このところ、新聞の見出しに「夫婦控除」という文字を見かけるようになった。並行して語られるのが、「配偶者控除の見直し」だ。この2つは、政府肝いりの「ニッポン一億総活躍プラン」や「働き方・休み方改革」とも密接なかかわりがある。

 税や社会保障について語られる時の従来モデルだった「会社員の夫と専業主婦の妻」の世帯数は、1997年以降、共働き世帯が多くなっている。2014年のデータでは、専業主婦世帯687万に対し、共働き世帯は1114万。その差は開く一方だ。もはや時代にそぐわない、専業主婦世帯優遇の措置である配偶者控除。その見直しは、いよいよ待ったなしとなるのだろうか。

●戦前はなかった「専業主婦」という言葉

 最初に、ざっと配偶者控除のおさらいをしておこう。妻が専業主婦、またはパートなどで給与所得を得ている場合で年収103万円以下ならば、夫の課税所得から38万円の控除が受けられる。また、企業の家族手当も、この103万円以下を支給条件にしているケースが多い。それが、主婦が年収をそれ以下に収めるように働き方を調整する「103万円の壁」のゆえんだ。

「そもそも、戦前の日本には『専業主婦』という言葉はありませんでした。それが、戦後の高度経済成長期を迎え、男は家庭をすべて妻に任せて仕事に専念し、その分稼いでくる、企業も有能な人材がほしいから家族手当を充実させる、という流れができました。そうやって、企業戦士を支えるための『専業主婦』が生まれ、一般的な家庭モデルになったのでしょう」

 そう語るのは、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏。

「専業主婦には、1986年3月までは年金制度すらなかったのです(現在は、第三号被保険者になる)。その分、稼ぎに行く夫を家庭で支え、『夫の給料が上がれば、将来的に世帯で受け取る年金が増えるからいいだろう』という考え方でした。妻は年金がないから離婚もしないし、できない(笑)。まったく男中心の制度ですね」(井戸氏)

 しかし、前述のように共働き家庭が増えるなか、そうしたモデルは機能不全を起こし始めている。政府は年末に発表する税制改正大綱に向けて、配偶者控除の見直しのひとつとして「夫婦控除」という新たな制度の創設を検討し始めた。その裏には、今後予想される労働力不足の解消という狙いがある。

 2030年の労働力人口は、ゼロ成長に近い経済状況の下では14年と比較して787万人減少すると見込まれている(「平成27年 労働力需給の推計」独立行政法人 労働政策研究・研修機構)。現在103万円以下に年収を抑えている主婦たちにもっと働いてもらうためのインセンティブが、夫婦控除なのだ。

 これまでは専業主婦あるいは扶養の範囲で働くほうが優遇されていた税制を、今後は「103万円のラインを気にせずに働くほうがメリットがある」というふうに変えていけば、「女性たちはもっと働いてくれるだろう」という思惑だ。逆にいえば、介護や子育てなどの諸事情で専業主婦を選択している世帯にとっては、増税になる可能性もある。

●目先の損より、将来の得を考えるべき

 夫婦控除の詳細はまだ明らかになっていないが、井戸氏によると、直近でそれについて語られたのが、14年の税制調査会でのレポートだという。ここでは、

A:配偶者控除の廃止

B:配偶者控除の廃止と引き換えに、配偶者(妻など)が使いきれなかった基礎控除枠を納税者本人(夫など)に移転する「移転的基礎控除」の導入

C:夫婦控除の創設

が提案されている。ここに、さらに子育て支援の拡充を組み合わせるとする。

 夫婦控除の説明として、夫・妻それぞれの基礎控除38万円に新たな控除枠を上乗せするイメージ図があるが、詳細はここでも語られていない。Cの解説にあるのは「配偶者控除に代えて、『夫婦世帯』に対し、若い世代の結婚や子育てに配慮する観点から新たな控除を創設する。新たな控除は配偶者の収入にかかわらず適用されることとし、働き方の選択に対して中立的な税制とする」という、もやもやした説明だけだ。

 報道では、夫婦控除は18年の導入を目指して検討が始められる、とある。現在のところ、夫婦であれば控除の対象になるといわれているが、年収には上限が設けられる方向だ。しかし、専業主婦世帯には年代の高い層が多く含まれると考えられることから、すんなりと配偶者控除の廃止に進めるかは、大きな問題となるだろう。

 井戸氏は「目先の損より、将来の得を考えるべき」と話す。「特に女性は、先に夫を見送り、最期はおひとりさまになる可能性も高い。働けるうちになるべく収入を増やし、自分で年金保険料を払って、少しでも将来の年金を増やしておくほうがいいでしょう」(同)

 16年10月からは、一定の条件を満たすパート勤務者で年収106万円以上の場合は、年金保険料や健康保険料などを負担する必要が出てくる。政府にいわれなくても各家庭の働き方を改革する日は、遠くなさそうだ。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)