夫婦で綴る移住先探しの旅、理想の移住先は…?

改造ワンボックスカーで移動しながら、移住先探しの旅を続ける津留崎家。岡山のすてきな陶芸家夫婦の工房をあとにし、瀬戸大橋を渡って向かうは徳島と淡路島。一家がめざすような、自給自足の生活をする人たちを訪ねます。さて、どんな旅になったのでしょう……?

私たちが考える移住先の条件

今回の旅に入る前に、もう少し具体的に移住先について自分たちが望む条件をまとめておかないといけないように感じてきました。というのも、こんな生活をしたいというイメージはできてきたのですが、具体的にどんなところに? というのがかなり漠然としているのです。

このままでは、衝動的に「うお!この物件いい! 決めちゃえ!」みたいなことになってしまう気がしてきました。現に、岡山は候補地ではないと思っていたのに、出会う人々や食材があまりも魅力的なので惹かれまくってしまったのです。

ということで、自分たちの頭の中を整理する意味もあり、移住先に望む条件を考えてみました。あくまでも理想ですが。

1 自給的生活のベースとして

食卓に並ぶもののなるべく多くを自分たちでつくったものにしていきたいのです。また、食だけでなくエネルギーの自給も目指したいと考えています。そんな自給的生活のベースとなりえる土地をと考えています。

一家が自給するにはどれほどの面積が必要なのか? 自然農法の第一人者、故・福岡正信さんが著書『緑の哲学』で、「一家数人の者が完全な自然農法で自給態勢をとるために必要とする面積はわずかに10アール(300坪=1反)でよい。その面積の中に小さな家を建て穀物と野菜を作り、一頭の山羊、数羽の地鶏、養蜂を飼うこともできる」と述べています。この生活を目指したい!

2 井戸水・沢の水が飲める、または日常的に汲みに行ける距離に湧き水がある

東京では安全性や味の面からミネラルウォーターを買って飲んでいますが、水を買うという行為に違和感を感じています。飲む水は井戸水や沢の水という、ある意味、原始的な生活。そんな生活をしてみたいのです。

3 東京へのアクセスのよさ

前回、妻が書いていましたが、妻は仕事で東京と行き来することになりそうです。また、妻の仕事がなくても、東京には僕の高齢の親もいるので、ちょくちょく戻る必要があります。また、兄弟のいない娘のことを考えても、これまで同居して兄弟のように育った従兄妹たちになるべく頻繁に会わせたいという思いもあります。例えば車であれば、朝出発したら昼過ぎまでには着くくらいのところが理想です。

4 小学校・中学校が近くにあり、徒歩圏内に駅やバス停がある

通学に1時間以上もかかるような地域もあると聞きます。地方であれば多少はしょうがないとは思いますが、子どもに異常に負担がかかるというのは避けたいと考えています。また、高校に入学したときのことを考えると、自力で通学するためには徒歩圏内に駅かバス停がある立地が望ましいとも考えています。

5 温暖な気候

妻も自分もかなりの寒がりなのです。冬に雪が降り積もるような四季がはっきりと分かれている地域に憧れもあるのですが、東京の寒さでも真冬は出不精になってしまう私たちなので、1年を有効に使えるのは温暖な地域かなと思っております。

以前、知人の所有する山梨県甲州市の古民家によくお邪魔していました。アルプスに八ヶ岳。山梨や長野はとっても魅力的で、しかも東京から近いというメリットもあるのですが、冬の寒さに耐えられる自信がありません……。

6 なるべくお金をかけずに生活を始められる物件価格・賃料

1から6までの条件を考えると「房総半島」や「伊豆半島」がまず頭に浮かびました。しかし、上の条件に合うような物件を探すと、自分たちの予算とはかけ離れてしまいます。

フトコロ事情を具体的に話すのも恥ずかしい話ですが、その後の生活を考えると、物件を買うとしたら400万円、賃貸なら月3万円以内を目安としたいです。といっても、改修がどの程度必要かということによっても、その後の出費も変わってきますので、一概には言えませんが。

また、希望としては物件は購入でなく賃貸がよいのですが、物件自体、賃貸より売買が多いという現状もあります。地元の人と直接やり取りするような場合ですと賃貸も多くあるという話も聞きます。最終的には実際に物件を見ての判断になるのかと思います。

以上が、いまの段階で考える移住先に望む条件です。今後、実際にその土地や物件を見て、変わっていくかもしれません。ガチガチに決めてしまうのではなく柔軟に考えていきたいです。

条件には合わないけれど…理想の暮らしを訪ねて

さて、いよいよ本題、今回の旅。居心地のよさに後ろ髪をひかれる思いで岡山を出発したわが家。次なる目的地は徳島、淡路島です。穏やかな瀬戸内海にかかる瀬戸大橋を渡り、香川県を経由して、漠然と移住候補地として考えている徳島、そしてさらに橋を渡り、淡路島に行く予定です。

いくつもの島が浮かぶ穏やかな瀬戸内海は、気候も穏やか。それを見ていると自分の気持ちも落ち着いてくる。住む環境で人は変わるのかもしれない、と瀬戸内に来ると感じます。

橋を渡れば、そこは漠然と移住候補地と考えていた徳島と淡路島という状況になり、移住先の条件と照らし合わせてみると、なかなか厳しい……という気がしてきました。何をいまさら、という感じもしますが、わが家は昔から無計画でここまでやってきました。実際に足を運んでみないと納得できないという、なんとも遠回りな性分なのです。

晴れた日にはダッシュボードにソーラーパネルを置いてスマートフォンやモバイルバッテリーを充電しながら旅をしています。モバイルバッテリーを充電しておけば車中泊の際に、スマートフォンの電池が減っても安心です。

まず引っかかるのは、東京からのアクセス。徳島に車で行くととすると、淡路島経由で行くことになるようです。淡路島の神戸寄りのエリアでも、東京の杉並から車で渋滞なしで6時間かかります。東京から名古屋、京都、大阪、神戸という大都市を経由するルートで一度も渋滞に引っかからないというのも考えにくいので、6時間以上は確実にかかるのかと思います。朝出て昼過ぎに着く感じではないのかもしれません。

では、なぜ、漠然と移住候補地として考えていたのかといいますと、知人が住んでいて、彼らの情報から、「移住するのにはよさそうなところだ」と惹かれていたのです。同じく岡山や小豆島、九州にも知人がいるのですが、ちょっと遠すぎるかなと思い、移住候補地からは外していました。

でも、あらためて調べると、徳島と岡山だと、渋滞なしで7時間で、ほとんど同じくらいということがわかりました。完全なる思い込み。我ながら呆れてしまいます。

ということで、移住候補地の条件を整理してからは、徳島・淡路島は一旦外そうということになりました。といっても、この旅は移住候補地を巡るだけでなく、我々が目指すような暮らしをしている人たちを訪ねることも主題のひとつなのです。そんな人々を訪ね、徳島と淡路島を巡りました。

まず徳島では以前、妻がお世話になった東みよし町の民宿〈うり坊〉を訪ねました。

こちらの宿の売りは、自家栽培の野菜やその野菜を使った保存食、そして獣害駆除の目的でご主人自ら狩猟し、丁寧にさばいた猪や鹿の肉を使ったジビエ料理。猪や鹿はさばき方でその臭味や旨さがかなり変わってくるとは聞いたことがありますが、それを実感するような旨さなのです。

ご主人に、移住したら米や野菜を自給したいとお話ししたところ、「猪や鹿はどこの地域でも獣害で困っているのだから、狩猟して、肉も自給しなさいよ」とアドバイスをいただきました。確かに獣害で困っている現状からすると、その狩猟には大きな意味があります。そして、丁寧にさばけばとてもおいしくいただけるのです。

狩猟されてもそのまま野山に捨てられてしまうこともあるという現状を考えると、命を大事にするという観点からもとても意義のあることです。都会育ちの自分にできるのかという不安がないといえば嘘になります。でも、自給自足を目指すのであれば、その境地までたどり着きたい。ご主人とビールを酌み交わしつつ、そんな思いを抱いた有意義な夜となりました。

自分の先をいく人との刺激的な出会いも

淡路島は、神戸・大阪そして四国へのアクセスのよさや気候の穏やかさ、食材の豊富さもあり、移住者に人気の島です。移住に対してもNPO法人が移住体験施設を用意していたりと、受け入れ態勢も整っていて移住者が多いのもうなずけます。

そんな淡路島での移住について情報を集めていると、ある方から「移住希望者がお米をつくるのは、ハードルが高いかもしれませんよ」とうかがいました。というのも、淡路島は晴れが多い。とても魅力的ですが、逆に言えば雨が少ないということ。そんな淡路島では、歴史的にも慢性的な水不足に悩まされてきたようです。

最近では、本州から水道管を引っ張ってきているので飲料水が不足するということはないようですが、田んぼで使用する農業用水は別の話。移住してその地域になじめば、米づくりも問題なく始められるとのことでしたが。淡路島の風景には田んぼはかなり多く、米づくりも盛んと感じていたので、意外な実情でした。

やはり実際に足を運んで、現地の人にいろいろとお話を聞くと、インターネットや文献では知りえない情報が入ってくると実感しました。

淡路島では、妻がコロカルの連載で取材させていただいた〈観光農園 あわじ花の歳時記園〉を営む緒方さんにお世話になりました。淡路島の暮らしについていろいろとお話をうかがい、そして地元の食材を使ったおいしすぎる料理をたらふくいただきました。

緒方さんに紹介していただき、東日本大震災を機に福島から岡山を経て淡路島に移住した志田守さんにもお会いしました。それまでは農とは無縁だったとのことですが、いまではすっかり自給的な暮らしをされています。まさに自分の先をいく人です。

次の目的地は、また行き当たりばったり…?

さて、予定では、岡山から徳島、淡路島をめぐり、東京に戻ることにしていました。カーナビに自宅を入れてさあ、出発するぞというときに妻がボソッとひと言。「いま、美杉を見たらどう感じるのかな?」美杉とは三重県津市美杉町のこと。そこには、昨年、旅をしていて知り合った沓沢夫妻が住んでいます。

彼らに、彼らの生き方に私たちが惚れてしまって、何度も足を運んでいる土地なのです。

確かに、岡山、徳島、淡路島と魅力的な地域をめぐったものの、実際に走ってみるとかなり遠く感じました。また、淡路島は、自分の理想からすると水の問題が少しだけ引っかかりました。

三重県の美杉なら東京からの距離も条件の範囲内ですし、雨の多い紀伊半島、水が不足するということはないかと思います。淡路島とは逆に、雨が多くて少なからず問題があるのかもしれませんが、自分が何を重視するか? という話なのかと思います。

それまで訪れていたときは、移住を漠然とは考えてはいたものの決意には至っていなかったので、移住先という視点ではしっかりと見てはいなかったのです。ある程度、移住先に対する条件もまとまってきたこの段階で美杉を見てみたい、さらには、沓沢夫妻に移住を決めたという報告もしたいという気もしてきました。

ということで、その妻のひと言に大いに同感。さっそく、沓沢さんに連絡。

「急遽、美杉に行こうと思うのだけど、いまから行ってもいいかな?」

歓迎してくれるとのありがたい返信があり、カーナビの行き先を変更して美杉に向かうことに。

そんな行き当たりばったりで行き先を変更してしまう自分たちの頭の整理のできてなさ具合に呆れるとともに、そんな行き当たりばったりの旅がおもしろいんだと自分に言い聞かせる……。そう、初めて美杉を訪れたときも行き当たりばったりでたどり着いたのですから。

ということで、次回は美杉でのお話。わが家の移住、どうなることやら……。

information

民宿うり坊

住所:徳島県三好郡東みよし町東山字内野29

TEL:0883-79-5226

Web:http://nishi-awa.jp/sora-acmo/民宿うり坊

information

あわじ花の歳時記園

住所:兵庫県淡路市長沢247-1

TEL:0799-64-0847

営業時間:9 : 00 〜 18 : 00

定休日:通年不定休(12月30日 〜 翌1月3日休)

入園料:開花期以外/無料 アジサイ開花期/高校生以上500円、小中生400円

Web:http://ajisaien.net/

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎 鎮生

つるさき・しずお●1974年 東京生まれ東京育ち。大学で建築を学び、卒業後は、建築家の事務所勤務、自営業でのカフェバー経営、リフォーム会社など職を転々とする。地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。5年半ほど勤めたリノベーション会社を2016年6月末に退職し、新天地への移住に向けて本格的に動き出す。趣味は妄想。特技は妄想。s.tsurusaki@gmail.com

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Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

(メイン写真ほか)