変化し続けて3代目

岐阜県の美濃地方でつくられる陶器、美濃焼は全国で4割以上のシェアを誇っている。しかしこの30年ほどで、950軒ほどあった窯元が350軒程度にまで落ち込んでしまった。そのなかでモダンなデザインで特色のあるものづくりをしているのが、土岐市にある〈SAKUZAN〉だ。

〈Riz〉という耐熱のシリーズ。

現在SAKUZANを牽引する代表取締役の髙井宣泰さんは、3代目にあたる。髙井さんの祖父の代はまだ窯元ではなく、〈山作陶苑〉として上絵つけなどの二次加工業に勤しんでいた。父の代では窯元となり、新たに〈山作陶器〉という会社も立ち上げた。そんな先々代、先代の背中を見て育った髙井さんだったが、若い頃はその道を継ぐ気はなかったという。

「親父たちの苦労を間近に見てきたし、当時はバブル時代で3Kのような職があからさまに敬遠されていた時代。僕も継ぐ気はなくて、名古屋芸大のデザイン科に進み、その後アパレル関係のプランニング会社で働き始めました。でもすぐに、父の体調が悪くなって実家に戻ることにしたんです」

こうして土岐に戻り、山作を反対にして〈作山窯〉という会社を立ち上げた。それぞれの代で、ただ父の会社を継ぐだけでなく、新しい会社を立ち上げている。進化していかなくてはならないという思いは、髙井家のDNAのようだ。

作山窯代表取締役の髙井宣泰さん。

エントランスではかわいい焼き物ロゴがお出迎え。

大量生産の美濃焼のなかで、少量多品種のSAKUZAN

美濃には土が豊富にあり、技術も髙いので、量産できるのが美濃焼の特徴ともいえる。土もいろいろなものをつくってしまうし、釉薬も同様。日本の陶器技術が集約した地だという。技術の高い美濃は良くも悪くも、なんでもできてしまう。それによって、美濃焼の伝統を受け継ごうとする「作家」と、大量生産の「工場」という正反対の側面が生まれる。父の代までは量産のメーカーだった。現在のSAKUZANではその両方のいいとこ取りを目指した。

「最初はまったくうまくいきませんでしたね。何をつくっていいのかがわからない。それは自分の理想が高い位置にあるということではなく、市場がわかっていなかったということです。茶碗のサイズ、湯呑みの色合い、重さ……」

デザインの問題ではなく、市場が無意識に受け入れてきた手の感触があるはずだ。それをはずしてしまうと、まったく受け入れてもらえない。

「3年目くらいから、やっと少しずつものづくりというものがわかってきました」

石膏型に土を流し込んだあと、乾燥させている状態。

髙井さんが初めてジレンマを感じたのは流通の問題。まず、美濃に産地問屋がある。その先に東京などの消費地問屋。その後に店舗に並んだり、飲食店で使われたりする。しかしこれではエンドユーザーの求めているものがわからない。そこで15年ほど前から年に1回、東京で展示会を始めた。

「地場産業ですし、3代もお世話になっているので、問屋を介しても構わないのですが、自分たちのやっていることをちゃんとみんなに見てほしかったんです」

SAKUZANは実に多くの陶器をつくっている。髙井さん自身も「少量多品種です。何種類あるかわかりません」と笑う。

「土や釉薬、焼き方などの技術的な伝統は大切にしながら、せっかく美濃焼はいろいろなことができるので、もっと表現していったほうがいいと思っています」

多くのメーカーは使う土が決まっている。しかしSAKUZANでは土は13種類、焼き方は6種類、釉薬にいたっては100種類以上あり、それらを使い分けている。

「提案型のメーカーでありたいんです」

生産性は悪くてもいろいろな提案ができるから、使われるお店やシチュエーションを想定したものづくりにつながる。髙井さんはあくまで作家ではなく、職人でありたいという。日常使いのうつわは、市場のニーズあってこそ。

「小売りのお店にもカラーがあります。このお店ならこういうマグカップが売れるなとか、この照明の飲食店ならこんなお皿が映えるなとか」

SAKUZANの提案型のひとつとして、モダンなデザインのシリーズが挙げられるだろう。飲食店などで多く使われているというだけあって、洗練されたデザイン。でもどこかに100%マシンメイドとは違うあたたかみが残っている。

「陶器は磁器に比べても割れやすく、汚れやすい。デメリットがたくさんあります。でも木製品もテキスタイルも、世の中には同様のものがたくさんあります。使えば傷つくし、色も落ちるもの。だからそれを逆に生かせるような土の素材感を意識したい。陶器は割れやすいから厚めにつくるのが常識です。でも薄くしてシャープにしてみようと」

ほとんどのデザインを担当しているのは髙井さん自身だ。

「インテリアの意匠をデザインの参考にすることが多いですね。月に1回、東京に営業に行くのですが、陶器はなるべく見ないようにしています。先入観を植えつけられてしまいますから」

数年後に突然ヒットする商品もあるという。

「3〜5年後に急にヒットしたシリーズもあります。市場のものは過去のものですから、それを追っていてもこなしているだけになってしまいます。常に数年後を見据えていきたいです」

市場で売れるものと、提案型のものをしっかりと使い分けているのだ。こんな話を聞いた。

「ある有名なシェフにお皿を提案したら、“使えない”と即答されて。食い下がって1枚お渡しするので使ってみてくださいと渡しました。そうしたら数日後、そのお皿を使いたいと連絡が来たんです」

まさに提案が招いた逆転勝利。お客さんには、若手のフレンチや創作料理など、飲食店も多い。そうした場合、発注はどうしても少ない数になってしまう。

「細かくて対応が難しい場合もありますが、できるかぎりやりたい。“土”屋さんも“釉薬”屋さんも、同様に大変なので、一緒にがんばっていきたい。もちろん商売なので数字が大切ですけど、そればかり追求したら僕がやりたいことではなくなってしまいます。縁でも会社が成り立つんです。大きなメーカーだったらそんなこと言ってられないと思うけど、うちくらいの規模だったらちょっと工夫すれば仕事はいくらでもあります」

若手がつくる未来のSAKUZAN

これまでは、ほとんど髙井さんがうつわのデザインをしていた。しかし今年からSAKUZANの若手ラインが登場するかもしれない。社員の職人たちは仕事の合間をみて新しい商品の開発にも取り組んでいる。ちなみに、美濃でも、こんなに若手が揃っている窯元は珍しい。

「けっこう自由にやっていますよ。商品のサンプルが上がってくるようになったら、たまに社内で食事会をやってみようと思っているんです。やはり使ってみないとわかりません。他人の意見を聞くことは重要です。それでも、かたちはつくれるけど、市場に合うものはなかなかつくれませんよ」

そのなかからいい商品ができれば、もしかしたら来春あたりからSAKUZAN若手ラインが生まれるかもしれない。

現在、SAKUZANは社員20名。「これから大幅に大きくするつもりはない」という。「失礼な話ですが、大きな会社だと何割かは使えない人がいたりしますよね。でもうちは20人が20人財産です」

SAKUZANのネクストは、やはり人がつくっていくようだ。

information

SAKUZAN 作山窯

住所:岐阜県土岐市駄知町1369-3

TEL:0572-59-8053

http://www.sakuzan.co.jp/

information

貝印株式会社

http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』でも、岐阜を大特集!

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:石阪大輔(HATOS)