昭和の文化遺産とも言われる、純喫茶。当時のインテリアが残る店内で味わえるのが、ナポリタン、オムライス、サンドイッチ、トーストなど、どこか懐かしさを感じる喫茶ごはんです。

そんな喫茶ごはんの魅力を伝える一冊が『純喫茶、あの味』(イースト・プレス)です。著者の難波里奈さん(以下、難波さん)が、これまで行った純喫茶は1600軒以上。なんと行きつけの純喫茶には、300回以上訪れているそう。

難波さんをそこまで夢中にさせる純喫茶の魅力について聞きました。
一般的にはアルコールを出さない喫茶店と言われてるんですけど、私の場合はもっとゆるい定義で、昭和の時代から純喫茶のお店として創業していてずっと同じ場所にあって、近所の方たちに愛されている昔ながらの喫茶店ということにしています。
純喫茶に通うようになった大きなきっかけは2つ。ひとつは、沼田元氣さんの著書、純喫茶の世界を表現した写真集を見て、好きになったこと。そしてもうひとつは、好きな古着のワンピースが純喫茶の空間だと違和感なくなじむことを知ったのがきっかけです。
全国1600軒以上の純喫茶をめぐっていますが、どの純喫茶も「そこにしかない」お店です。外観、店内のインテリア、マッチやコースターのデザイン、マスター、メニュー…ひとつとして同じものはないので、お店の個性を感じます。だから飽きることがありません。
そうなんです。同じ名前のメニューでもお店によって味や盛りつけが全然違います。しかも、こんなに丁寧に作られた美味しいものが気軽な価格でいつでも食べられるのはすごい! メニューは、マスターたちのこだわりや努力がつまった作品なんだなと思います。
あるお店のマスターは「80点以上のものを毎回、毎時間、提供していきたい」と言ってたんですけど、80点ってところが、またいいなって。高級レストランとかとは違う、ゆるい隙間がお客のこちらにも生まれるじゃないですか。

過剰な期待はしないけど、出てくるものは期待以上のものという、すごさとおもしろさが純喫茶にはありますね。
行きつけの純喫茶、神田の「エース」のマスターも魅力的です。長年通っているので、今やマスターとは家族のような関係。電話のやりとりもしてます。

純喫茶通いを十数年していますが、「エース」に訪れた回数は300を超えていると思います。マスターの顔が見たいという理由もありますが、通勤圏内にあるので立ち寄りやすいんです。
もしマスターと仲良くなりたいなら、そのお店に感じたすてきなところを伝えることが大切。お世辞ではなく、本当の気持ちを伝えていけば、最初は謙遜されていたマスターでも、わりとおしゃべりをしてくれます。

みなさんご自分のお店のことが好きですから、ほめられるとうれしい。そういうやりとりからマスターに顔を覚えてもらい、少しずつ交流を深めてみてはいかがでしょうか。
気持ちを整理してフラットになれる時間と場所ですね。仕事でうまくいかないことがあっても、自分の好きな場所にいれば自信を取り戻せる。自分にはこういう好きなものがあって、大事な人もいるって思うと、落ち込んだことが自分の世界のすべてじゃないから、大丈夫だなって。

あとは、次の旅に出るまでの小休止というか。日常と非日常の間の小さな逃避行でもあります。本当は毎日旅に出たいけれど、平日は難しい。だから純喫茶で過ごす時間は、日常の中でできる最大限のぜいたくですね。
喫茶店は無理して行くところではないと思っていて、自宅と職場や学校の間にあるような、ふらっと立ち寄れる場所にあるから、あそこに行こうって思い出せる。特別過ぎず、日常を感じさせるくらいがちょうどいい。
今は純喫茶へ行くことが人気になってきて、有名店に行くことはイベントのようで楽しいですよね。けれど、そこからさらに、自分の町にもいい喫茶店があることを知って、みんながそれぞれのお店に通うようになればいいなと思っています。

どんな町にも、すてきな喫茶ごはんや純喫茶があると思っています。

ありふれた日常の中に寄り添ってくれる純喫茶の「そこに行けば会える人」「変わらないもの」「その店でしか味わえない味」を、本を通じて多くの人に知ってもらえたらうれしいです。

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来週は今週に引き続き、難波さんに聞いたとっておきの“喫茶ごはん”5選をご紹介します。どうぞお楽しみに♪

(撮影協力:古瀬戸珈琲店 駿河台下店)