七人の侍

「こんなに鮮明な『七人の侍』を見たのは初めて!!」

先輩 「七人の侍」、もちろん見ているよな?

後輩 最初はテレビで見ました。まだ小さい頃でしたが。前篇と後篇に別れていて、2週間にまたがってやってたので「長い時代劇だなあ・・」としか思いませんでしたが。それからリバイバル上映で見て、「これは凄い!!」と。

先輩 1991年のリバイバルの時かな?

後輩 今回リバイバルされるのは、また違うバージョンのようですが?

先輩 今回は「午前十時の映画祭」の1本として上映されるんだが、4Kデジタルリマスター・バージョンなんだよ。まあ早い話、フィルムそのものをデジタル技術で徹底的にクリーンナップし、あたかも新作のような鮮明な画像と音響を実現したバージョンなんだけど、これは凄かったよ。めったなことでは驚かないこの僕が、座席から落ちるほどびっくりした!!

後輩 そんなにキレイになっているんですか?

先輩 通常の映画の場合、まあフィルム時代のことだけど、撮影して完成したフィルムをオリジナル・ネガと呼び、そこから上映用プリントを作成するために、マスターポジを作る。さらにデュープネガを作成し、これをもとに上映用プリントを焼いていくわけなんだ。ただ、「七人の侍」のオリジナル・ネガは今回も探したのだけれど発見出来なかったそうだ。知り合いの映写技師に聞いたら「あの時代は可燃性のフィルムを使っていたから、破棄されたのだろう」ということだったが。

後輩 ということは、「七人の侍」のオリジナルは、もう存在しないんですか?

先輩 残念ながらな。だから今回の修復、レストアと僕たちは呼んでいるんだけど、マスターポジとデュープネガをベースに、東京現像所のスタッフが行った。ただしこの映画の場合、上映時間3時間半という長尺だから作業時間も膨大だ。

後輩 具体的に、どんな作業をしたのですか?

先輩 東現のレストア・チームはまず、3時間半のフィルムを1コマずつ見て汚れやホコリ、損傷をチェックして行った。

後輩 確かに根気が要る作業ですね。

先輩 その上で必要な修復を行い、さらに全編29万7407コマをアリスキャンというマシーンでスキャニング。1コマずつ人間の目で確認しながら、ソフトを使って色合い、画面の揺れの補正などを修復していった。ここまでで半年かかったそうだから、東現の人たちの根気強さ、恐るべし。

「これで三船ちゃんの評価は上がると思います」と、野上さん。

先輩 さらにはカラーグレーディングという作業を行った。これはシーン、あるいはコマ単位で明るさ、コントラストの補正だけでなく、オーバーラップなどオプチカル処理されたコマとオプチカル処理されていない前のコマとズレてしまったりする「位置補修」も施したそうだ。

後輩 今回のレストアのために、東現では特別なマシーンを新規導入したそうですね?

先輩 そう。ソンダー・レゾナンスというマシーンで、これは音声キャプチャーを行うものなんだが、従来と違って音声情報を画として調整することが出来るんだ。詳しくは東現の解説を読んでくれい。ここの下のほうに解説がある。http://www.tokyolab.co.jp/topics/detail.php?no=87

後輩 これで作業をしたとなると、昔の映画のサウンドもクリアになるわけですね。

先輩 そうなんだ。これは「七人の侍」だけではないけれど、黒澤明監督作品には、絶叫したり大声の台詞が多いから、それが明確に聞き取れないことがあった。ただしそれが演技の迫力に繋がっていたんだが、やはり台詞だからちゃんと聞いて意味を理解したい。代表的なのが「七人の侍」の菊千代=三船敏郎の台詞だね。

後輩 確かにあの映画での三船の台詞は、聞き取りづらかったです。

先輩 それが今回のレストアで、すべてクリアに聞き取れるようになった。これは革新的とさえ言えるよ。試写の後、黒澤組の野上照代さんが登壇し、「三船ちゃんの評価が低いのは、台詞が何を言っているのか分からないという意見があったからです。でも、このバージョンを見せれば、必ず三船ちゃんの評価は上がると思います」と言うほどだった。

後輩 レストアによって、俳優の評価が変わる可能性がありますね。

先輩 ただし、左卜全の、あのモゴモゴ言ってる台詞は、今回も聞き取れない(笑)。

後輩 そこもレストア出来ないんですか?

先輩 やろうとすれば、可能だと思うよ。技術的な意味でね。でも、左卜全の演じるキャラクターは、あのモゴモゴがいいんだ。というか、ああいう演出をしているわけだからね。それを技術的に可能という理由でタッチするのは、つまり演出への介入だ。それはやってはいけないことだと思うんだ。

後輩 そのあたりはデリケートな判断が必要とされますね。

先輩 そもそもレストアの目的とは、本来監督が意図した作品を掘り起こすことだから、その意図を曲げてはいけないよね。そういう点では、とても細やかな配慮がなされたレストアだったと思うよ。

初めて気づいた、久藏と平八の微妙な関係?

後輩 先輩はもう、この4Kレストア・バージョンを見たわけですが、画面と音が鮮明になることで、どこがどう変わって見えたんですか?

先輩 うん。それは色々あるけれど、一番の発見だったのが、久藏と平八の関係だね。久藏は宮本武蔵をモデルにした、寡黙な剣豪。対する平八は、強くはないけれど周囲を明るくするムードメーカーで、劇中で「苦しい時には重宝な男」と言われている。

後輩 久藏は宮口精二が演じていて「こんなに良い役は、生涯二度とない」とまで言わしめた、彼の代表作ですね。

先輩 そう。かたや平八は千秋実が飄々と演じているが、確かに七人の中では強いほうではない。今回のレストア・バージョンでは、平八がそのことを冗談めかして言うものの、久藏に対してちょっとしたコンプレックスを持っているんじゃないか?という当たりに気がついた。

後輩 そういう描写があったんですか?

先輩 七人の侍が集結しつつあるシーンで、平八が久藏の視線をそらす描写があるんだよ。あれは今まで、気づかなかった。同じ侍ではあるものの、実力の差、生き方の違いを平八は感じ取ったんじゃないだろうか?

後輩 なるほど。画像がクリアになることで、発見出来たことですね。

先輩 あと、志乃を演じた津島恵子がグラマラスなこと(笑)。冒頭の洗髪シーンでの、あの深い谷間!! あれを菊千代あたりが見たら、確かに危ない(笑)。

後輩 その他にも、色々な発見がありそうですね。

先輩 もう一度、このバージョンを基準に「七人の侍」という作品の評価をし直す必要があるんじゃないかとさえ思ったね。

後輩 東現の人たちの根気強い作業に感謝したくなります。

先輩 先日、午前十時の映画祭で上映した「生きる」も、東現の手による4Kリマスター・バージョンだが、これまた落ち着いた良い画質だった。

これが大人1100円、学生500円で見られる、大盤振る舞い!

後輩 その4Kという単位ですが、ハイビジョンの4倍の情報量を持っていることは分かるんですが、シネコンのスクリーンすべてに4K上映用の機材が入っているわけではないでしょう?

先輩 そのあたりは、映画館のオフィシャルサイトに表記があるから、それを参照するのが良いだろう。もし不安だったら、直接映画館に電話して聞く手もある。

後輩 しかも今回の上映は、午前十時の映画祭の枠なので、大人1100円、学生500円の料金で見られるんですね。そこまで手間のかかったバージョンなのに!

先輩 大盤振る舞いだよ。だから君も、早くネット予約で座席の確保を・・。

後輩 うぉっ!! 初日と2日目の新宿、既に満席ですっ!!

先輩 なんだとぉ? おっ、ここは大丈夫だぞ。楽天地シネマズ錦糸町。ネット予約も電話予約も未対応だけど、ちゃんと4K上映するし、座席数もそこそこ多い。ここを参照するべし。http://www.rakutenchi.co.jp/cinema/rakutenchi/schedule.html

後輩 なんか、遠足の日みたいですねえ。

先輩 とにかく早起きして、一食抜いてでも、絶対に見るべし!! それだけ価値のある上映だからな!! この機会、おろそかにするでないぞ!!

(企画・文:斉藤守彦)