筆者は2年前に『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(KADOKAWA/中経出版)という本を上梓した。実は同書で取り上げなかったおもしろい話がある。

 それは、世界で一番高価といわれているインドネシア産のコーヒー「コピ・ルアク」だ。映画『最高の人生の見つけ方』(2008年公開)で、ジャック・ニコルソン演じる大富豪が愛飲するコーヒーとして登場するので、ご存じの方もおられるだろう。

 このコーヒー、ジャコウネコの糞から生まれたものなのだ。

「コーヒー豆」は「豆」ではなく果実の「種」だ。コーヒーノキという植物の果実から、果肉を取り除いた種の部分が、いわゆるコーヒー豆と呼ばれている。これを熱にかけて焙煎すると、香ばしい香りを放つあの褐色のコーヒー豆に変わる。

 通常は、この果肉を取り除くために、水で洗ったり空気で乾燥させたりするが、コピ・ルアクは異なる方法で果肉を除去している。

 インドネシアのコーヒー農園では、野生のジャコウネコがコーヒーの果実を餌として食べることがある。ジャコウネコの体内で果肉部分は消化され、種の部分が消化されず糞として排泄される。その糞を探し出し、綺麗に洗浄して乾燥させ、焙煎したのが、このコピ・ルアクというコーヒーなのだ。ジャコウネコの腸内の消化酵素や腸内細菌でコーヒー豆が発酵し、コーヒーに独特の香味が加わるといわれている。

 かくいう筆者も、試しにコピ・ルアクを飲んだことがある。人によって好みが分かれる味だった。

 インターネットで「コピ・ルアク」を検索すると、非常に高価格で販売されていることに驚いてしまう。海外では1ポンド(約450g)でなんと300〜500ドル(約3万〜5万2000円)という高値で販売されている。

●商品の価値を決めるのは、つくり手ではない

 このコピ・ルアクは、どのようにして生まれたのだろうか。

『コーヒーの歴史』(河出書房新社/マーク・ペンダーグラスト)という有史以来のコーヒーの歴史をまとめた分厚い本に、このコピ・ルアクのことが書かれている。

「そもそもジョン・マルティネスがコピ・ルアークを売り始めたのは、主に『私の売っているジャマイカ産ブルー・マウンテンの1ポンド40ドルという値段が、そう法外なものではないことを知ってもらう』ためだった。その努力に対して、彼は『イグ・ノーベル栄養賞』を授与された」(同書p.470より引用)

 イグ・ノーベル賞とは、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるノーベル賞のパロディーだ。あのドクター中松氏も受賞している。

 しかし、こうして売り出されたコーヒーが、皮肉なことに一部の顧客から希少性を高く評価され、世界でもっとも高値で取引されるコーヒーとなったのである。

 さて、世の中では「これは素晴らしい商品だ」と考えて、情熱とヒト・モノ・カネをかけて開発し、販売にも注力した商品が、なかなか顧客に評価されないことがよくある。このような経験をすると、コピ・ルアクの成功はまぶしく見える。

 しかし一方で、世の中にたくさんある「売れると思ったけど売れない商品」とコピ・ルアクには、共通する点がある。

 それは、「商品の価値を決めるのは、つくり手ではなく、顧客である」ということだ。

 顧客は、決して思う通りにはならない。だからこそ私たちは、自分たちで「お客様が買う理由」を考え抜くだけでなく、その「お客様が買う理由」が正しいのかを、実際にリアルなお客様で検証し、謙虚にお客様から学び続けなければならないと、このコピ・ルアクのエピソードが教えてくれる。
(文=永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表)