勢はどう育まれたのだろう?」と折々に思っていたところ、先日、Aさんから、「母が私にずっと言ってくれていた言葉が三つあります」というお話をうかがうことができました。
「なるほど!そういうことだったのか!」とたいへん感動しましたので、ご本人の許可をいただいて、ご紹介します。

母から言われ続けた三つの言葉

「一つ目は、私が生まれてきた時の話です。『生まれてすぐ、タオルにくるまったあんたを見て、この子は大物になるって言われたんよ』と母。『誰に言われたの?』と聞くと、『黒い服を着た占い師みたいな人!』。今思うと、どこをどう判断してそう思ったのか、そのかたに聞いてみたくて仕方がないですが、その言葉にどれだけ支えられたかと思います。」

「二つ目は、『あんた、おもしろいね』という言葉です。小学生時代、仕事をしていた母でしたが、私と話す時間を毎日のようにとってくれていました。そして、私が話すたびに、母はとにかくよく笑ってくれたのです。当時の私にとっては、それが嬉しくて仕方ありませんでした。母が何度も『あんたって本当におもしろいね』と言ってくれるものですから、つい勘違いをしてしまいました。『僕はおもしろい』と。それから学校でも、ウケを狙うようになってしまいました。そんな私に対して、親友のほうが、ひと言しゃべれば、どっかんどっかんウケていて、悔しい思いを何度もしました。「ウケを狙う」ということについては、どんなに失敗してもあきらめなかったと思います。6年生の時、クラスで一番おもしろい人に選ばれた時は、あまりの嬉しさにランキングが書かれた黒板をずっと見つめていました。
笑いは、人づきあいが苦手だった私に大きなきっかけをくれました。人前に出ること。友達に話しかけること。チャレンジすること。失敗してもあきらめないこと。これらを学べたのは、『あんたって本当におもしろいね』と言ってくれた母のおかげです。」

「そして、三つ目は、『大好きだよ』という言葉です。幼少期、何の前触れもなく『大好きだよ』とストレートに言ってくる母親の姿が今でも鮮明に思い出されます。『勉強しなさい』と口酸っぱく言ってくる母親に対して、けんかも絶えませんでしたが、突然言ってくる『大好きだよ』の言葉があったからこそ、『ちゃんと愛されている。僕は大丈夫』と思えました。たった一人でいいんです。『大好きだよ』って無条件に愛情を注いでくれる人の存在があれば、その子はまっすぐ育つんです。これだけは言い切れます。ふだん、いろんな心配もあるかと思います。言うことを聞かないとか、落ち着きがないとか。けれど、お子さまのことを一番思っているのがお母さん、お父さんです。テストで良い点をとろうが、悪い点をとろうが、そういうのとは全く関係のない時にこそ、『大好きだよ』ってぜひ伝えてあげてほしいのです。」

お母さんの言葉は魔法の言葉

「お母さんの言葉は、子どもにとっては魔法の言葉です。私は、母のおかげで、『僕は、ちゃんと愛されていて、おもしろくて、将来大物になるかも』と思えました。お母さんの言葉が、その子の自信を作るのだと実感しています。」

Aさんのお話から、いかに、お母さんの言葉が、Aさんの自己肯定感や生き方に影響を与えてきたのかということを実感させられました。日々の言葉かけは、本当に大切だなと思います。Aさん、貴重なお話をありがとうございました。

(筆者:石川尚子)