茨城県水戸市と薬用養命酒でおなじみの養命酒製造株式会社が薬草を活用するプロジェクトをこの夏から開始しました。まずは、植物公園敷地内に〈水戸 養命酒薬用ハーブ園〉を2017年4月にオープンします。水戸藩に古くから残る薬草・生薬文化と、400年以上も前に創製された薬酒を継ぐ養命酒製造株式会社によって新たな薬草文化の価値を今に伝えていく、官民協働の新しい取り組みのかたち。コロカルでは、プロジェクトの重要な部分を担う市民向けのワークショップやイベントをレポートしていきます。

薬草ってなに? 体験して実感してみよう

夏から秋に変わる9月中旬の休日。水戸市植物公園を訪れると、たくさんの子どもたちがマイク越しに話す女性の話を熱心に聞いていました。今日は、「水戸 養命酒薬用ハーブ園プロジェクト」の第1回ワークショップ「薬草を愉しむオリジナル水府提灯を作ろう!」の開催日。植物公園の中の薬草園で、気に入った植物を採取することができる特別な日です。

園長の西川綾子さんの指導のもと、子どもたちは薬草・ハーブを好きなように採取し、その後の水府提灯(すいふちょうちん)づくりに使います。「みんな、南天って知ってる?“難”を“転”じるから“南天”っていうの。お赤飯を腐らせないように南天の葉を敷いたそうだよ」西川園長のガイドで薬草の名前のいわれや日頃どうやって使ったらいいかを教わりながら子どもたちは薬草に触れていきます。薬草といっても、普段なんとなく目にしているようなものもあり、みんな、興味津々。

ふだん通い慣れた植物公園の薬草園に、何かしらエピソードがあることを知って真剣に話を聞く子どもたち。ちなみに、西川園長はNHK『趣味の園芸』の講師をしており、テレビでもおなじみ。親しみやすい語り口で親子を魅了します。

現在、水戸市植物公園の中にある薬草園には水戸藩ゆかりの薬草が植栽されています。水戸徳川家第2代藩主である水戸黄門、水戸光圀公は当時、病気になっても貧しくて医者にかかれないような人たちに入手しやすい薬を、と身近な植物での処方について藩医の鈴木宗与に編纂させました。それが、日本最古の家庭療法の本ともいわれる『救民妙薬』です。その『救民妙薬(きゅうみんみょうやく)』に出てくる薬草がこの薬草園の主役なのです。

2代藩主光圀公、9代藩主斉昭(なりあき)公が医学に関心を寄せ、自らも学んだことが水戸藩の医学の基礎につながりました。そんな経緯もあり、薬草園の入り口には、斉昭公のつくった藩校(今でいう総合大学)、弘道館の瓦がこのように敷き詰められています。弘道館は水戸の日本遺産にも指定されています。

藍染でおなじみのアイは、“河豚に酔いたるによし(フグ毒にあたったときの処方によい)”と『救民妙薬』に記された薬草のひとつ。解毒や解熱、虫刺されなどに効能があるとされています。

西川園長に後ろについて薬草園からハーブ園へと移動するとミントやローズマリー、オレガノ、タイムなど、なじみのある食用ハーブが、こんもりと茂っていました。どのハーブも色が濃く、葉先までピンと張って元気いっぱい。西川園長は、その1枚を触らせました。「持って帰りたいくらいフワフワ〜」と子どもたちが頬につけてうっとりするのは葉の周りを白い毛に包まれたラムズイヤー。「薬草って見かけが地味でしょう?でも、こうやって触ったり、香りを嗅いだりすると興味を持ってくれるのよね」西川園長は子どもたちを植物に親しむ入り口へとガイドします。

参加したお母さんに「植物公園には、よく来ていますか?」と声をかけると、ふだんから子どもと一緒に遊びに来ているけど、大きな植物や温室の中の熱帯植物に目がいって薬草園には足を運んだことはなかったといいます。だから、植物公園で実際に植物に触れるのは初めて、という人もいました。

薬草を伝統工芸や暮らしに取り入れて

ワークショップでの子どもたちの最大のミッションは、江戸時代から水戸藩に伝わる、水府提灯づくり。水府とは、水戸の別名です。水戸藩の下級武士が自らの生活を支えるためにつくっていたという水府提灯は、“堅牢で丈夫”と評判となり、江戸をはじめ各地で使われてきました。そんな水府提灯と水戸藩ゆかりの薬草をコラボレーションさせてしまうという、楽しい企画に参加できるのは子どもだけ。大人も参加したかった!

子どもたちが、和紙に向かって黙々と作業を始めた頃、その様子を確認した大人たちは「薬膳ミニ講座」へ向かいました。体の調子を整えるための薬膳の知恵を教えてくれる講師は、養命酒製造の山本 梢さん。まずは、体調によってどんな薬草を取り入れたらよいかなどが書かれたレジュメが配られました。「薬膳というと、中華料理のようなイメージがあるかもしれませんが体調が一番いいようにバランスを整える食事法なんです。自分の体調をよくみて、五味・五性などのグループにわかれる食材の効能を生かしておいしくとりながら体のバランスを整えるという考え方なんですね」ハーブやスパイスには漢方でいう生薬に使われる植物もあり、量を調整しやすいので、日常に取り入れやすいと山本さんは言います。薬に頼らない体づくりのための、食材の合わせ方や体質改善や急な不調のためのハーブティーの取り入れ方などの話は夏の終わりの時期に開催されたワークショップの内容としてはどんぴしゃりで、特に、お母さん方は熱心に聞き入っていました。

「みなさんがよく使うカレーの固形ルーの量を少し減らしてスパイスをプラスする、もしくはスパイスだけで調理してもいいと思います。スパイスは、今やスーパーで簡単に買えますし、値段もそんなに高くはないので取り入れやすいですよ。ターメリックをミルクに入れて飲むと飲みやすく、抗酸化作用も期待できます。手軽に取り入れて体のバランスを整えていくといいですね」

植物公園内にある喫茶〈フィオレンテ〉では、山本さんが言うような薬膳の考え方を取り入れたカレーや飲み物を薬膳料理研究家やティーインストラクターの指導のもとで提供しています。この夏に新開発されたメニューは、夏野菜の薬膳カレー、ハーブチキン、ハーブティーなど。植物公園内で採れたローリエやバジル、タイム、オレガノなどを使っています。10月からは秋のまろやかきのこ薬膳カレーなどの秋メニューが始まりました。どれも、主に体の乾燥対策に重点を置いた素材使いです。西川園長いわく、素材が豊富にある園内での薬草・ハーブを使ったメニューの提供ということで、調理スタッフはより一層力が入り、勉強に勤しむ日々だとか。

薬膳講座のあとは、水戸市植物公園ハーブ友の会によるナチュラルな「薬草スプレー(虫除け)」のレクチャーが行われ、大人も薬草に親しみながらおみやげをつくりました。レモングラスや、ローズゼラニウム、ペパーミントとシンプルな素材のみを使っているので、虫が嫌うハーブがあれば自宅でも簡単につくれそうです。

最後に、大人も子どもも、先ほどつくった虫除けスプレーを吹きかけて、外へ。全員で記念写真を撮影し、第1回のワークショップは3時間弱で終了となりました。

わいわいと和やかな参加者は、市内だけではなく、宇都宮など県外からこの講座を楽しみに来た人もいました。「薬草やハーブの存在を知っていても生活に取り入れたことがなかったのでこんな簡単に取り入れられるなら、今度やってみようと思います」という声も聞かれ、ワークショップによって薬草やハーブを身近に感じられるようになったようです。

30年以上前から水戸市植物公園で働く西川園長は、こういった体験型のワークショップをこれまで精力的に行ってきました。植物は生きているため、毎日の世話が欠かせず、スタッフの数が足りないのがこれまで問題だったと西川園長は言いますが、水戸市と養命酒の協働事業が締結されたことによってより多くの方にご協力いただきながら活動できそうでうれしいです、とひと言。現在は、多くのイベントで企画からガイドまでもこなしているうえに春の薬用ハーブ園オープンに向けて、ガーデンデザインや薬草園の拡張整備など、やることが満載です。

そんな西川園長は、東京でガーデンデザインに従事した後に水戸市植物公園に入り、水戸に移住。こちらの園芸環境をとても気に入っているそう。「水戸は昼夜の寒暖の差がしっかりしているから緑が濃いのよね。おまけに、『救民妙薬』に書かれている薬草は今でもそのあたりにあるものばかり。そういう意味では、ただ、植物を見て楽しむのではなく、せっかく水戸藩の薬草の歴史があるのだから子どもから大人まで生涯学習ができる場になればいいなと思っています」地域住民の教育の場としての植物公園を目指している西川園長は日々、いろんなワークショップのかたちを画策しています。

きっと、春の薬用ハーブ園オープン後もさまざまな薬用ハーブにまつわるイベントやワークショップが企画されるに違いありません。

第2回ワークショップ「秋空ヨガとハーブティーの会」は、10月29日(土)午前10時から。水戸市植物公園の芝生園でのんびり、ゆったり、過ごす時間。ヨガとハーブに興味のある方はぜひご参加を!

詳しくはこちらをご覧ください。

また、第3回ワークショップ「健康落語 in 弘道館 〜笑って学べる歴史と薬草〜」の募集も始まっています。医学博士でもある、落語家の立川らく朝さんのお話は深くてためになりそうです。

次回は、第2回ワークショップ「秋空ヨガとハーブティーの会」のイベントの報告と、CSR事業として水戸市と協働で薬用ハーブ園づくりに乗り出した養命酒製造の想いやその歴史的背景について触れていきます。お楽しみに。

information

水戸市植物公園

住所:茨城県水戸市小吹町504

http://www.mito-botanical-park.com/

information

養命酒製造株式会社

http://www.yomeishu.co.jp/

writer profile

Chizuru Asahina

朝比奈千鶴

あさひな・ちづる●トラベルライター/編集者。富山県出身。エココミュニティや宗教施設、過疎地域などで国籍・文化を超えて人びとが集まって暮らすことに興味を持ち、人の住む標高で営まれる暮らしや心の在り方などに着目した旅行記事を書くことが多い。現在は、エコツーリズムや里山などの取材を中心に国内外のフィールドで活動中。

photographer profile

Yayoi Arimoto

在本彌生

ありもと・やよい●フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。

http://yayoiarimoto.jp

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supported by 養命酒製造株式会社