新聞・放送・出版などのメディア関係者で作る「マスコミ倫理懇談会全国協議会」の全国大会が9月29日と30日、福岡市内のホテルで開かれた。初日の全体会議では、放送倫理・番組向上機構(BPO)の浜田純一理事長が「憲法とメディア〜何をどう論じるべきか」と題して講演。「憲法改正の議論が大きな流れになってきている」としたうえで、「新聞やテレビなどのマスメディアには、憲法改正に関する全体的な見取り図を示すとともに、憲法のあり方についてのメッセージを積極的に発信していってほしい」と要望した。(亀松太郎)

●「議論の両極化」を回避する環境作りが求められる

浜田理事長は、メディア法・情報法の専門家で、東大教授や東大社会情報研究所長を経て、2009年4月から2015年3月まで東大総長を務めた経歴をもつ。15年4月、BPO理事長に就任した。

日本国憲法が公布されて、今年で70年。国会では憲法改正を志向する政党の議員数が3分の2を超え、憲法改正の現実味がかつてないほど高まっている。

そのような状況を受け、浜田理事長は「平和主義や基本的人権の尊重といった憲法に定められた理念が、実際にどういう役割を果たしてきたか、人々の意識の中にどう定着してきたのかを、真正面から見つめ直す時代になってきている」と述べ、「メディアの役割として、いろいろな考え方を互いにしっかり議論できる環境を作っていくことがとても大事だ」と報道関係者に語りかけた。

インターネットが普及した現在の情報社会については、一般の国民、特に若者の間で、情報に対する「選択的な接触」の傾向が強まっていると指摘。「いまのネット時代は、自分が見たい情報、知りたい情報を選択的に入手できる。つまり、自分が嫌いな意見は見なくていい。そういうメディアが強くなっている中で、伝統的なマスメディアには、議論が両極化してしまうことを回避し、互いに議論が交差するような環境を作っていくことが求められている」と話した。

●個々のファクトだけでなく「全体の見取り図」を示してほしい

そのうえで浜田理事長は、新聞やテレビなどの伝統的メディアに期待したいこととして、憲法改正の争点に関する「全体的な見取り図」の提示をあげた。

「さまざまな発言や事件などのファクトを伝えることはとても大切だが、それだけでなく、そのようなファクトが集まるとどういう全体像を作っていくのかが重要」「いまはどちらかと言えば、全体的な見取り図を作ることが読者・視聴者にまかされているところがあり、メディアは謙抑的といえる。しかし、マスメディアだからこそできる全体的な分析をもっと読者・視聴者に見せていってほしい。そういうことがないと、憲法改正のような大きな問題は考えるのが難しいだろう」

ただ、憲法改正という大きなテーマとなると、報道する立場の記者にとっても「全体的な見取り図」を示すことは、そう簡単ではない。そこで、浜田理事長は「記者の個人的な資質に頼るのではなく、メディアが本格的な組織体制をとって、憲法改正に関わる基礎概念や理念にさかのぼって考えることが求められる時代になっているように思う」と、新聞社やテレビ局が組織全体で憲法改正というテーマに取り組むことを提案した。

その際には、憲法の個々の条文の議論にとどまるのではなく、「これからの社会のあり方を考える」という将来的な視点も大切だと指摘。「憲法改正の問題になると、どうしてもピンポイントの議論になりがちだが、これからの社会のあり方をどう考えていくかということとセットで考えるべきだ」と述べた。

●メディアは「表現者」としての主体性をもっと果たしていい

もう一つ、浜田理事長が新聞やテレビなどのメディア関係者に呼びかけたのが、憲法のあり方や今後の社会のあり方についての「積極的なメッセージ」をもっと発信してほしいということだ。

浜田理事長は「メディアというのは自分たちの考え方を述べるときに外部に頼りすぎる印象がある」としたうえで、「これが憲法のあり方として正しいと考えるならば、それをもう少しストレートに出してもかまわないと思う」と話した。

「新聞・放送などのメディアの原点としてのジャーナリズムの姿勢が、以前に比べると少し弱っている。メディアが本来のジャーナリズムとして、権力を批判したり、社会のいろいろな課題を見つけ出していったり、次の時代をしっかり描いていく。そういう『表現する者』としての主体性を、メディアはもっと果たしていっていいのではないか」

(弁護士ドットコムニュース)