アメリカ現地時間9月18日、ロサンゼルスのダウンタウンにあるマイクロソフト・シアターで、テレビ界のアカデミー賞と言われる第68回エミー賞授賞式が華やかに開催された。一層勢いを増すテレビ業界を反映して、今年も質の高い候補作が目白押し。受賞作を予想するのが難しい混戦状態だった。

「GOT」がエミー賞史上最多受賞作に!

 今年の司会者は、深夜のトーク番組「ジミー・キンメル・ライブ!」で人気のコメディアン、ジミー・キンメル。大統領選間近ということで、オープニングからドナルド・トランプを皮肉ったジョークを連発。今回、エミー賞史上初めて、全ての主演俳優部門に有色人種の候補者が入っていたのだが、今ハリウッドで話題の「多様性」に関するネタも続出した。 

 ドラマシリーズ部門は、23と最多ノミネーションだったHBOのファンタジー大作「ゲーム・オブ・スローンズ」が、昨年に続いて作品賞、監督賞をはじめ計12部門で受賞。総受賞数が38となり、「そりゃないぜ!? フレイジャー」(1993〜1996)が保持していた記録を抜いて、エミー賞史上最多受賞作となった。

若手注目株が主演男優&女優を初受賞

 ドラマシリーズ部門主演俳優枠は、男女とも若手が受賞し新鮮だった。主演男優賞は、USAネットワークのサイバーパンクサスペンス「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」で天才ハッカーを演じて絶賛されているラミ・マレックが、初ノミネーションで初受賞。有力視はされていたものの、1度もエミーを取ったことがない大ベテランのケヴィン・スペイシーらが候補だったこともあり、とても驚いた様子だった。「オーマイゴッド」と繰り返しながら壇上に立ち、「どうか、みなさんもこれを見ていると言ってください」と、演じている役に妄想癖があることにかけて、受賞が信じられないことを表現、満場の拍手を受けた。

 主演女優賞はクローン人間を描いたBBCアメリカとSPACEの「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」で、1人で何役も演じているタチアナ・マズラニーが、2度目のノミネーションで初受賞。大きなサプライズだったようで、スピーチを書き留めていなかったタチアナは、携帯電話を見ながら感謝する人々の名前を読み上げ、「女性を中心にした番組に出れてとてもラッキー」と熱く語った。

 コメディシリーズ部門では、HBOの政治コメディ「ヴィープ(原題) / Veep」が2年連続で作品賞を受賞。女性大統領役のジュリア・ルイス=ドレイファスは主演女優賞を5年連続受賞という快挙。今の大統領選挙キャンペーンを皮肉ってスピーチを始めたが、最後に、父親が2日前に亡くなったことを、手を震わせて涙ながらに語る姿に、誰もが心動かされた。

 主演男優賞も、昨年に引き続いてAmazonの「トランスペアレント」でトランスジェンダーの父親を演じるジェフリー・タンバーが受賞。「トランスジェンダーの人々に機会をあげてください」と訴えた。クリエイターのジル・ソロウェイも2年連続監督賞を受賞した。

受賞者の「多様性」

 リミテッドシリーズ/テレビムービー部門では、O・J・シンプソンの裁判の舞台裏を描いたFXの「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」がノミネーション数22と前評判が高かったが、予想通りリミテッドシリーズ作品賞を受賞。また、O・Jの弁護士を演じたコートニー・B・ヴァンスが、「刑事ジョン・ルーサー」のイドリス・エルバや「ナイト・マネジャー」のトム・ヒドルストン、ベネディクト・カンバーバッチらを負かして主演男優賞を受賞。検察官マーシャ・クラークを演じたサラ・ポールソンが主演女優賞を、そしてスターリング・K・ブラウンが助演男優賞に輝いた。また「アメリカン・クライム」のレジーナ・キングが2年連続助演女優賞を獲得。この部門で、3人の黒人俳優が受賞することになった。
 
 テレビムービー部門の作品賞は、ブライアン・クランストンがリンドン・B・ジョンソン大統領を演じた『オール・ザ・ウェイ(原題) / All The Way』が最有力視されていたが、相変わらず人気の『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』が受賞した(作品賞は、リミテッドシリーズ部門とテレビムービー部門で、別々に与えられる)。

 また、多様性に関してだが、Netflixの「マスター・オブ・ゼロ」でコメディ部門脚本賞を受賞したアジズ・アンサリとアラン・ヤンは、インド系アメリカ人と台湾系アメリカ人。アランは、「アメリカにはアジア系アメリカ人が1,700万人いて、イタリア系アメリカ人も1,700万人いる。彼らには、『ゴッドファーザー』や『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』があって、僕らには“ロング・ダック・ドン”(『すてきな片想い』に出てくるステレオタイプのアジア人キャラクターの名前)がある。道のりは遠い」と語り、アジア系アメリカ人がもっと活躍出来るように、親たちに「バイオリンではなくカメラを買ってあげて」と訴えた。ハリウッドでアジア系アメリカ人についての話題が出ることは本当に稀なので、思わず声援を送りたくなった。

マット・デイモン&ジミー・キンメルの爆笑コントは10年来

 ところで、授賞式中、何度か大受けするシーンがあったが、一つご紹介しよう。バラエティ・トーク部門にノミネートされていたジミー・キンメルが、「ラスト・ウィーク・トゥナイト・ウィズ・ジョン・オリバー(原題) / Last Week Tonight With John Oliver」に敗れた後、突然リンゴをかじりながらマット・デイモンが舞台に登場。「今のカテゴリーを見逃したけど、受賞したの?」とジミーに質問。「いや、取れなかった」と暗い顔で彼が答えた後、「トロフィーはもらえないんだね?」と追い打ちをかけるようなやりとりが続き、「とても屈辱的だよね。賞をもらえなかったのに、今夜これからずっとみんなの前に立っていないといけないなんて。本当は家に帰って、体を丸めて泣きたいところなのにね」と言って、場内は大爆笑となった。実は、この2人には10年来続いている諍い(ジョーク)がある。ジミーは毎晩、トークショーの最後で、出番をずっと待っていた(という設定の)マットに向けて、「マット・デイモンに謝らないといけない。時間がなくなってしまったんだ」と言うのだ。このネタを使って、長年数多くのコントをやってきたこともあり、ジミーとマットの息はピッタリ。絶妙のコメディのタイミングで大いに会場を沸かせた。

 どんなに皮肉なジョークを言っても嫌みにならないジミーの人柄と、話術の巧みさで、テンポ良く進んだ今年のエミー賞授賞式。候補作が紹介されるたびに、これほど数多くの素晴らしい作品が作られていることに、改めて感心させられた。ハリウッドの才能が全てテレビ界に集まってきている感がある昨今、オリジナル作品がどんどん少なくなっている映画界はうかうかしていられないだろう。(取材・文:吉川優子)

第68回エミー賞授賞式(字幕版)は9月24日21:00〜、25日10:00〜海外ドラマ専門チャンネルAXNにて放送  ※12月に再放送予定