公開中の映画『怒り』は豪華俳優陣の共演と、20億円近い興行収入を記録した『悪人』の李相日監督×吉田修一脚本作品であること、そして各方面からの絶賛が大きな注目を集めています。ここでは、本作の魅力と、作品のテーマをどう捉えるべきかを、たっぷりと書いてみます。大きなネタバレはありません。

1. 妻夫木聡と綾野剛の濃厚かつキュートなBLを見逃すな!

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

映画『怒り』が話題となっているもうひとつの理由は、妻夫木聡と綾野剛がゲイのカップルを演じているということ。平たく言えばBL(ボーイズラブ)であり、PG12指定大納得の濃厚なラブシーンまでもがあるのです!

そうしたシーンを求める人に、本作『怒り』は大好評であるようです。初めは妻夫木聡が“攻め”で、綾野剛が“受け”という肉体関係だけで結ばれたこのカップルが、徐々にお互いの“愛情”を見せていく様には、「頼むから幸せになってくれ!」と願わずにはいられませんでした。

そして、本作の綾野剛は、かわいい!めちゃくちゃキュート!何かに目覚めてしまいそうな魅力がありました。具体的には、妻夫木聡の「俺、お前のことを全然信用していないからな」と突き放したようなセリフに対する、綾野剛の答えがめちゃくちゃ萌えるのです!守りたい!

なお、妻夫木聡と綾野剛の役作りも尋常ではありません。これまで共演したことがなかった2人は、わざわざホテルを借りて、映画と同様にリアル同棲生活をしていたのだとか。しかも妻夫木聡は「朝起きて、きれいなベッドを見て、そこに直人(綾野剛の役名)がいないのが寂しかった」というガチっぷり。しかも、綾野剛が「コンビニに行ってくるね」と言った後に、そのまま戻ってこなかったのが同棲生活の終わりになったのだとか……「本当にこういうゲイカップルがいそうだな」と思える生活をしての役作りは、“恐れ入る”としか言いようがないですね。

個人的にもっとも萌えたのは、“お墓”のことを2人が話すシーンですね。「もう〜“冗談だよ”と濁しているけど、ふたりとも素直じゃないんだから〜」と、ニヤニヤしながら観ながら観ていました(笑)。

余談ですが、綾野剛は同じく吉田修一原作の映画『横道世之介』でもゲイの男を演じています。こちらもかわいいですよ。

2.揺れ動く登場人物のドラマを堪能せよ!

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

『怒り』という作品は、妻夫木聡と綾野剛が共演する東京のエピソードのほか、千葉、沖縄と、異なる場所の3つの場所のドラマをほぼ同時並行に描いている作品です。それらは物理的に交わることはなく、ただただ“あの人は逃亡中の連続殺人鬼ではないか?”と疑心暗鬼に陥るという点でのみ、共通点を持っているのです。

渡辺謙と宮崎あおいと松山ケンイチが共演する千葉のエピソードは、それほど大きな出来事は起こりません。言葉は悪いですが “地味”と言ってもいいでしょう。

しかし、このこじんまりした話こそが、作品に重みを与えています。詳しく書くとネタバレになってしまうので控えますが、宮崎あおい演じる軽度の知的障がいを持つ女性が、なぜ“そうしたのか”、なぜ“そうできなかったのか”を考えると、とてもやるせないものがあるのです。

大したことが起きていないように見えて、心のうちは激しく揺れ動いている……この感覚は、誰にでも当てはまるものでしょう。ぜひ、登場人物それぞれの心情を考えながら、観てください。

3.“疑心暗鬼”こそが重要な作品だ!

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

森山未來と広瀬すずが共演する沖縄のエピソードは、ほかの2つに比べて“フラッと現れた男の異質さ”がより表れています。

なぜなら、男は誰も住んでいない小島の廃墟に住み、なおかつ「俺がこの島にいることを誰も言わないでくれる?」と、外界を避けるような物言いもしているのですから。彼のことを“こいつが殺人犯じゃないか?”と疑ってかかる方は多いでしょう。

この沖縄のエピソードに限らず、観客のそうした“疑心暗鬼”という感情こそが、物語にとって大切です。ぜひ、その気持ちのままクライマックスを見届けることをオススメします。

また、このエピソードでは、沖縄という場所で根付く、ある社会的な問題が取り上げられています。作中で起こる凄惨な出来事は、残念ながら似たようなことが現実にも起きているのです。聞くだけで痛ましい事件ですし、作中ではこのことを公にしないでほしい訴えるシーンもあります。しかし、この映画を観ることは、その問題を考えるきっかけになるはずです。

本作の役者陣の熱演はすべて“鬼気迫る”と“オーバーアクト(過剰すぎる演技)”がいかに違うかを教えてくれましたが、この沖縄のエピソードでの森山未來と、新人の佐久本宝の存在感は特筆に値します。彼らの“関係性”は、痛烈な印象を残すでしょう。

4.美しい照明と撮影、そして坂本龍一の音楽が融合した極上の映画体験!

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

映画『怒り』で多くの方が魅了されるのは、その画の美しさでしょう。それは沖縄の海や空だけでなく、ゲイたちが集うハッテン場でも同様。紫や青の光が輝く怪しい場所であっても“美しい”と思ってしまうのです。

なお、ハッテン場での“紫や青の光”という画は、中盤にも違う場所で登場します。こうした画だけで“同じようなことが起こる場所かもしれない”と、不安を煽る演出にはゾクゾクしました。

そして、本作の音楽を手がけたのは、世界的な音楽家である坂本龍一です。“多重のクライマックス”でかかる楽曲には、心をかき乱されました。とある印象的なタイトルがつけられたエンドロールの楽曲も含めて、じっくり聴くことをオススメします。

5.信じることは難しい、だからでこその解決方法を教えてくれる!

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

『怒り』という作品で強く訴えられていることは、“信じることの難しさ”です。3つのエピソードの登場人物たちは、いずれも“信じるか”、“信じないか”ということで悩み、そして自分が正しいと信じた(あるいは間違った)行動を取ります。

観終わってただただ実感できたのは、“信じるためには、疑う必要がある”ということでした。

まさにその通り、何も考えたり聞いたりもせずに“信じる”というのは、知る努力をしないということ、ある意味では“信じていない”のと同義です。“信じる”と“疑う”という言葉は対義語のように思えて、それらは表裏一体のものと言ってもいいでしょう。『怒り』におけるすべての登場人物の関係性で、そのことを痛烈に感じられるはずです。

もうひとつ、『怒り』の登場人物で共通していることは、“自信がない”ということです。

“自分を信じる”と書く“自信”は、他者を信じるための第一歩になるのではないでしょうか。何かのきっかけで自信を持てば、勇気を持って“疑い”、そして“大切な人を信じる”ことができる……そんな“希望”をも描いています。

6.原作には“4つ目”のエピソードがあった!

『怒り』を気に入った人は、ぜひ原作小説も読んでみてください。妻夫木聡演じるゲイの男が兄の妻に語ったことや、池脇千鶴演じる女性(宮崎あおいが演じた女性のいとこ)の過去など、映画にはなかった要素がたっぷりあるのですから。

しかも、原作には“4つ目”と言えるエピソードがあります。それは映画で三浦貴大が演じていた刑事のもので、これもまた“信じる”ことを主題に置いた一編なのです。

さらに原作では、なぜタイトルが『怒り』であるのか、その理由もよりわかるようになっています。読んだ後は、怒りの感情がなぜ必要であるのか(あるいは虚しいものか)、ぜひ考えてみてほしいです。

(文:ヒナタカ)