本連載前回記事では、『2ch、発言小町、はてな、ヤフトピ ネット釣り師が人々をとりこにする手口はこんなに凄い』(KADOKAWA アスキー・メディアワークス)の著者でインターネット黎明期からのネットウォッチャーで人気ブロガーでもあるHagex氏に、ネットのトレンドや問題点について聞いた。

 後編となる今回は、Hagex氏が選ぶ「一番印象に残ったネットの事件」や「ネットでもめてしまった際の“ネットケンカ道”」などについて、お伝えする。

●すべてがNGだった「studygift事件」

--Hagexさんのなかで、一番印象に残っているネットの事件はなんでしょうか?

Hagex 今から4年前の2012年の事件になりますが、家入一真さんの「studygift」の事例は、やってはいけないことを全部やっていてすごかったですね【※1】。最初に謝ればよかったのに謝らなかったし、言い訳も続き、支援の対象となった女性に関するネガティブな情報も出てきて、燃料が定期的に投下されてしまいました。

 炎上初期に適切な対応をしてれいば、あれほどの問題にはならなかったでしょう。悪いほうに悪いほうに手を打ってしまったという点では、非常に良い(悪い?)ケーススタディですね。企業の広報やウェブ担当者はぜひ知ってほしい事例です。

--ネットのいい点、悪い点はどこだと思いますか?

Hagex いい点は、みなが平等に発言・発信できるところですね。特別な環境は必要ないですし。一方、問題点は「嘘か」「本当か」という情報の信頼度が読み手に任される点でしょう。また、情報の責任が誰にあるのかわからない点。人の「負の感情」を増幅する装置となっているところでしょうか。

--「ネットが人を悪くしているのではない、もともと悪い人がネットを使うのだ」という意見もありますが、ネットによって人間性が荒廃しているような人も、すでに大勢いると思います。

Hagex もともと、人間にはいいところも悪いところもあります。しかし、ネットによって人の「悪い」ところが大きくなってしまう事象があります。

--ネットにはむき出しの悪意がゴロゴロ転がっていることもあるので、見ているうちに麻痺していってしまうのでしょうか。

Hagex それもあると思いますが、結局、ネットの膨大な情報のなかから、自分が信じたい情報だけを積極的に見て、悪意が増幅する例が多々あります。例えば韓国が嫌いな人は、基本的に嫌韓系のコンテンツしか見ません。反韓感情は閉じた情報とコミュニティのなかで、ますます増大していきます。

--なぜ情報の良し悪しを判断せず、鵜呑みにしてしまうのでしょうか。

Hagex もともと、人は情報をあまり判断しない傾向があります。特に自分にとって都合のいい情報だと、疑いなく受け入れてしまいます。つまるところ、ネットは自分の見たい、知りたい情報を都合よく解釈して受け入れる道具となってしまいます。

●ネットはますます貧乏人の暇つぶしに?

--広いなかから選んでいるように見えて、実際は違いますよね。

Hagex そうです。自分で賢く選んでいるように見えて、実はそうでなく、自分に都合のいいものだけを見ているのです。その点、テレビや新聞はいろいろな情報が受け手の意志に関係なくフラットに入ってきますし、また、テレビや新聞は情報発信者の責任の所在がはっきりしています。

 一方で、悪質、もしくは意識が低いウェブサイトやまとめサイトなどはPV(ページビュー)がほしいため、読者の気を惹くような過激な内容を発信し、読者もそれを見てしまう。ネットでは、いい話よりも悪い話のほうが広がります。あと、日本の景気はどんどん悪くなってきているので、差別や妬みといった負の感情が蔓延しやすいという環境になりつつあります。

--そうなると、これからも減ることはなさそうですね。

Hagex ないでしょうね。ネットの利用にはお金はあまりかかりません。その結果、ますますお金のない人の暇つぶしになっていくでしょう。ネットでは中庸な意見がなくなるのは当然で、「みんなで仲良くやろうよ」よりも「ぶっ殺せ」に注目が集まってしまう。ネットという舞台が平等だからこそ、声の大きいほうにみんなの目が奪われるのです。

●「2ちゃん」の利用者は30代後半が最多?

--まとめサイトはアフィリエイト収入によるビジネスモデルですが、アフィリエイトはユーザーが見るだけでは収入にならず、「(商品を)買う」か、最低でも「バナーをクリックする」などのアクションが必要になりますよね。一方で、見ている側も、そういった事情を知ってしまっているので、「クリックして儲けさせてやるものか」となるのではないかと思ってしまうのですが。

Hagex 今は、何か儲けることへのアンチって減っている傾向があります。3年くらい前は「2ちゃんねる」でもまとめサイトに対するバッシングが盛んでしたが、今は昔にくらべて、ネットを使ったお金稼ぎに対するネガティブな感情は減った雰囲気になっていますね。

--「2ちゃんねる」にも「嫌儲板」がありますが、トレンドは変わるんですね。

Hagex 変わりますね。昔は、アマチュア・プロに創作のエピソードを書かせて「2ちゃんねる」に投稿させるという案件を、クラウドソーシングのサイトでいくつか見たことがありました。これは「2ちゃんねる」のまとめ系サイトの管理者が、自分のサイトで掲載するコンテンツを自分でポストさせていたのです。

 しかし、これらの案件は最近見なくなりました。新規に請け負っていないだけかもしれません。現在のトレンドは書き手ではなく、「2ちゃんねる」から面白いスレをコピペする要員を募集する案件ばかりです。「まとめサイトの1エントリーをコピペして300円。月間200エントリー分をコピペして」みたいなものを昨日見ました。

--ほかに、ネットを取り巻く状況で変わったと思うことはありますか?

Hagex 「2ちゃんねる」などの掲示板系のサイトにおいて、若い人の書き込みが減りましたね。30代後半から50代までが頻繁に書き込んでいるイメージがあります。「孫ができた」という書き込みも珍しくありません。

--ネット黎明期に学生や若手社会人だった人が、そのまま年をとっている状況なんでしょうね。一方で、20代の若い人は掲示板系に魅力を感じていないのでしょうか。

Hagex それはあると思います。「2ちゃんねる」が設立されたのは1999年。すでに17年も経っています。設立時を知っているネットユーザーにとっては衝撃的だった「2ちゃんねる」も、若い人の場合は、小さい頃からすでにある一掲示板系サイトにすぎません。だから「取り立てて、やるほどでもない」という意識なのかもしれません。

--確かに私自身、2000年前後に学生で、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)もない頃の、そこまで一般化していないネットの世界の不確かさにワクワクしていたというのもあります。今の若者にしてみれば、すでに人が大勢いて、お約束ができ上がっていて、しかも中心世代が自分よりかなり上のサービスには、当事者意識や魅力を感じないのかもしれませんね。

Hagex 「はてなブックマーク」にもトレンドがあります。数年前だと「英語を勉強しよう」をはじめとする「自己スキルアップ」系のエントリーが人気でしたが、今では人気エントリーにランクインする頻度は減りました。ちょっと前に流行った「断捨離」「シンプルライフ」なども、今年に入って見ることは少なくなりました。「モテたい系」も下火になりましたね。最近は、「ネットやアフィリエイトで稼ごう」といった記事が再び強くなりました。

--「自己啓発」「シンプルライフ」「モテ」は、確かに「ちょっと前」感がありますね。

●ビジネスにも使える“ネットケンカ道”

--著名人同士がネット上で毎日のようにケンカしていますが、ネットケンカの心構えというものはあるのでしょうか。

Hagax シンプルですね。リアルのケンカもそうですが、ネットのケンカでも勝ち負けの要因は「どれだけ根性を持っているか?」なんです。「絶対に負けたくない」と思っているほうが勝ちます。

--「戦いを継続させよう」と思うほうが勝つのでしょうか?

Hagex それもあります。さらに、勝ちたい人間は、あらゆる手段を使い、相手があきれるぐらい徹底的に戦う。過去のツイートやエントリーの矛盾点や不都合な事実を発掘して提示したり、私生活の悪いところまで暴いたり、などです。やる時は徹底的にやり、「かかわったら面倒」と思われるぐらいのガッツを持ってバトルする人が勝ちます。

 ネットでケンかをする時は「根性」も大事ですが、同時に、どう落としどころをつけるかも考えるのが大切です。「相手をつぶしてやろう」と思う時は、根性が一番ですが、「意見は違うけど、悪い人じゃないよね」というケンカの時は、どう決着をつけるのか、ゴールを考えながらやるとうまくいきます。

--「落としどころ」というのも、なかなか難しいですね。

Hagex それは簡単です。「徹底的に勝ちたい」「ちょっと勝ちたい」「引き分け」「負けたフリをする」……具体例なら、「相手が悪いことをしているのなら、謝罪だけしてほしい」「受け入れる、受け入れないは別だけど、自分の意見を認めてほしい」などと、目的を考えて動くとうまくいきます。

 ゴールの話とずれますが、目的によって、ケンカの仕方も変わってきます。ある企業が悪いことをして、その企業に謝罪してほしい場合を考えましょう。メールやブログで情報発信してもダメだったら、代表取締役に内容証明を送ったり、その業種の監督官庁があればそちらに連絡したり、消費者庁に相談するなど、ネット以外の場所からアプローチを行ないます。そして、その情報を基にブログで公開し、再び企業に質問状を送ってみたりするのもいいでしょう。

--前回記事の「違法かどうか」と同じで、こちらも社会の仕組みを知らないといけませんね。

Hagex 一緒です。ネットバトルをする時は、ネット以外の攻撃手法を使ったほうが有利に戦えます。ただ、そこまで手を広げなくても、前回の「こじらせ女子」のケースのような、ネット上のみのバトルだと、戦い方は変わってきます。また、世間的な落としどころと自分の感情のずれをどう折り合いをつけるのか……といった点も難しいところですね。

--ツイッターのケンカだと、ギャラリーもいるプロレスになりますよね。呼んでもいない第三者が出てきたりもしますし。

Hagex ツイッターのケンカにはコツがあって、ツイッターでまとめることを前提にケンカするんです。「Togetter」(ツイッター発言のまとめサイト)を使って自分でまとめつつケンカする。こんな発言をすると相手が怒るだろうな、というのを見越して挑発する。

 もし、激怒して汚い言葉を使ったら、まとめる際に赤字で大きなフォントにして、「感情的な人間」と印象づけをしよう、それに対して自分は冷静な対応をしよう、と事前に予測しながら戦います。ネットバトルの勝ち負けにこだわるなら、まとめサイトを読んだユーザーがどう思うか? が大切なのです。

●相手にヒントがある、ネットケンカ必勝法

--逆に、したくもないケンカをふっかけられたら、どうすればいいのでしょうか。

Hagex 気分にもよりますが、暇なら付き合ってあげるのもいいかもしれません。「なんで相手はケンカしたいのか」を考えながらやるといいですね。ツイッターもネットもそうですが、「相手の嫌がることは何か」を考えて行動すると、いい結果が出ます。

 例えば、相手のツイッター投稿をくまなく見ていくとヒントがあります。容姿について頻繁につぶやいているなら、容姿に関心があるからコンプレックスがある。学歴、ジェンダー、子育て……など、相手のウィークポイントが見えてきます。

 関心があることほどつぶやくので、最低でも1年分くらい見ればわかります。なので、ケンカをふっかけてきた相手に「お子さんの○○ちゃん元気?」と聞くと、気味悪がられます。そういった要素を見つけて、相手に投げて、それで相手が自分の思うとおりに動くか、などを見極めていくのがネットケンカの勝ち方ですね。
(構成=石徹白未亜/ライター)