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(C)2015 お元気ですか?フィルムパートナーズ

『SCORE』『GUN CRAZY』シリーズなどで知られるヴァイオレンス・アクション映画の雄・室賀厚監督が、初めて手掛けた非アクション=ヒューマン映画『お元気ですか?』が、10月15日より東京ユーロスペースを皮切りに公開となります。

内容を一言で説明すると、ひとりの女性・冴子が10人の男女に次々と電話をかけていくというもの。

なぜ彼女は電話をかけ続けるのか?

すべての電話をかけた後、彼女はどうするつもりなのか?

徐々に彼女の真実が解き明かされていき、ドラマは10人目への電話=クライマックスへ、そして意外な展開へと導かれていきます……。

室賀監督が、まもなく命尽き果てようという父親を看病しながら、そのベッドの横で書き上げたオリジナル脚本を元に自主制作した本作は、涙とともにさわやかな感動をもたらす秀作として屹立していますが、中でもヒロインを演じた宮澤美保の存在感を抜きに本作は語れないものがあります。

かつて中原俊監督の名作少女群像劇『櫻の園』(90)の中で、彼氏を部室に連れ込んだり、演劇部舞台監督として学内を駆けずり回っていた彼女、およそ四半世紀経っての、大人の女優としてのまた大きなステップアップ……

《キネマニア共和国〜レインボー通りの映画街vol.165》

今回は宮澤美保さんに『お元気ですか?』の出演のいきさつや、これまでの歩みなどをお聞きすることにしました!

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相手が電話の向こう側にいる難しい芝居への挑戦

―― 室賀監督と仕事されるのは今回が初めてですか?

宮澤 お仕事させていただくのは、これがまったくの初めてです。2年くらい前でしたか、室賀監督が演出されたCMのオーディションを私が受けたことがあって、そのとき監督の方で私のことを「いつか映画をやるときにまた」と心に留めておいていただけていたようで、1年くらい経って今回の映画のお話をいただき、脚本を読ませていただいた上で監督とお会いしました。

―― 脚本を読まれての印象は?

宮澤 正直やりたいけど、すごく難しいと思いました。相手がすべて電話の向こう側にいるという、そういったお芝居は今までやったことがなかったですし、そんな映画を見たことがない。あと、この映画の是非はすべて主人公にかかっていると思いましたので、そうなるともう絶対に言い訳ができない。実際、今回共演させていただいた役者さんたちからも「よく受けたね」と言われましたし(笑)。でも、やはりこの映画に向き合ってみたいという気持が強かったので、お引き受けすることにしました。

―― では、今回は電話を掛ける10人の役者さんとは……?

宮澤 実際に撮影でお会いできたのは、最初に電話をかける美容院店長役の長谷直美さんをはじめ数名でしたので、出来上がったものを見るまで、どんな感じでつながっているかが不安でしたね。

―― 確かに今回は電話で話している画ばかりで、どこか単調になってしまうかなと、見る側も危惧するところはありましたが、いざ見始めると見事に緊張感が保たれていて、出だしこそほのぼのとしていますが、次第にスリリングな面持ちでドラマが進んでいきます。室賀監督とは今回どのようなディスカッションを?

宮澤 監督のお父様がお亡くなりになる直前に看病しながら書き上げた脚本だとお聞きしたのですが、実は私も弟を交通事故で亡くしているものですから、その内容がとても他人事には思えなかったんですよ。またいろいろお話させていただくうちに、監督のお父様が長野出身で、私も長野出身なので、いろいろ引き合わされているのかなと思えるところもいっぱいあって、これは絶対に良いものができるという確信みたいなものが生まれてましたね。

―― 確かにこの映画、人が死んだ哀しみを知っている人たちの手で作られていることがよくわかります。

宮澤 監督は「多分、今じゃないと作れないし、時期を逃したら作らないと思う」とおっしゃっていて、「今の気持ちで仕上げないと意味がない」ということから自主制作に踏み切ったことにも、私は賛同できました。

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女性は元カレに電話をするか?男性は元カノに電話をするか?

―― 撮影の期間はどのくらいでした?

宮澤 正確には覚えてないですけど、昨年の6月にクランクインして、2週間くらいだったでしょうか。その期間、ただただ精一杯だったことしか記憶になくて……。

―― 話し相手がその場にいない電話でのお芝居は、実際にやってみて……?

宮澤 事前に相手役の台詞を自分で吹き込んで、その上でスマホを手にして練習したりしていましたし、感情的なものもおおかた理解できていたのですが、ただ、8番目の電話の相手=元カレに電話するところだけは悩みましたね。脚本を読んでいる時点では何だかうまくいく自信がないというか、気持ちはわかるのですが何か早いとでもいうか、自分の生理としてスピードが合わない気がして、それこそ本番前に元カレに電話してみようかなと思ったりもして……やらなかったですけどね(笑)。でも、冴子のああいった境遇の中で電話をかけたい10人の中に元カレが含まれているって、どんな感じなのだろうと……。

―― 実はそのことも質問したかったんです。実際そういうことってありえるのだろうかと……。

宮澤 私はあると思うんです。ただ、これは見る方の人生によって意見が変わるところではないかと思いますね。

―― 主人公の立場が男性だったら、過去を引きずりがちなので、元カノに電話したがる気持ちはあるだろうと理解できますが、女性は元カレに電話するのかどうかが正直わからなくて……。

宮澤 女性もありますよ。最愛の人がいなくなった後、誰を頼り、甘えたいかというと、冴子の感覚に私は近いというか、友達よりも誰よりも、かつて付き合ってきた、心に残っている人になるのではないかなと。だから女性でも十分成立すると思います。女性はどんどん過去を消去していくとはよく言われることですが、その一方でこういうことも実際は「ある」のだと。

―― 映画を見ていますと、あの元カレとはうまく言ってはいたけど、カレのほうに結婚願望がないというか、そんな雰囲気が漂ってますね。

宮澤 そうなんですよ。だから冴子の方から身を引いたというか、決して嫌いになって別れたわけではないと思いながらやらせていただきました。

―― 撮影中、何か監督からの演技指導みたいなものは?

宮澤 それがもう、こちらが心配してしまうくらい全然なくて……。本当にお任せ状態でしたので、これで大丈夫かなあと思っていたのが正直なところです。でも、私は室賀組が初めてでしたので、そういうタイプの監督さんなんだなと(笑)。また、どうしても次第に精神的に追い詰められていく役柄ではありましたが、比較的順撮りでやらせてもらえたのも助かりました。

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『櫻の園』の呪縛から解放されて今は感謝の気持のみ

―― 実際に完成した作品をご覧になって、いかがでしたか。

宮澤 自分の想像を超えていました。親友とのシーンも、学生時代の回想などでホロリときたり、実際には撮影で一度もお会いしていない人たち個々と見事に繫がっていたことに驚きましたし、感動しました。

―― 海外でも既にユナイテッド国際映画祭2016最優秀主演女優賞(外国映画部門)およびロサンゼルス・インディペンデントフィルム・フェスティバル・アワード2016 JURY MENTION(審査員特別賞)を受賞されています。どういったところが評価されたと思われますか?

宮澤 やはり内容が「生と死」という世界共通のもので、誰でも共感できるものをわかりやすくも奥深く描いているところではないかと思います。

―― 久々の主演映画ということではいかがでしょう。

宮澤 そうですね。もう26年もこの仕事をやってきていますけど、主演ってなかなかできるものでもありませんし、それはもう死ぬ気でやりましたし(笑)、この後もずっと繰り返し見続けてもらえるものになったと思っています。自分の中で今できることはすべてやりました。

―― 宮澤さんといいますと、『櫻の園』(90)で学内を駆け回っていた演出担当の少女・城丸香織役が鮮明ですが、それから時を経ての主演映画『苺の破片 イチゴノカケラ』(05)では、スタートこそ華々しかったけどその後伸び悩んでいる漫画家という役柄に、当時のご自身の忸怩たる心境を重ねているような感もありました。もっとも、最終的にはそこを乗り越えていくラストに希望の意思を感じずにはいられず、そして今回、宮澤さんが見事に『櫻の園』の呪縛から完全に脱却されたのだなという感銘を受けました。

宮澤 ありがとうございます。今、何か鳥肌立っちゃった(笑)。おっしゃる通り、私は初めて出させていただいた映画が『櫻の園』で、あれがものすごく評価されて、でもそれゆえのプレッシャーとでも言いますか、しばらくの間、何をやっても『櫻の園』と比較されて悩んだりしていた時期も正直ありました。あまりにも優れた作品であったがために、それに関わっていた人たちすべてに、大なり小なりの呪縛みたいなものがあったように思いますね。

―― その『櫻の園』の共演者の梶原阿貴さんと共同脚本をお書きになり、『櫻の園』の中原俊監督(高橋ツトムと共同)のメガホンで完成させたのが『苺の破片』だったわけですね。

宮澤 『苺の破片』をやれたことで振り切れたとでも言いますか、その後はもう『櫻の園』に対して感謝ばかりです。あの作品があったからこそ、今の私がいるんだって。この前も乃木坂46さんのCDに封入されるショートムービーに出させていただいたのですが、監督さんが『櫻の園』の大ファンで、私にオファーしてくださったんです。現場も乃木坂の若い女の子たちがいっぱい華やいでいて、どことなく『櫻の園』の現場を思い出したというか、彼女たちなら『櫻の園』をリメイクできるのではないかなとも思いましたね。

―― 『お元気ですか?』は、『櫻の園』から四半世紀を経て、ひとりの素敵な大人の女優として佇む宮澤さんの魅力にあふれた秀作です。同時に、また室賀監督と組んで、今度は『グロリア』のようなヒロイン・アクションものにも挑戦していただきたいと思いました。

宮澤 ぜひやってみたいですね。でも私、まだ一度も拳銃撃ったことがないんですよ(笑)。

(取材・文:増當竜也)