映画を観て大学の単位が取得できるという、画期的な試みが実施されることが明らかになった。全国に84の劇場を運営し国内では最多となる709スクリーンを展開しているイオンエンターテインメントが、千葉商科大学とコラボレートし「映画興行、映画製作、配給」を題材とした「シネマ教育事業」カリキュラムを発表した。映画人口が年々減少していく中、このような教育機関との連携など様々な映画事業に挑戦し続けているイオンエンターテインメント株会社代表取締役の牧和男氏に話を聞いた。

 「映画を観て単位が取れる」とは、なんとも魅力的な話だが、カリキュラムの内容も実に興味深く、新作2本、旧作1本の映画鑑賞に加え、20世紀フォックス、ユナイテッドシネマ、ギャガなど映画界を代表する配給会社の現役ビジネスパーソンたちが講義を行う予定だ。牧氏はこの教育事業との連携について、「社長に着任してから3年目なのですが、着任してすぐの頃、福島の映画館がない場所に住んでいる中学生に映画をみせるというプロジェクトがあったのですが、そのとき『はじめて友達と一緒に笑った』『はじめて映画館で映画を見て感動した』という感想がとても多かった」と語る。このとき「映画は興行だけではなく、教育という視点で市場を伸ばせないか」と考え始めたという。今回対象となる学生たちが、授業で学んだマーケティングや経営学の知識をいかし、映画興行ビジネスについてディスカッションすることによって、映画興行の何に興味を持っているのか聞けることに期待を寄せている。

 映画業界初となるこのプロジェクトをはじめ、新たなフィールドを切り開いている牧氏だが、そもそも映画と自身とはどのような関係だったのだろう。もともと大の映画ファンだったのか? という質問には意外な答えが返ってきた。「この仕事に就く前は忙しくてなかなか映画館に行くこともできませんでした。だから、映画を観るとしてもタブレットで観たり、出張に行く時に飛行機の小さなモニターで観たりでした」と苦笑い。だが、そんな牧氏を変えたのがイオンシネマの社長に就任した際の劇場での体験だったという。「本当に久しぶりに劇場で映画を観たとき、大きいスクリーン、そして最高の音響という環境だと印象がまるで違うと感じた」と当時を思い出し、それをきっかけにより多くの人たちに劇場で映画を楽しんでほしいという気持ちが強くなったという。

 いまの世の中には、NETFLIX、Huluなどスマホでいくらでも映画を楽しめる便利なサービスがたくさんある。それらを使って映画鑑賞するのももちろんいいが、やはり映画館での鑑賞は格別なものがある。国内最多のスクリーンを展開しているイオンシネマの代表である牧氏もまた、スマホなど小さな画面でばかり映画を観ていた時代があったからこそ映画館の魅力が語れるのだろう。「特にイオンシネマはショッピングモールの中にあるんですが、実はそこから映画館に行くというお客様がまだ多いとは言えません。ぼくのように映画館に行くことのなかったおじさんは世の中にたくさんいると思います(笑)。映画館の前を素通りしていたお客様に、映画館で映画を観るきっかけを作りたいんです」と今後の野望を明かした。

 イオンシネマと連携した「映画教育」は、これに留まらない。神田外語大学とのコラボレーションで、映画を観る前に外国の文化や社会背景を学ぶことができる解説付きの上映会もそのひとつだ。年々厳しさを増している劇場興行の未来に向けて挑戦を続ける牧氏率いるイオンシネマに、今後も期待したい。(取材・文:森田真帆)