電力小売り全面自由化が実施されてから、半年が経過した。この間、検針データの誤りやスマートメーターの設置遅延など東京電力の不祥事ばかりが目立った。なぜ、こんなにスマートメーターの設置が遅れたのか。東電グループの送配電事業会社である東京電力パワーグリッドの広報担当者は、「スイッチング(電力自由化による、契約先電力会社の切り替え)が当初の想定を大幅に超え、工事力を確保できなかった」と話す。

 メーター設置の遅延よりも深刻だったのは、システムトラブルで検針データが新電力に正確に送信されなかったり、電気使用量の確定通知が遅延したことだ。同社は6月に政府から業務改善勧告を受けている。前出・広報担当者は「1000人規模態勢で託送システムの改善にあたり、2週間に1回検証している」と話す。

 東電のシステムトラブルには新電力も迷惑しており、ある新電力の担当者はこう話す。

「お客様から、『電気使用量は月300kWhぐらいのはずだが、10倍の3000kWhで請求が来た』とクレームを受けた。請求額は約7万円で、普通に生活していてそんなに電気を使うはずがない。調べてみると、東電のデータが間違っていた。誤ったデータによる誤請求で、本来は必要のないクレームが当社のコールセンターに来るので、対応せざるを得ない。こうした事例はたくさんあるわけではないが、東電関係者のなかには『参入した側にも責任がある』と開き直る人もいる」

●スイッチング2%強、これをどう見るか

 電力広域的運営推進機関の発表によれば、全国のスイッチング件数は、7月末時点で147万を超えた。6260万世帯に占める割合は2%強である。そのうち、87万件と全体の半分以上が東電エリアで、その次が関電エリアの29万9000件だ。

 この2%という数字を、専門家はどうみているのか。みずほ総合研究所主席コンサルタントの宮澤元氏はこう話す。

「数字は想定どおり。大手電力が対抗策を取っているなかで、十分大きな数字だ。今年限りではなく、累積なので、例えば毎年1%ずつ動けば、10年で10%切り替わる。海外でもドイツやフランスのように穏やかに変わっていったケースもある」

 電力比較サイト「エネチェンジ」の巻口守男副社長は、スイッチングの内容を詳細にみる必要があると指摘する。

「2%強というのは、大手電力から新電力に契約を切り替えた人の数字。東電が発表した自由化新メニュー・料金プランへの切り替えが入っていない。『東電→東電新プラン』とか、『関電→関電新プラン』といった切り替えが171万件ある。つまり、電力自由化のなかで新しいプランに切り替えたユーザーは318万件で、全体の約5%になる」

 メディアは大手から新電力への移動ばかりに注目しているが、ユーザーは自分のライフスタイルに合うプランを探しているのであって、必ずしもそれが新電力とは限らない。そう考えれば、巻口氏の指摘する数字こそがスイッチングの実態を表した数字といえる。

 実際、自由化への対応で東電が打ち出した新プランは、関西エリアで強い競争力があると巻口氏は話す。

「当社サイトユーザーのスイッチング先の順位だと、近畿地方で5〜7月はトップがループで、2位が東電、3位はミツウロコだった。当社ユーザー以外のスイッチングに関してはわからないが、東電はがんばっているといえる」

 宮澤氏が言うように、大手の対抗策がある程度功を奏しているのは確かなようだ。現在のところ、電力自由化の主戦場になっているのは関東だ。東京電力ホールディングスが7月末に発表した16年度第1四半期(4〜6月)決算によれば、前年同期比で販売電力量が約23億kWh減少し、これにより約440億円の減収になったとある。

 自由化の影響があったものと窺えるが、同社広報担当者はこう話す。

「販売電力量は天候にも左右される。当社も全国で小売事業を展開しているので、プラスもマイナスもある。今の時点で、自由化の影響を評価するのは難しい。なお、自由化後に当社から他社に切り替わった顧客数や新たな獲得件数などについて、実数は公表していない」

●「基本料金0円」が人気、新電力でも明暗

 300社以上が小売業者として登録した新電力。自由化から6カ月がたって、少しずつ明暗が分かれてきた。東京ガスは7月末までに初年度目標40万件の契約を達成し、目標を53万件に引き上げた。大阪ガスも17万件を超えており、両社ともガス機器の販売員が家庭を1軒ずつ訪問して営業している。長年築いてきた強固な販売網を生かしたかたちだ。

 東京急行電鉄系の東急パワーサプライも好調だ。7月20日現在、5万2000件を獲得した。鉄道や商業施設などグループ内各種サービスとの連携がうまくいっている。同社広報担当者はこう話す。

「当グループにとって、電力は第2の公益事業で、短期的利益を求めるものではありません。また、沿線価値の向上が事業の目的です。今年度は10万件を目標としており、10年後には沿線250万世帯のうち55万世帯に契約していただくのが目標です」

 新電力は大手資本をバックに持つ会社も多いが、ベンチャーで健闘しているのはLooop(ループ)だ。同社は東日本大震災の被災地に太陽光パネルを設置するボランティア活動をきっかけに誕生し、自作できる太陽光発電キットの販売で業績を伸ばしてきた。電力小売り事業に参入し、3月11日に申し込み受付を開始。今年度目標の2万件を7月末に突破した。約75%は東電エリアだ。企画開発部の小嶋祐輔部長は、好調の理由をこう分析する。

「基本料金0円、均一従量料金というわかりやすい料金プランが好評です。今は、法人向けに大手の値下げ攻勢がすごいので、対抗策を検討しているところです。本格的な戦いはこれからです」

 同社は販売エリアをこれまでの東電、中部、関電の3エリアに加え、東北、九州、北海道、中国の4エリアでも9月から順次拡大する。今年度の売上は200億円以上を見込んでおり、15年度の116億円から倍増しそうだ。

 好調な新電力がある一方で、苦戦が伝えられるのは通信系だ。ある通信系の新電力はこう話す。

「切り替えには、検針票に記載の情報が必要ですが、ショップに検針票を持ってくるお客様はほとんどいません。一旦自宅に戻って、再度手続きのために来店するのは手間なようです。また、一般的に電気使用量の多くないお客様は値引きが小さくなるので、値引きされる額が手間に見合わないと感じているのかもしれません」

 電力自由化の今後について、エネチェンジの巻口氏はこう期待を話す。

「ユーザーもまだ、どのくらい電気代が安くなったのか実感できないのかもしれません。自由化のメリットが自覚できればSNS等で情報発信するし、口コミが効いてくるでしょう」

 みずほ総研の宮澤氏は、リーダー格になるような新電力の登場が期待されていると話す。

「どの産業もそうですが、市場を開放したら、マーケットを取っていくなかで再編が進む。ただ、大手がすべて食ってしまうようでは元も子もない」

 自由化前、大手電力会社の電気代は総括原価方式で決められていた。経営努力もどの程度あったのかわかりづらかった。しかし、少なくとも今は、新しい電気料金プランを出すなど、ユーザーを引き止めておこうという姿勢が見られる。大手を必死にさせたのも自由化のメリットではないか。

 ユーザーのエネルギーに関するリテラシーがどの程度高まるか、そして、電力会社は料金プランだけでなく、どんな独自色が出せるか。新しい勢力図はそこにかかっている。
(文=横山渉/ジャーナリスト)