●タクシー業界に旋風を巻き起こすウーバー

 タクシー業界というと、景気のあおりを真っ先に受ける業界の一つとして知られている。調べてみると、国内のタクシー台数総数はピークの2007年には法人個人合わせて26万7000台あったが、14年には22万8000台と、わずか7年で15%減少している。売り上げでみても、同期間に2兆700億円から1兆7000億円と18%減少し、台数の減少以上の縮小速度だ。タクシー業界もまた、市場の縮小に伴い競争が激化する市場の一つといってもよいだろう。

 ただでさえ厳しい状況に置かれる日本のタクシー業界であるが、追い打ちをかけるように新たな脅威が海外から上陸した。スマホでハイヤーを呼べる配車サービス、「Uber(ウーバー)」である。アメリカ発のこのサービス、海外、とくにアメリカでは猛烈な拡大を続けている。09年創業であるが、売上がすでに1兆円を超えたようだし、企業の時価総額では15年末にはGMやホンダを抜いたというから驚きだ。

 日本ではタクシー業界の強い反対もあり、今のところ参入が限定的であるが、イノベーションに目がない筆者としては見過ごすわけにはいかない。

 そこで、このたび、アメリカ出張を利用して、今さらではあるが現地でウーバーを使ってみることとした。出張先のロサンゼルスで、実際にウーバーに乗ってみたのだ。

 結論からいうと、予想をはるかに超えた優れたサービスだった。近い将来、ものすごい勢いで世の中を変えてしまう可能性も強く感じた。いろいろと思うところがあったので、今回はウーバーについて書いてみたい。

●使い方は簡単

 ウーバーを使うには、まずはスマートフォン(スマホ)などでアプリをダウンロードする必要がある。これは非常に簡単。もちろんアプリは日本語で、ダウンロードはすぐ終わる。その後、会員登録するだけで準備完了。

 さっそく、ロサンゼルス国際空港に到着するなりスマホを開き、ウーバーアプリを立ち上げてみた。

 すると、画面に表示された地図上に、自分がいる位置が「出発地」として正確に表示される。やるべきことは、目的地の住所を入力し、配車依頼のボタンを押すだけ。その間、30秒。するとあっという間に配車が完了し、「あと8分で到着します」とアプリ画面に表示された。

 アプリの地図上には、自分のいる位置と、迎えに来る車の位置がリアルタイム表示される。加えて、ドライバーの名前と写真、これまでのユーザー評価(5点満点のスコア)、車の写真と番号が表示される。常に「あと●分で到着」と表示されるため、「あとどのくらい待つのか」というストレスはない。

 たとえば、「運転手のマリア(写真付き)が、グレーのホンダで、8分後に迎えに来る」ということがわかるうえ、目的地までのルート、距離、時間、料金見積もりを見ることができる。

 車は時間通りに待ち合わせ場所に到着し、そのまま乗り込む。今回の運転手は、エルサルバドル出身の50代の女性で、過去の利用者の評価は5点満点中4.8点。20年前にアメリカに出稼ぎに来て、そのままロスに住んでいるという。最近失業したのでウーバーの運転手に登録したとのこと。つまり、完全に一般の女性だし、車両は彼女所有の一般車だ。

 乗車すると、さっそく出発。行き先は配車時に知らせてあるので、説明する必要はない。スマホのナビに従い最適ルートで運転してくれるので、こちらも安心だ。

 30マイル(約48キロ)を40分で走り、料金は38ドル。同じ時間に同じ経路を一般のタクシーで移動した同僚は、チップも含めて100ドルかかったことから考えると、かなりのお得感だ。また、事前に登録してあるクレジットカードから引き落とされるので、到着後の支払い(現金の授受やカード精算)も必要なく、すぐに降りられる。料金にはチップも含まれているので心配ない。日本と違い大きな現金を持ち歩きたくない土地柄では、これは意外とありがたい。

 降車後に領収書がメールで送られてきて、移動距離、所要時間、掛かった料金が表示される。また、運転手の評価を問われる。星の数(1〜5個)で聞かれるわけだが、その平均がドライバーの評価として表示される。スコアが基準値を下回るとクビになるそうで、運転手のサービス精神は高まるし、評価の高い運転手に仕事が回る仕組みになっているのも利用者としては安心材料の一つ。

●圧倒的な安心感

 実際に使ってみて強く感じたのは、海外でタクシーに乗る際の不安をすべて払しょくしてくれる、その圧倒的な安心感だ。

 経験者はおわかりだと思うが、海外でタクシーを利用する際には、以下のようなさまざまな不安が付きまとう。

・行き先を正しく理解してもらえるかどうかの不安。こちらの英語力だけでなく、出稼ぎ運転手の場合、先方の英語力にも不安があったりする。
・最適ルートを通らないのではないか、わざと遠回りされてぼったくられるのではないかという不安
・料金がいくらかかるかわからない不安。チップをいくら払えばよいのかわからない不安。
・手持ちの現金が足りるのか、100ドル札を受け付けてもらえるのか、カードは使えるのかといった、支払いに関する不安。
・そもそもタクシーが呼べるだろうかという不安。日本のように、流しのタクシーがある都市はごくまれで、普通はホテルなどで呼んでもらう。また、呼んだタクシーをどのくらい待たねばならないのか、そもそも本当に来るのか、という不安もある。
・車両に関する不安。タクシーが、日本の基準からは考えられないくらい汚れていたり、古かったりして、乗り心地が悪いことも多い。

 ウーバーは、これらの不安をすべて払拭してくれる画期的なサービスだ。つまり、日本人が外国でタクシーを利用する際には、非常にありがたいサービスだということがわかる。

●ウーバーに乗ってみて考えたこと

 ウーバーを体験する喜びのなか、考えたことがある。ウーバーの普及は、実は、近い将来確実に訪れる自動運転普及の序章にすぎないのではないかと。なぜなら、配車、乗車、支払いに至るまで、運転以外の部分はすべて人を介さずにスマホでできる。かつ、運転手に行き先を告げる必要はないし、支払いも自動で行われるので、運転手との会話が一切必要ないのだ。つまり、運転手が人間でも、ロボットでもどちらでもよいということ。

 ということは、いつの日か自動運転が実現した瞬間に、ウーバーは運転手を全員クビにして、自動運転の自動車に置き換えるだけで、一気に自動運転タクシー会社となる。そうなると、ウーバーが採用した自動運転車、数百万台が世界中を走り回り、自動運転情報をどこよりも早く集積することが可能となり、ウーバー自身の自動運転の品質がさらに向上するという好循環が生まれるのではないか。

 あるいは、そこで蓄積した情報を活用して新しいビジネスが展開できるかもしれない。自動運転車を開発したメーカーから、「タダでもいいから、わが社の自動車を使ってほしい」という依頼さえくるかもしれない。

 そう考えると、トヨタがウーバーに出資した思惑もなんとなく見えてくる。また、同時に、日本政府がウーバーの本格参入を阻むことが、長期的に正しいのか疑問がわいてくる。

 自動運転の普及がわれわれの生活に与える影響はさまざまであるが、本連載の第3回『自動運転普及のインパクト』で触れた未来が、もうそこまで来ているのかもしれないということを強烈に感じた体験だった。しばらくは、ウーバーの動きから目が離せそうにない。
(文=星野達也/ノーリツプレシジョン取締役副社長、ナインシグマ・ジャパン顧問)