OECD(経済協力開発機構)は7月、新基準(A System of Health Accounts 2011)に基づき、加盟国の保健医療支出(対GDP)など保健医療関係の最新データを公表したが、最近その内容が話題となっている。OECDの「保健医療支出」は、「国民医療費」に、介護保険にかかる費用のほか、健康診査や市販薬の売上等の費用を加えた概念。

 その理由は、以下の図表の通り、2015年の日本の保健医療支出(対GDP)は11.2%だが、それはOECD加盟35カ国中3位(アメリカ、スイスに次ぐ)であったからである。

 旧基準(A System of Health Accounts 1.0)で日本は、近年10位前後で推移し、たとえば14年の日本は10.1%でOECD加盟35カ国中10位(アメリカ、オランダ、スイス、スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク、ベルギー、カナダに次ぐ)であったが、新基準では、「高福祉国家」の象徴であるオランダ・スウェーデン・デンマーク等よりも上位に順位が急上昇した。

 厚生労働省は、財務省との予算折衝などにおいて医療予算の増額要求を行うとき、高齢化の進展にもかかわらず、日本の医療費が先進国のなかで低水準かつ効率的である根拠として、保健医療支出(対GDP)の国際比較を利用してきたが、新基準では、その根拠が低下する可能性を示している。

 なお、マスコミ等の報道をみる限り、15年の順位のみに関心が集まっているが、2011年から13年の間、新基準ではOECD加盟35カ国中2位(アメリカに次ぐ)であったことを指摘するものが皆無なのは不思議である。

 歴史的にアメリカの医療は原則的に自由診療であり特殊なので、アメリカを除けば2011年から13年の間、日本はOECD加盟国34カ国中1位であったことを意味する。

 日本の保健医療システムは、1961年に達成した「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」という理念の下、最近まで比較的少ない負担で質の高い保健医療サービスを提供してきたことは事実だが、高齢化で医療費が伸びるのは避けがたく、団塊の世代がすべて75歳以上になる25年に向けて、抜本的な改革が不可欠であることを示唆する。
 
●日本の順位が急上昇の要因

 ところで、今回の基準変更は、長期医療サービスの定義や境界が曖昧で不透明であったことに対応するもので、新基準では、長期医療サービスに「医療の有資格者が提供するサービス」のほか、「ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)に関するサービス」等が加わった。

 その際、日本の介護保険にかかる費用では、旧基準では含まれなかった38サービス(例:「通所介護」「訪問入浴介護」「認知症向けの生活介護」等)が含まれることになり、それが15年の比較で日本の順位が急上昇した大きな要因である。

 新基準に基づく公表は今回が初めてで、日本を含む各国の医療・介護制度は極めて複雑かつ多様であり、新基準で加算するべき他の国の介護関係コスト等に見落としがあれば、今後順位が変わる可能性も十分にあり得る。

 このため、各国の数値は慎重に評価する必要があるが、今後、日本の保健医療支出(対GDP)が上位を占める場合、財政赤字が恒常化して債務残高(対GDP)が200%を超えるなか、社会保障の給付と負担のバランスのあり方を含め、それは我々に重い宿題を突きつけることになるはずだ。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)