スペイン・バスク地方にあるサンセバスチャンは今年、EUによる欧州文化都市に指定されており、1年間に渡って文化イベントを実施中だ。その目玉の一つとして、アルフレッド・ヒッチコック監督が『めまい』を引っ提げて1958年の第6回サンセバスチャン国際映画祭に参加した時の記録を集めたエキシビジョン「ウェルカム Mr.ヒッチコック」が行われている。

 ヒッチコック監督がスペインとフランスにまたがるバスク地方を訪れたのは1958年7月21日〜24日の4日間。同映画祭は現在、例年9月下旬に開催されているが当時は7月だった。スタッフは3年間のリサーチを要して約100点の写真を集め、宿泊先やレストランの記録などから、何号室に泊まり、何を食べたか? まで丹念に調べ上げている。

 記録によると、ヒッチコック監督は、脚本家で夫人のアルマ・レヴィルを伴い、フランス・ビアリッツ空港に降り立ち、ロールスロイスでサンセバスチャンへ移動。当時は今のように取材スケジュールでびっしりということはなく、観光やアンティークショップにも立ち寄り、ヒッチコック監督が蝋人形のように店内に立っていたことから市民を驚かせたというエピソードもある。

 『めまい』の上映は1958年7月23日、歴史あるビクトリア・ユージニア劇場で。会場には審査員を務めていたアンソニー・マン監督(『グレン・ミラー物語』)もいた。しかし上映後の反応は、先に公開されていた米国同様に鈍く、間をおいてからようやく拍手が起こるという感じだったという。それでもシルバー・シェル賞(最優秀監督賞)を受賞しており、やはり映画祭での観客の反応と審査員の評価は別物のようだ。

 ちなみにこの年のゴールデン・シェル賞(最優秀作品賞)は、ポーランドのタデウシュ・フミュレフスキ監督『エヴァは眠りたい』(1957・日本未公開)。最優秀男優賞は『バイキング』(1957)の米俳優カーク・ダグラス。ほか、当時25歳だったロマン・ポランスキー監督が『タンスと二人の男』(1958)で短編部門に参加していた。

 そして当時のスペインは、フランシスコ・フランコ独裁政権時代で、映画祭のクロージングセレモニーには、カルメン・ポロ夫人が出席したという。わずか4日間の記録だが、間違いなく映画史だけでなく歴史そのものを映し出している。

 同展は今後、ヒッチコック監督も訪れたフランス・バイヨンヌでも開催されるが、その後は未定だという。日本でも年末にドキュメンタリー映画『ヒッチコック/トリュフォー』が公開予定で、改めてヒッチコック監督が注目されそうだ。(取材・文:中山治美)

サンセバスチャンのサンテルモ・ミュージアムを見学するヒッチコック監督

フランス・バイヨンヌのサント・マリー大聖堂を訪れた時のヒッチコック監督

「ウェルカム Mr.ヒッチコック」展入り口

「ウェルカム Mr.ヒッチコック」展の会場

サンセバスチャンの老舗レストランの看板とおどけるヒッチコック監督。同店では生ハム&メロンやカレイ、桃プディングなどを食べたという。

25歳の時のロマン・ポランスキー監督の写真も。若い!

会場内には正真正銘の「ヒッチコック劇場」も。全部木で作られた特設ミニシアター

フランス・ビアリッツ空港に降り立った時の新聞

「ウェルカム Mr.ヒッチコック」は10月14日までスペイン・サンセバスチャンの 2016 Space(the European Capital of Culture headquarters located in Calle Easo 43)で開催中(入場料無料)
映画『ヒッチコック/トリュフォー』は12月10日より新宿シネマカリテほか全国順次公開