セブン&アイ・ホールディングス(HD)が10月6日、2017年2月期の第2四半期決算および18年2月期を初年度とする中期3カ年計画の発表を行った。

 ベルサール東京日本橋で行われた発表会では、同社IR部シニアオフィサーの金子裕司氏が半期決算について説明した後、井阪隆一社長が壇上の大スクリーン横に立ち、当面の取り組みと中期3カ年計画を説明し、私は注意深く聞いた。質疑に移るまで、井阪氏はスクリーンに映し出された資料を使い、淡々と30分ほど説明を行った。

●望まずに社長にされた経営者

 井阪社長の第一印象は、「おとなしいな」、そして「能吏だな」というものだった。前会長で大経営者の鈴木敏文氏のカリスマ性、そして驕慢(きょうまん)とも取られかねないスタイルとは、もちろん大きく異なる。

 プレゼンの冒頭で井阪氏は前会長、つまり鈴木氏のことを改めて賞賛した。井阪氏が鈴木氏に抜擢されて09年にセブン&アイHD傘下のセブン-イレブン・ジャパン社長に就任して以来、鈴木氏の薫陶を受けてきた経営者なので、鈴木氏に比べれば小粒感が出るのは仕方がない。また井阪氏は自ら持株会社であるセブン&アイHD社長の座を狙っていたわけではない。

 今年3月に起こった同グループのトップ人事抗争は、当時会長だった鈴木氏が井阪氏を更迭しようとしたことに端を発した。好業績をたたき出し続けていたセブン-イレブン社長の井阪氏は、「辞めさせられるいわれはない」として、初めて師でもある鈴木氏に反旗を翻して、創業者である伊藤雅俊名誉会長のもとに駆け込んだのだ。

 目指した人事が否定された鈴木氏は自ら身を引いたわけだが、その結果、セブン&アイHDトップの座が空席となってしまった。井阪氏自身はこれまでの経緯からも単にセブン-イレブンの経営者でいたかったようにうかがえるが、消去法的に持株会社であるセブン&アイHDの社長に就任した。いわば「その席を望まなかった経営者」の誕生である。

 しかし、「その席」とは「その責」でもある。

●事業会社と持ち株会社、舵取りの作法が違う

 井阪氏のセブン&アイHD社長就任に一番とまどったのが、井阪氏自身であろう。井阪氏は青山学院大学を卒業して新卒入社して以来、セブン-イレブン一筋できた、典型的なサラリーマン社長である。その間、ずっと鈴木氏がグループのトップに君臨していた。井阪氏は鈴木氏の指導の下、セブン-イレブンという同じ会社で業務を遂行してきた。本格的なコンビニエンスストアとして日本でも先発的な会社で、その業態に手本とする他社はなく、ユニークな経営形態を自在に発展させてきた。

 そんな特異な会社で井阪氏は社長として近年辣腕を振るってきた。しかし、それはあくまで鈴木CEO(最高経営責任者)のもとでのCOO(最高執行責任者)としてであり、セブン-イレブンというひとつの事業会社以外にまったく経験を広げることはないままに、持ち株会社のトップに就任させられたのである。

 セブン&アイHDはコンビニ以外に百貨店、総合スーパー、金融会社を擁する。大きな違いは、「ひとつだけでなく複数ある」ということだ。この点が、一事業会社とは決定的に異なる構造として、井阪氏に襲い掛かった。

 井阪氏の不慣れと混乱は、着任当初の「一枚岩の組織を目指す」としたことにみてとれた。その方針に従い井阪氏は、セブン&アイHD社長に着任すると、事業会社別に月1回の会合を開き、経営課題を洗い出して共に成長戦略を描こうとしてきた。ところが、「事業会社とともに一枚岩で成長を目指す」などということは、持ち株会社の経営者がやってはいけないことなのである。

 今回、エイチ・ツー・オー リテイリングへの譲渡が発表されたそごう神戸店など関西の3店舗は、譲渡されてうれしいかといえば果たしてどうなのか。一方、今回譲渡されない非戦略店舗では、リストラと経費削減が必至だ。そごう・西武の社内には「グループの中で本当のリストラに取り組んできたのはうちだけ」という不満の声が多いと報じられている(10月20日付日本経済新聞朝刊より)。

 総合スーパー事業であるイトーヨーカ堂では、17年2月期までに約20店舗を閉鎖、最終的には20年までに約40店舗を閉鎖することが発表された。加えてこれまで好調とされてきたイトーヨーカ堂を核店舗とする大型ショッピングセンター「アリオ」(Ario)の新規出店も凍結する方針だという。これらの決定に対し、「赤字幅は着実に減らしている。どうしてスーパーばかり悪者にされるのか」などと、社内にも不満がくすぶっていると報じられている(同紙より)。

「一枚岩になってやっていく」などということを、井阪社長が信じていないことを私は望む。「そんな声には耳を貸さず、返り血を浴びてでも粛々と改革を進めていく」という覚悟がなければ、企業再生などできはしない。リストラされる可能性のある立場の事業会社と、それを判断・決定しなければならない持ち株会社の経営者の立場と覚悟は、異なるところに求められるのだ。

●「皆の意見を聞いて」の限界

「稽古不足を幕は待たない」タイミングで舞台に立たされた井阪氏は5月の社長就任時、「100日待ってくれ」「100日後に『100日プラン』を出す」と正直に告げた。これは大正解だったと思う。井阪氏は直感的に優れている経営者なのではないかと感じた。

 私自身もこれまで経営者として企業再生に入った時は、「3カ月戦略」ということをよく言っていた。「着任して3カ月目には再生戦略を立てろよ、さもなければ何も始まらないよ」ということだ。

 10月6日の発表会は、中期3カ年計画も含めて、まさに井阪氏の答案提出となったわけだ。冒頭で井阪氏は次のように述べ説明を始めた。

「グループの経営をどう舵取りするか。社内外多くの方々の話に耳を傾け、考え抜いてきた」

 しかし、「皆の意見を聞いて」「一枚岩を目指す」やり方では、何も大きなことができない。そこが従業員社長として祭り上げられた井阪氏の手法であり限界であろうと私は感じた。今回の中期3カ年計画取りまとめの中心になったとされる「改革委員会5人組」に創業家出身の役員がいるというだけで、祖業であるイトーヨーカ堂事業への包丁さばきが鈍っていることがうかがえる。

●物足りない「100日プラン」

 私は4年前から、セブン&アイ・グループは祖業であるイトーヨーカ堂を売却せよ、そこで得られる何千億円というキャッシュをコンビニ事業の世界展開に投入せよと指摘してきた(15年1月31日付け本連載記事『セブン&アイ、株価下落の元凶“お荷物”ヨーカ堂を即刻売却すべき 超優良グループに変身』)。今年に入り、投資ファンド、サード・ポイントも同じことを要求した。

 今回の発表でも、百貨店事業ではエイチ・ツー・オー リテイリングに3店舗が譲渡されたことが発表されたが、それ以外の店舗はどうするのか。鈴木氏が過度に傾斜していたオムニチャネル事業を単なるマーケティング・ツールへとリ・ポジショニング(転換)し、鈴木氏が「世襲への布石ではないか」と腹を探られていた主因であった次男・鈴木康弘取締役を同事業の責任から外したのも正しいことだ。

 今回の発表は概ねの方向性としては正しいほうに向かっているが、当面取り組む改革としては物足りないし、18年2月月期に始まる中期3カ年計画(これも鈴木時代にはなかったものだ)で目指すことも、同グループの規模感からみれば物足りない。

 前述のとおり、「能吏でおとなしい」というのが井阪社長に対する私の印象だった。経営技法も経営計画も、結局はお人柄の範疇に収まるということだろう。鈴木氏による更迭を拒みきった“芯の強さ”を、計画展開のフェーズではぜひ発揮してほしい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)