「観るまでちょっと怖いという気持ちもあって……」、現在公開中の『映画「聲の形」』で耳が聞こえないヒロイン・西宮硝子役を担当した声優の早見沙織は、本作への思いを一つ一つ丁寧に語っていく。原作漫画通りの過激な描写や、難しいモチーフを扱いつつも、青春アニメーション映画として昇華させた『映画「聲の形」』にかけた彼女や監督の思いは熱い。

 「アフレコから公開まであっという間に感じました」と話す早見。早見が声を務めた硝子は、小学校時代クラスメイトからいじめを受けながらも笑顔をたやさない強さがあるが、同時にもろさも併せ持つ繊細な少女だ。「山田(尚子)監督と音響監督の鶴岡(陽太)さんと3人で話したことがあって。そのときに監督が『硝子は完璧でいい子に見えるかもしれないけれども、いつもの笑顔は成長過程で身に着けてしまったものであって。すごくもやもやしたものを内面で抱えながら、必死に立ち向かおうと生きている女性なんですよ』とおっしゃって。その話を聞いてから、カッチリと作り込まずに体当たりでぶつかっていった方がいいんだなって思ったんです」。

 今回早見は、山田監督たっての希望で硝子役に抜てき。テレビアニメの延長線ではなく最初から最後まで劇場版で描き切る必要がある本作での、この配役には、原作の人気ぶりも相まってかなり緊張したのだそう。早見は役のために何度も参考映像や音声を繰り返し聞いたと話す。「実際に耳の聞こえない方と2〜3時間お話しする機会もいただいたんです。そこで小学生くらいの女の子からお母さんや、高校生の女の子や同い年の方とお話しさせていただいて」。実際にセリフを読んでもらったり、好きなものや趣味、補聴器の仕組みや実際に聞こえる音、しゃべり方を覚えたときのことなどを質問して、彼らの気持ちに寄り添い、硝子の役づくりに生かしていった。もちろん、家の中で自分の発する「声」に集中して練習する日も設けたという。

 そして生まれた一つの考えが「『ハッ』とした声や息をのむような音を入れないこと」。「家にいるときには声を出すけれども、外にいるときには基本的に声を出さないという方が多かったんです。なので、あまりこまごま入れるのも不自然だなと思って」。劇中の硝子の声はとっさの出来事や笑いが込み上げてきたときにしか出さなかったのだとか。

 またこの役との出会いが、彼女の中にある変化を呼んだのだそう。「それこそ言葉では形にはできないのですが、でも確実に経験しているかいないかでは、わたし自身全然違うと思っているんです」。芝居や作品とのかかわり方、作品のテーマ、さまざまなものを学んだという。幼少期に抱きつつも、成長するにつれて胸にしまい続けていた胸を刺すような感情。全てと向き合い、彼女は“西宮硝子”を演じきっている。(編集部・井本早紀)

『映画「聲の形」』は新宿ピカデリーほか全国公開中