平山秀幸

10月8日より、池袋の新文芸座で行なわれる特集上映、『「呑むか撮るか 平山秀幸映画屋街道」刊行記念上映会・人間っておもしれえなぁ 緻密にして大胆な映画術 平山秀幸映画屋街道40年記念祭り』。ここ最近、一段と名画座の特集上映のラインナップが充実している印象を受けるが、その中でも今回の特集上映は、90年代の日本映画を愛する映画ファンにとって格別のラインナップである。

連日豪華なゲストを迎えて監督とのトークショーが行なわれる予定で、上映作品は平山監督のデビュー作である『マリアの胃袋』から、最新作である『エヴェレスト 神々の山嶺』までのほぼ全作品(『プレイメイト殺人事件』と『人間交差点 雨』以外)が並ぶ。その中でも、必見の作品を紹介したい。

『愛を乞うひと』

愛を乞うひと

まずは平山秀幸という映画監督を語る上で、決して外すことのできない90年代の日本映画を代表する1本。まだ制作から18年しか経っていないが、名作の域に達しているのではないだろうか。下田治美原作の同名小説を元に、幼い頃に母親から虐待を受けた主人公が、自らも母親になり、死に別れた父親の遺骨を探しに出る。そして、自らが辿った凄惨な過去と向き合いながら、やがて自分を虐待していた母親が存命であることを知るという物語で、その虐待描写の生々しさと重厚すぎるほどのテーマ性で、言葉では言い表しがたい壮絶なドラマなのだ。

決して感情的な描写だけに頼らず、一人二役を演じきる原田美枝子の圧倒的な演技力、そしてもちろん平山監督の高い演出能力。カメラワークから美術に至るまで、この映画の画面には一級品の職人技が煌めき続ける。同じ年に今村昌平の『カンゾー先生』、北野武の『HANA-BI』を差し置いて、日本アカデミー賞で9つの最優秀賞に輝くなど、国内外で多くの賞を受賞したのも納得の完成度だ。

今年の12月には、本作で助監督を務めた谷口正晃が演出を務め、篠原涼子主演でテレビドラマ化がされることが決まっている。未だにレンタルDVD化されておらず、VHSかセルDVDでしか鑑賞手段のなかった本作を、劇場で35ミリフィルムで観られる機会が訪れるのだ。

今回、映画<カツドウ>屋としての平山秀幸監督を特集した上映なのだが、その職人的才能を遺憾なく発揮した作品が『愛を乞うひと』だけでなく、もう3本も上映される。平山監督のメジャー作品デビュー作として95年の夏休みに公開され、瞬く間に当時の小学生から大人まで幅広い支持を集めた伝説のシリーズ、『学校の怪談』である。

『学校の怪談』シリーズ

学校の怪談 [東宝DVD名作セレクション]ここはこの3本をまとめて紹介せずにはいられない。97年に公開された『学校の怪談3』は金子修介監督にメガフォンが替わっていたため、今回の特集上映ではかからないが、季節的には3作目が恋しくなる時期というのが少々心苦しい。とはいえ、夏休みの始まりを描いた1作目、春休みの塾の研修で訪れた田舎を舞台にした2作目、そして海の底に沈んだ学校に迷い込む夏のひとときを描き出した4作目。どの季節に見ても作品の空気感を存分に味わえるほどの珠玉の名作しかない。

昔からどこの学校にも必ずと言っていいほどあった怖い話を、当時最先端のVFX技術を使い実体化させたこのシリーズ。テケテケや花子さんといった人気キャラクターを次々と輩出しただけでなく、『学校の怪談2』には後の日本映画界で活躍を見せる細山田隆人や前田亜季、そしてアイドルの振付師として活躍中の竹中夏海といった逸材を見出したシリーズでもある。

しかも、1作目と2作目が上映される10月13日には脚本家・奥寺佐渡子と平山監督のトークショーが予定されており、これは当時の興味深い話が多数聞けるのではないだろうか。また、15日に上映される『学校の怪談4』は、劇場上映されるのがあまりにも貴重な機会である。昨年、午後のロードショーで本シリーズが放送されたが、この4作目だけはその内容からか、放送されなかった。半ば封印状態にあった本作を劇場で再び観ることができるなんて、考えただけでも涙が止まらない。

もちろん、一種の〝お化け〟映画なので、ホラーとしてジャンル分けされる作品ではあるが、あくまでも本質は全年齢向けのファンタジー映画であるということを念頭に入れて観ていただきたい。笑えて、泣けて、ちょっとだけ怖い。完全無欠の娯楽映画を前に、誰もが一瞬で子供だった時代に戻ることができるはずだ。

本特集は10月8日から17日まで東京・池袋の新文芸坐で行われる。作品のラインナップや、豪華登壇者が顔を揃えるトークショーの詳細は劇場の公式ホームページから。なお、トークショー付きの上映会に関しては、入場整理券付き前売券が1日からチケットぴあで発売されている。

(文:久保田和馬)