「デジタル遺品」という言葉が広まりつつある。病気や事故で亡くなった人のパソコンやスマホなどに残されたデジタルデータのことだ。最近、このデジタル遺品をめぐるトラブルが増えているという。

たとえば、夫が急死したので、自宅で使用していたパソコンを開けようとしたが、パスワードがかかっていて中身を確認できない。ITに詳しい知人の手を借りて、ようやくパソコンの中身を見てみたら、そこには妻の知らない「愛人との写真」が残されていたーー。そんな事態が起きている。

死はすべての人に訪れる。それは、いつやってくるか分からない。不幸にして、30代や40代で急逝する人もいる。自分が亡くなったとき、家族が困惑しないように「デジタル終活」を勧める声もある。では、どうすればいいのだろうか。

●亡き夫の「不倫ノート」にショックを受けた妻

「故人のパソコンに残されていた『不倫ノート』には驚かされました」

こう話すのは、「『デジタル遺品』が危ない そのパソコン遺して逝けますか?」(ポプラ新書)の著者、萩原栄幸さんだ。

萩原さんは、日本セキュリティ・マネジメント学会の理事を務める情報セキュリティの専門家。デジタル遺品の扱いに困った遺族から相談を受けることも多い。なかでも印象に残っているのは、夫に先立たれた60代の妻の要望で、故人のパソコンにアクセスしたときの経験だ。

マジメな人柄だったという男性のパソコンには、さまざまなデータがフォルダごとに整理されていた。その中に「シークレット」というフォルダがあった。萩原さんは「男性が秘密にしたいことなのだろう」と触れずにいたが、妻が好奇心から開いてみると、そこには夫が愛人と一緒に旅行したときの写真やメモがおさめられていたのだ。

この「不倫ノート」にショックを受けた妻は、2週間も寝込んでしまったという。

「決して不倫をすすめるつもりはありませんが、このような秘密は文字通り『墓場まで持っていく』覚悟と責任を持つべきだと、私は思っています」

萩原さんは著書の中でそう記している。

「誰にでも家族に知らせたくない秘密があるものです。そういう秘密を墓場まで持っていくために、自分が死んだらパソコンからデータを消去してくれるツールもあるのです」と、萩原さんは説明する。

たとえば「僕が死んだら」という遺言ソフトがあるという。

「遺族がノートパソコンを開けると、真ん中に『僕が死んだら』というアイコンがあって、それをダブルクリックすると、故人の遺言状が表示されます。それと同時に、あらかじめ故人が指定したフォルダやファイルをパソコンから削除するという仕掛けになっています」

●デジタル遺品の棚卸しで「隠したいデータ」を見極める

自分が死んだときのことを考えて、パソコンやスマホのデータを整理する「デジタル終活」。具体的には、どのように進めればいいのだろうか。

相続問題を専門に扱い、デジタル終活のセミナーも開いている伊勢田篤史弁護士は「パソコンやスマホに入っているデータを『棚卸し』してみるのが、第一歩ですね」と話す。

伊勢田弁護士のセミナーでは、受講者に自分のスマホやノートパソコンを持参してもらい、その場で「隠したいデータ」と「残したいデータ」に分けて、紙に書き出す作業をしてもらう。これが「デジタル遺品の棚卸し」だ。

隠したいデータとしては、「不倫相手とのメールや写真」「家族に知られたくない自分の裏の顔が分かる日記」などがある。一方、残したいデータとしてあげられるのは、「ビジネス関係の資料」や「インターネット証券口座」「ブログやホームページのID・パスワード」だ。

「どんなデータを『隠したい』と思うかは、人によってそれぞれです。ある女性は『エクセルで管理している体重の記録は、旦那には死んでも見られたくない』と話していました」(伊勢田弁護士)

デジタル遺品の棚卸しで大切なのは、パソコンやスマホに存在する全データを整理しようと思わないことだ。

「めぼしいものに絞って棚卸しをするのが、ポイントです。私も一度、全データを棚卸ししようと思ったことがありますが、5分であきらめました(笑)」と、伊勢田弁護士は自らの体験をもとにアドバイスする。

●ネットバンキングの情報は「エンディングノート」に

棚卸しをした結果、自分の死後も「残したいデータ」については、家族のためにエンディングノートに記しておくのが望ましい。「デジタル終活」の重要性を説く萩原さんは「成人式をすぎたら、1年に1回、エンディングノートを書くことをお勧めしています」と述べる。

「どんなに若くても、事故などで急死する可能性があります。残された家族のために、せめて、自分のパソコンやスマホの起動に必要な情報と、ネットバンキングや証券会社のIDとパスワードを書いておくのが大事です」

伊勢田弁護士も「終活というと、とっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、パソコン・スマホという身近なところから、幅広い世代の方々に『自分にもしも何かあったら・・・』ということを考えていただければと思います」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)