時の人が目の前に。

先日まで開催されていたPFFぴあフィルムフェスティバルに民間参加枠で審査員として参加した。そのとき本選の審査員の中に野田洋次郎氏がいた。そう、目下驚異的なペースで大ヒット中の新海誠監督作品「君の名は。」で音楽・主題歌を担当したRADWIMPSのボーカリストでありコンポーザーでもある“あの”野田氏である。

PFF側としては「君の名は。」の快進撃が始まる遥か以前から審査員就任を打診していたので、こうなることとは全く考えていなかったであろうが、時期が時期なだけにうれしい誤算の図といったところだった。

この「君の名は。」に加えて大根仁監督・福山雅治主演「SCOOP!」、佐藤健・二階堂ふみ・有村架純・菅田将暉・岡田将生・山田孝之の豪華共演作「何者」、「悪人」に続く監督李相日×原作吉田修一コンビによる骨太ミステリー「怒り」、そしてベストセラー小説の映画化「世界から猫が消えたなら」、大根監督の前作「バクマン。」と主題歌だけでなく映画音楽(劇伴)からアーティストと四つに組んで映画の世界観の構築を進めていく映画が増えてきている。

映画音楽とPOPミュージックの垣根を超える。

 映画音楽とPOPミュージックの垣根を自由自在に行き来していることでいうと、日本での第一人者は坂本龍一だろう。

テクノポップユニットYMOに参加する一方で大島渚監督「戦場のメリークリスマス」で音楽を担当し、通常のアーティスト活動を続けながら、「ラスト・エンペラー」でオスカーまで上り詰めた。一時癌のために休業していたが現在は現場復帰。「母と暮らせば」「レヴェナント」「怒り」と立て続けに音楽を担当。彼の場合はサウンドトラックであっても、アーティスト坂本龍一の新譜として受け入れられる稀有な存在だ。

仕掛け人はあの人

君の名は。 サブ11

(C)2016「君の名は。」製作委員会

「君の名は。」はかねてよりRADWIMPSのファンだった新海監督のラブコールにこたえる形でRADWIMPSが参加。演出面でも曲に合わせてシーンや脚本を改めた個所が複数あったとのことで、文字通りの二人三脚体制だ。新海監督は「秒速5センチメートル」で山崎まさよしの「One more time, One more chance 『秒速5センチメートル』 Special Edition」を起用するなどPOPミュージックを取り入れることを進めてきたが、「君の名は。」はそれがさらに一層深化した形だ。

「SCOOP!」の大根監督は監督デビュー作「モテキ」のドラマ版から数多くの既存のPOPミュージックを多く採用。「モテキ的音楽のススメ」というコンピレーションアルバムが発売されるほどになった。

この音楽へのこだわりはその後も続き前作「バクマン。」ではサカナクションに映画音楽を依頼。サカナクション山口一郎は100曲近くを制作し、映画との親和性を徹底的に追求した。「SCOOP!」ではTOKYO№1SOULSETに映画音楽を一任。コンポーザーの川辺ヒロシによる“東京の夜を全面的にフューチャーした音楽”で映画を染めた。テーマソング「無情の海に」には福山雅治もギターで参加。監督・アーティストに加え主演俳優も音楽パートに名を連ねるようになった。

「何者」ではperfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデューサー・ナカタヤスタカが音楽面で全面参画。主題歌は米津玄師と組んで「NANIMONO(feat. 米津玄師)」を発表した。

これらの作品で「職業作曲家が作る通常のサウンドトラックとは違う音楽が欲しかった」と起用の理由を語っているのがあのヒット作・話題作送り続ける王者東宝の異端児プロデューサー川村元気氏だ。http://cinema.ne.jp/recommend/genkikawamura2016050617/ 

そんな彼の原作を映画化した「世界から猫が消えたなら」も音楽プロデューサーの小林武史が映画音楽を担当し、主題歌HARUHIの「ひずみ」も全面プロデュースした。小林武史は過去にも岩井俊二監督作品「スワロウテイル」でも映画音楽に加え、主題歌を歌うYENTOWNBANDにはメンバーとしても参加して「Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜」をヒットさせている。

また「君の名は。」に続く形でヒット中のアニメ映画「聲の形」も電子音楽家ソロユニットagraphや電気グルーヴのサポートメンバー牛尾憲輔が映画音楽を担当している。

サウンドトラックの新しい形。

シン・ゴジラ音楽集 シン・ゴジラ音楽集

今夏前半戦の映画戦線の主役となった「シン・ゴジラ」のサウンドトラックCD鷺巣詩郎「シン・ゴジラ音楽集」がヒットしたことが話題となったが、一般的に映画のサウンドトラックCDは発売こそするもののなかなかヒットが難しいのが現状だ。そんな中で、このようにアーティストが映画音楽全般に参加することで、単純な映画音楽集としてのサウンドトラックではなくアーティストの新譜としても見ることができる“進化したサウンドトラック”が増えている。

これが映画への興味を引くエッセンスの一つになってくれば、これ以上のうれしい展開はない。

(文:村松健太郎)