9月15日、大手家電量販店ヨドバシカメラが新サービス「ヨドバシエクストリーム(Yodobashi Xtreme)」を開始したことが、流通業界で話題になっている。

 当サービスは都内23区内などの地域を対象に、インターネット通販で注文を受けた約43万点の家電(大型家電を除く)や調味料、加工食品といった商品を最短2時間半で配達するサービスで「なるべく早く商品が手元にほしい」という顧客層を中心に、定番化しそうだ。

 スピード重視の配送サービスは、競合他社でもすでに取り組んでいる。通販大手のアマゾンジャパンは、昨年末より都内の一部、有料会員限定で注文から1時間以内に商品を届ける「プライムナウ(Prime Now)」もスタート。物流競争は激化の様相を呈している。

 このような現在の流通業界事情を、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。

●「オムニチャネル」で社会的ロスを軽減

「明確に手に入れたいものが決まっていないからブラブラと街を散策しながら歩く『バラエティシーキング』という行動もありますが、そうではない場合は、通常は『欲しいときになるべく早く欲しいものを手に入れたい』と考える消費者は多いはずです。そのニーズに応えるサービスが、このようなシステムといえます。早く届くだけでなく、従来よりも到着時間を細かく指定できたり、配達担当者が今どこにいて何時何分に到着するのかをリアルタイムで確認できたり、指定したコンビニに届けてもらって好きなときに取りに行くなどのサービスも各企業で広がっていて、受け取り側の自由度が高まっている印象です。この背景には、生活の多様化で日中不在の世帯が増えたことも関係しているでしょう」

 特に都心では宅配ボックスのない住宅にひとりで住んでいる人も少なくなく、平日に配送されても、受け取ることができない。日時を指定していたとしてもその予定の時間帯が2〜3時間など幅が広ければ、ちょっとした外出や入浴で受け取れないケースも生まれてくる。

 こういった状況が常態化すると、ユーザーがもどかしいだけでなく、無駄足を踏んでしまう配達担当者の負担も大きく、社会的なロスになってしまう。だからこそ、このような受け取り側の自由度を高める対策は、双方にとってメリットがありそうだ。

「また、ヨドバシだけでなく、セブン&アイ・ホールディングスが展開する『omni7(オムニセブン)』や丸善とジュンク堂書店が運営するウェブサイト『丸善&ジュンク堂ネットストア』といったネットと実店舗を連動させるサービスも増えてきています。このような消費者が購買できる複数の販路(主に実店舗と通信販売)を総合的に組み合わせて対応することをマーケティングでは『オムニチャネル』という言葉で説明しています。単に複数の販路を併存させるシステムを『マルチチャネル』と呼びますが、オムニチャネルは販売者が使用するすべての販路を統合し、顧客の発注・購買地点と商品受け取り地点をユビキタス(遍在)化している部分が『マルチチャネル』とは異なる点です」(同)

● “店舗で見て、届けてもらう”へ

 では、こうした動きは小売・流通業界のあり方や消費者の行動に、どのような変化や影響を与えるのだろうか。

「たとえば、『Aサイトのほうが若干安いけど、Bサイトのほうが受け取りやすくて楽だからBから買おう』といったように、取り扱う商品や価格だけでなく、販売システムや配送形式によってどこから買うかを決める消費者が出てくることも考えられます。ただし、数年後にオムニチャネル化が多くの企業で一般的となっていたら、受け取りやすい配送をすることが消費者にとって当たり前となり、新たな競争レベルに入るでしょう」(同)

 そうなったときには、配送においてどんなサービスを提供すれば消費者がより便利になるかを、他社より早く気づけるセンスが企業には必要になってくる。他方、オムニチャネル化が進むことで、消費者のショッピングスタイルにも変化が起こる可能性がある。

「今までは持ち運べる範囲の大きめの商品を買おうとしたら、移動の負担になることを踏まえて、なるべく後回しにして帰りがけに店舗に寄って購入していたかと思います。しかし、帰宅時間に合わせて配達をしてもらえるサービスが一般化すれば、目に入ったものから購入していくといった購買スタイルも珍しくなくなりそうです。

 帰宅時間に合わせて届けてくれる配送サービスが定着すれば、小売業者は店舗にたくさんの商品を陳列する必要がなくなります。すると、アメリカで話題になっている店舗に在庫を置かないで配達前提で販売をするショールーム型ストアのように、日本でもディスプレイをメインとする店舗が増えていく可能性も考えられます。この動きは小売業者、消費者ともに“ショッピング”という概念を根本から変えるものになるかもしれません」(同)

 EC事業の活性化やオムニチャネルの展開によって、「店舗で買って持ち帰る」から「店舗で見て届けてもらう」へと常識は変遷するのだろうか。ある種の流通革命が、もう目の前に迫っているのかもしれない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)