昨年、昭和天皇を演じて日本アカデミー賞助演男優賞に輝いた俳優・本木雅弘。「自分のようだ」と役にほれ込み、アカデミー賞外国語映画賞受賞の『おくりびと』(2008)以来、約8年ぶりに主演した映画『永い言い訳』(10月14日〜、西川美和監督)が公開される。これまでプレッシャーのかかる実在の人物役を数多くこなし、折り紙付きの演技・表現力で観る者を圧倒してきた本木は、付け入るスキのない完璧な実力者に見える。しかし本人は、自身の内面を「不安の塊」と言い表した。本木が抱える不安とは何なのか。

 本木が新作で演じているのは、不貞の最中に妻を亡くした小説家。なぜか泣けない自分の心と苦しみながら格闘し、ある答えにたどり着くまでの人生の“旅路”を描いている。役の「ねじれた自意識」に似た部分を感じたといい、「わたしもずっと表立った仕事をしているわりには、内面が小さかったり、散らかっていたりするんです」と意外な言葉を口にした本木。「本音を言うと、不安って言いながら不満なんです(笑)。自分に対する不満です。出来ない自分への不満足」。より高みを目指すストイックな姿勢がうかがえる。

 西川監督は、フランクな“ボロさ”がある本木は魅力的だと断言する。「本木さんて、ナルシスティックではないんですよね。実はそんなにボロさを隠そうとせず、結構平気で人に配り歩く(笑)。本当にかわいらしい方だなと」。不安を封じ込めずに、整理もしないまま演技することを要求したという。演出家として、心を裸にしてぶつかってくる本木を狙いたかった。

 それでも、裸になりきれない本木。テスト撮影でうまくいっても、本番では1枚まとってしまう。なぜ、素を出しきることが出来ないのか。「サガなんでしょうね。あからさまもまた野暮か? とつい体裁を整えてしまう。わたしにはどこかでずっと隠している自分がいる。監督は裸に見えたと言ってくれましたが、どうしても脱ぎきれない自分がいたのも事実。でも、いつか全てを晒してみたい」。この先何年、何十年後かにはきっと、「ずっと隠している」本木の封印が解き放たれ、また新たに映画史に名を刻むような名演を見られるに違いない。(編集部・小松芙未)