女優・比嘉愛未の主演映画『カノン』が公開を迎える。彼女が演じるのは、問題を抱える母のもとで育った3姉妹の次女・藍。心にトラウマを抱えているものの、真ん中の立場として気持ちを押さえ込みながらも、ストーリーテラーとして物語を引っ張っていくという難役だ。「今まで自分に寄せてお芝居をすることが多かったのですが、今回は分からない部分がたくさんあって不安でした」と素直な心境を吐露した比嘉。しかし、苦しんだぶん得たものも大きかったようだ。

 実際は3人妹弟の一番上だという比嘉は、台本を読んだとき藍という役柄をつかむのに戸惑ったという。雑賀俊朗監督からは「わからなくて不安な感じがリアルな藍ちゃん」とアドバイスされ力が抜けたという。それでも撮影中は自身の演技に「手ごたえを感じられなかった」と本音を明かす。しかし、出来上がった作品を観ると、そんな不安は解消された。「共演者やスタッフの方々がみなさん作品に対して誠心誠意向き合っている姿が映し出されていました。脚本の素晴らしさ、雑賀監督のすごさが出ていてほっとしました」と笑顔をみせる。

 比嘉の言葉どおり、母がアルコール性認知症を患い、姉妹に大きなトラウマが残るというシビアな題材ながら、作品はとても温かい仕上がりになっている。「色々な作品はありますが、表現者としては生きていくために背中を押せるような映画を作りたいと思っていました。この作品は、登場するキャラクターがみな問題にしっかり向き合っているから思いが伝わるんだと思います」と比嘉は語る。

 そんな前向きな気持ちになれるのが3姉妹の存在だ。「(長女・紫役の)ミムラさんも、(三女・茜役の佐々木)希ちゃんも始めましてだったのですが、会った瞬間『大丈夫』って思ったんです。普通なら姉妹なので絆や関係性を深めて臨もうと思うのですが、そういった気をつかうことなく、何もしなくても自然に入っていけたんです。奇跡的な組み合わせ。これだからお芝居はやめられないと思うぐらい素敵な出会いでした」と撮影を振り返る。そんな3人がラストに魅せる「カノン」の演奏は一切吹き替えなし。ここでも息のあった女優陣の共演が見られる。

 3姉妹の他にも、母親役の鈴木保奈美、祖母役の多岐川裕美ら豪華女優陣の共演も見どころだが「保奈美さんは役柄のこともあり、現場ではずっとスタッフさんや共演者の方たちとしゃべらず一人でいたんです。そのおかげで、私たちは、どう母親と接していいか分からないという空気をすんなり作れたんです」と女優魂に脱帽していた。

 女優として多くのことを得られた映画『カノン』だが、比嘉自身の人生にとっても大きな意味を持つ作品になったという。「沖縄の両親に愛情を持って育てられ、こういう仕事をさせてもらい、今年30歳になりました。そのとき20代とは同じ感覚ではいけないと思ったんです。これまでやりたいことがあっても、周囲の空気を読んで遠慮したり、嫌われたくないという思いから、どこかでいい子でいなくてはという自分がいたんです」と胸のうちを明かす。

 しかし「紫も藍も茜もみんな勇気を持って一歩踏み出したのをみて、私ももっと自分の可能性を広げたいって強い思いを抱いたんです。人生一度キリなのだから、悔いのない生き方をしなくちゃいけないって…。最近はマネージャーさんや事務所の方々、友達にも自分の思いを言葉に出して言うように心がけています。もちろん自分がやりたいと言うことにより責任が生まれるので、しっかり有言実行できるように恥ずかしくない生き方をしていかないといけませんけどね」と自分に言い聞かせるように語っていた。(取材・文・写真:磯部正和)

 『カノン』は10月1日より公開。