宮崎駿高畑勲ら不世出のクリエイターたちが築き上げてきたスタジオジブリの世界観に、ヨーロッパの新たな息吹が注ぎ込まれた。最新作『レッドタートル ある島の物語』は、スタジオジブリ初の海外共同作品として大きな注目を浴びているが、長年のファンが抱く“ジブリらしさ”とは異なる独特の作風に不安はなかったのだろうか? 本作のメガホンを取ったオランダ出身のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督を交えながら、プロデューサーの鈴木敏夫が赤裸々に語った。

 本作は、第73回アカデミー賞短編アニメ賞に輝いた『岸辺のふたり』などのヴィット監督とスタジオジブリがタッグを組んだ長編アニメーション映画。見知らぬ無人島に漂着した一人の男の運命をドラマチックに活写する。なお、鈴木と共に『かぐや姫の物語』の高畑監督がアーティスティック・プロデューサーとして参加し、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門特別賞を受賞した。

 わずか8分間で女性の一生を描き切った『岸辺のふたり』に深く感銘を受けた鈴木は、ヴィット監督について「西洋人なのに、どこか東洋のにおいがする」と語り、「ジブリが関わることによって、それがより鮮明に表現することができた。西洋と東洋のせめぎ合いによって生まれた作品」と本作を分析する。初めて脚本を読んだときも、「いわゆる世界にゴマンとあるロビンソン・クルーソーものですが、マイケルが作れば別格のモノができると確信した」とその信頼は絶大だ。

 さらに鈴木は「単純化して考えれば、前作の『岸辺のふたり』が女の一生なら、本作は男の一生、という捉え方もできますよね。でも、この2作品を観ると、あらためて生命を産み出す女性はすごいなって思いますね。男はおこぼれで生きている」と持論を展開。すると、この言葉に驚いたヴィット監督は「そんなふうに捉えていたなんて、いま初めて知りました。男性、女性ときたら、次は何を撮ればいいのでしょう? 本作はカメだったから、カニの長編でも撮りましょうか?」とジョークを飛ばした。

 ところで今回、スタジオジブリは、海外監督との初コラボレーションという大きなチャレンジに打って出た。長年のファンは新たな世界観を目撃することになるが、製作に携わった高畑監督は「絵も動きも音楽もお話も、そしてユーモアのセンスも全て素晴らしかった」と手放しで絶賛。この企画を立ち上げた張本人、鈴木に至っては「果たしてファンに受け入れてもらえるか」という不安は一切なかったと自信をのぞかせる。

 「よく『ジブリらしさ』と言われますが、それを一番わかっていないのが僕なんです。何をもって『ジブリらしさ』なのかなと。絵のタッチが違うとか、そういうことは人に指摘されて初めて知ったくらいですから。根幹的なことで言えば、ジブリは『絶望を語ってはいけない』。アニメは子供が観るものだから、それはいつも心のどこかで思っています」と表情を引き締める。

 スタジオジブリ初の海外共同作品、そして初の長編アニメーション挑戦と、二つのプレッシャーと闘い続けたヴィット監督は「わたしには大きすぎるプロジェクトでしたが、ジブリの皆さんは、いつも心の支えになってくれました」と感謝しきり。ただ1点、心残りがあるとすれば、高畑との関係性だと振り返る。「わたしの仕事を尊重するあまり、高畑さんは踏み入った意見を控えているようだった。ただ、わたしにとって高畑さんは憧れの存在。もっともっと厳しい意見を言ってほしかった」と吐露していた。(取材・文・写真:坂田正樹)

映画『レッドタートル ある島の物語』は公開中