写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.45

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16〜95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。

日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

映画ライターの仕事などしていると、周りから「今まで会った中で、一番綺麗な女優さんは誰?」などと聞かれることがよくあるのですが、そういうとき咄嗟に口にしてしまうのがこの方です。

松坂 慶子さん

いや、もちろん他にも綺麗な女優はいっぱいいますし、そもそも比べられるものでもないだろうとも思いますが、映像の中での松坂慶子の圧倒的貫録の美と、取材などでお会いしたときのほんわかとした柔らかな美のギャップがとても心地よく、今でもふっと思い浮かべては、できることならまたお会いしたいな、などと思ってしまうのでした……。

子役から大映、松竹、そして78年『事件』での転機

松坂慶子は1952年7月20日、東京都大田区の生まれ。67年、中学3年生のときに劇団ひまわりに入団し、実写ドラマ『忍者ハットリ君+忍者怪獣ジッポウ』でテレビ初出演。翌68年の『ウルトラセブン』第31話『悪魔の住む花』でミクロ怪獣ダリーに寄生される少女役は、今なお特撮ファンの間で語り継がれる傑作エピソードです。

69年に大映からスカウトされ、同年の『ある女子高校医の記録 続・妊娠』で女子高校生のひとりとして映画デビュー。この後も『高校生番長・深夜放送』(70)などセクシー青春映画群に助演した後、渥美マリの代役で『夜の診察室』(71)で初主演を飾りますが、71年12月に大映が倒産したことで、72年より松竹に移籍しました。

松竹では清純派として売り出し、中村登監督『辻が花』(72)や森崎東監督の『藍より青く』(73)、加藤泰監督『宮本武蔵』(73)などで好もしい印象を観客に与え続けていきます。

なお、この時期、彼女は電車で1時間以上かけて大船撮影所に通っていたそうで、当時の車窓から見える景色などがすごく新鮮で気持ちよかったと語ってくれたことがありました。

また同時期にテレビドラマ『若い人』(72)ヒロインで製作者協会新人賞などを受賞。73年にはNHK大河ドラマ『国盗り物語』で織田信長の妻・濃姫を演じ、また時代劇『江戸を斬る 梓右近隠密帳』(75)では柳生十兵衛の妹役として殺陣にも挑戦し、正直、主演の竹脇無我よりも上手いのではないかと唸らされるほどさっそうとした姿を披露していました。

そんな松坂慶子の転機になったのは1978年、野村芳太郎監督の『事件』で、ひとりの若者をめぐって妹と三角関係に陥るスナックのママを熱演し、清純派からの脱皮に成功。

ちなみに劇中に出てくるスナックの名前「カトレア」は、彼女の発案で野村監督にお願いしてつけたものだそうです。

この後も『配達されない三通の手紙』(79)『わるいやつら』(80)など、野村監督の話題作群に強烈なキャラで出演。同時期、山根成之監督の文芸映画『五番町夕霧楼』(80)も話題になりました。

熱演から、軽やかな笑顔を見せる好演まで、憑依型女優の筆頭株

TVドラマでは79年に五木寛之原作の『水中花』でバニーガール姿のヒロインを演じるとともに、主題歌『愛の水中花』を歌い、これが大ヒット。続けて『夜明けのタンゴ』(80)ヒロインを経て、81年には蔵原惟繕&深作欣二監督の東映映画『青春の門』に主演。

ここから松坂慶子と深作監督の名コンビが始まり、『道頓堀川』(82)『蒲田行進曲』(82)『人生劇場』(83・中島貞夫&佐藤純彌と共同)『里見八犬伝』(83・声の出演)『上海バンスキング』(84)『火宅の人』(86)『華の乱』(88)といった意欲作群を世に送り出していきました。

特に『蒲田行進曲』ではキネマ旬報主演女優賞をはじめ各賞を独占し、今も人気の高い作品です。

賞といえば81年、山田洋次監督の『男はつらいよ 難波の恋の寅次郎』でマドンナに抜擢され、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを受賞。また84年の『化粧』、86年の藤田敏八監督『波光きらめく果て』などさまざまな女の生きざまを演じ続け、そのつど喝采を集めていきます。

テレビでは85年のNHK大河ドラマ『春の波濤』に主演。日本の女優第1号と言われる川上貞奴を堂々演じ切っています。

90年には小栗康平監督の『死の棘』で情緒不安定な妻をノーメイクで演じ切り、またもキネマ旬報主演女優賞などその年の映画賞を独占しました。

そんな中、久々に森崎東監督と組んだ喜劇『女咲かせます』(87)の女泥棒役は、どちらかといえば熱演型の作品が多かったこの時期の彼女のキャリアの中、肩の力を抜いた雰囲気が実にさわやかで美しく、素敵なものがありました。

また、秋元康が初監督した『グッバイ・ママ』の軽やかなキャリアウーマン姿も忘れられないものがあります。

熱演型の作品が多く語られがちな松坂慶子ですが、彼女の本質はこういったライト・コメディにあるのではないかと個人的には思っています。(その意味では、彼女の微笑ましい「美」の資質を一番引き出していたのは森崎監督ではないかと、ひそかに思ったりもしています)

90年代以降の彼女の活動も実にユニークで、大林宣彦監督の『女ざかり』(94)では大胆な老け役に挑戦し、山川元監督『卓球温泉』(98)ではラリーをいかに長く続けられるかで勝敗を競う卓球大会に蟹江敬三扮する夫とともに臨み、吹き替えなしで見事なロングラリーを披露。

また2000年には原口智生監督の特撮映画『さくや妖怪伝』でラスボスとなる土蜘蛛の女王を喜々として演じ、最後は巨大化までしてしまうという、『ウルトラセブン』とは真逆の設定で往年の特撮ファンを狂喜させてくれました。特撮ということでは、雨宮慶太監督『牙狼 GARO〜蒼哭ノ魔竜〜』(13)ではワイヤーアクションにも挑戦しています。(彼女はこういった、映画でなければできない撮影や体験が大好きなのだとも語ってくれたことがありました)

一転して日向寺太郎監督の実写映画版『火垂るの墓』(08)の非情な親戚役は鬼気迫るものがあり、撮影中、子役たちは本当に泣いてしまったほどだったそうです。(現場を離れたご本人は、本当にほんわかした優しい雰囲気を漂わせている人です。ただ、現場では役が憑依されてしまうのでしょう)

美しさという点でも、朝原雄三監督『釣りバカ日誌20ファイナル』(09)におけるシリーズ最後のマドンナ役や、ヒロインと共に綱引き大会に奮闘する羽目になる母親役を好演した水田伸生監督『綱引いちゃった!』(12)などを経て、2015年は大森一樹監督『ベトナムの風に吹かれて』で久々に主演。ここでも認知症の母とベトナムのハノイで暮らすことになった女性の人生を、豊かな笑顔で好演してくれています。

役に応じて優しくもなれば厳しくもなり、可愛いおばあちゃんから麗しきラブストーリーのヒロインまで演じてしまえる松坂慶子は、きっと演じることそのものが好きでたまらないのでしょう。こういった魅力的かつ憧憬の的となるべき映画女優がいる限り、日本の映画界はまだまだ大丈夫だなと思う次第です。

(文:増當竜也)