47都道府県、各地のビールスポットを訪ねます。奈良でコロカルが向かったのは、「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されている、熊野参詣道小辺路(こへち)が縦断する十津川村。

東京23区よりも広い、昔ながらの山村風景が残る村

奈良県の最南端に位置し、日本一の面積を持つ村として知られる十津川村。村には電車が通っておらず、奈良県内にある近鉄大和八木駅からは車で2時間20分、和歌山県内にあるJR新宮駅からでも1時間30分はかかる、深い山あいにある村です。

十津川(熊野川)。生活用吊り橋として日本一長い〈谷瀬の吊り橋〉がかかる川としても知られています。

村のほぼ中央にある十津川村役場から細い山道を車で10分ほど登ったところにあるのが〈大森の郷〉。東洋文化研究家であり、日本の古民家再生事業の第一人者であるアレックス・カー氏が監修した、築100年以上の古民家を再生した宿泊施設です。

木の温もりあふれる〈大森の郷〉。古民家の外観と、近代的な内装とのギャップも魅力のひとつ。

かつては明治7年に開校した旧武蔵小学校の教員住宅だったという、この建物。1970年に学校統合により廃校となってからは、そのままになっていたのだそう。「大森の郷として営業を始めたのが2014年で、改修をしたのは2011年頃。それまでも建物をどうにかしたいという話は何度かあったんですよ」と案内をしながら教えてくれた平瀬生代さん。大森の郷を改修するにあたって地域住民で立ち上げられた〈むさし地域活性化協議会〉のひとりです。

最大4名まで宿泊できる〈焼峰〉。ヒノキやスギが使われており、木の香りが室内に漂います。奥にあるのはデンマークのスキャン社製の薪ストーブ。

「でも『火事でも起きたらどうするんだ』と最初は言われてしまって。それから何年も経ってからまた話が出て、いまのままでは建物がだめになってしまうからと改修することになったんです」

焼峰の和室部分。6畳間が2部屋つながった、ゆったりとしたつくり。

「改修の話が出てから、村役場の担当者に『徳島の祖谷(いや)に古民家を改装している宿泊所があるから行ってみよう』と誘われて。その訪問がアレックスさんとつながるきっかけになったんですよ。そのときもし違う場所へ行っていたら、いまとは違うかたちになっていたでしょうね」と平瀬さん。

アレックス・カー氏による監修のもと十津川材を用いて改修され、地域活性化の拠点となる大森の郷へと生まれ変わった旧教員住宅。「この地域はお年寄りが多いから夜に出歩く人もいなくて、街灯があっても全体的に暗いんですよ。でも、ここにお客さんが泊まるようになって『灯りがついてるからいいね』って周囲の反応はありましたね」

宿泊されるのは、どんなお客さんが多いのかと尋ねると「関東からいらっしゃる方もいるし、近くの奈良県内の人も来られるし、もうさまざま。あとアレックスさんを尊敬しているという、海外からいらっしゃった方が泊まったこともありますね。皆さん『ゆっくりできました』って言ってくださるので、うちの土地なりの良さがあるのかなって思います」と平瀬さん。

ちなみに「毎年お盆の時期に3日間お泊まりになられる方もいて。その方は来年の予約をしてから帰られましたね」と、すでにリピーターもいるのだそう。周囲にはお店などもほとんどなく、緑が広がります。その環境を求めて「何もしない」ために来るのかもしれません。

地域の方々が日々の暮らしのなかで運営していることもあり、食事などは基本的に自炊となる大森の郷。そのなかでオプションとして提供されているのが、熊野地方の郷土料理である「めはり寿司」をつくる体験プラン。

めはり寿司とは、山仕事や農作業の合間に食べられていた、高菜の漬け物で巻かれたおにぎり。昔はめはり寿司は大きかったので、食べるときに大きく口を開け頬張ると、目を見開くことから「めはり寿司」と呼ばれるようになったのだそう。

材料は炊きたてのご飯、かつおぶし、醤油、そしてポン酢に浸した高菜。高菜は広い葉の部分を4日ほど塩漬けしたものを使います。「昔は塩漬けの高菜でつくっためはりを、酢醤油を少しずつつけて食べていたんです。味つけの高菜になったのは、“めはり”として売られるようになったからかも。私は見たことはないけど、昔は生の高菜を火であぶって、お味噌を薄く塗って白ご飯を包んだめはりをつくっていたこともあるようですよ」

「まずはアツアツのご飯をあけて、お醤油を、うっすら味がつくくらいかけて、しゃもじで混ぜます。混ざったら、今度はかつおぶしを入れます。味つけは家庭によって違いますね。みんな、我流ですから(笑)」

「水気を軽くしぼった高菜の葉の裏が上になるように手のひらにのせて、そこにご飯を置いて寄せて、手前から高菜でくるみます。ご飯を握らずに、包むようにね」と教えてくれる平瀬さん。

せっかくなのでひとつつくらせてもらいました。説明を聞いていると簡単につくれそうですが、ご飯がうまくまとまらなかったりと、これが意外と難しいのです。

「5月の連休やお盆に子どもたちが帰省するときには、めはり寿司をつくっておくんですよ」と話しながら、手際よくめはり寿司をつくる平瀬さん。めはり寿司が村のソウルフードであることを実感させられました。

完成しためはり寿司をパックにつめてもらい、用意していただいたお弁当を手に向かったのは、村一番のビューポイント。取材で訪れた8月下旬、村の田んぼでは黄金色の稲穂が陽を受けてきらきらと輝いていました。

「もう村には専業農家はいないですね。みんな自分たちで食べる分だけつくっています」と途中まで道案内をしながら、畑や農地のことを教えてくれた平瀬さん。「あの木は柿、あれは栗。その隣はキウイ。キウイを育てている家は何軒かありますね。それぞれの家でいろいろなものを育てているから、もう何でもありますよ」

勾配がやや急な細道をのぼって到着したビューポイントから見えたのは、どこまでも続く熊野の山並みと、のどかな田園風景。日々の喧噪を忘れさせてくれる景色を眺めながらめはり寿司を頬張ると、高菜のほどよい塩気が汗を流した体に染みわたり、なんとも心地いい気分に。ごくりとビールをひと口飲むと心もすっかりほぐれ、あらゆる感覚がリセットされるのを感じました。

気軽に足を運べる場所でないからこそ味わえる、特別な景色と時間。これから錦秋に染まる山あいで、静かに思索の秋を過ごしてみてはいかがでしょう。観光を楽しむのとはまた違う、日常から離れる旅の新たな醍醐味を発見できるかもしれません。

今回飲んだのは、地元の人と一緒につくった〈キリン一番搾り 奈良づくり〉

「伝統を受け継ぎ、自然ととけあって暮らす」と言われる奈良の人。そんな地元の人と地元のことを語り合ってつくられたのが、この〈キリン一番搾り 奈良づくり〉です。パッケージのイメージカラーは、若草色。さて、その味わいは……。

キリン一番搾り 奈良づくりってどんなビール? →

神戸工場製造

※本商品は神戸工場での製造ですが、奈良のお客様と共に奈良ならではの味わいをつくりあげたため、「奈良づくり」としています。

問合せ/キリンビール お客様相談室 TEL 0120-111-560(9:00〜17:00土日祝除く) ストップ!未成年者飲酒・飲酒運転。のんだあとはリサイクル。

information

大森の郷

住所:奈良県吉野郡十津川村大字武蔵487

http://www.totsukawa-stay.com/

writer profile

Miki Hayashi

林みき

はやし・みき●フリーランスのライター/エディター。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手がけた後、フリーランスに。生粋の食いしん坊のせいか、飲料メーカーや食に関連した仕事を受けることが多い。『コロカル商店』では主に甘いものを担当。

photographer proflie

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。

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