日本人にとって、ドイツ車はもっとも身近に感じられる輸入車です。ヤナセが1950年代からフォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツの輸入販売を行っていたこともあり、最初の輸入車としてVWビートルやVWゴルフを購入した方も少なくないでしょう。ドイツ車の生真面目なつくりは日本人の几帳面な気質と相性が良いため、輸入車の代表格として多くの人々に親しまれているのも納得です。

そんなドイツ車は、ミニカーの世界では昔から人気があります。なかでもポルシェのミニカーは種類が豊富で、ミニカーコレクションの定番アイテムとなっています。なぜポルシェが人気かといえば、それはスポーツカーとレーシングカーというミニカーの2大ジャンルを網羅しているため。ちなみに日本車でもっとも人気があり、豊富なミニカーが揃っている車種は日産スカイラインです。クルマ自体がスポーティなキャラクターで、なおかつモータースポーツでの輝かしい歴史があるのはポルシェとまったく同じ。そのため、ポルシェとスカイラインは、ミニカーコレクションのジャンルとして昔から確立されているのです。

(編集部追記:当記事は過去配信した記事の改定版です)

ドイツ車のミニカーたち
▲レーシングカーやラリーカーのような競技車両は、勝利のために必然的に生まれたフォルムの機能性と多種多様なカラーリングが魅力的。特に市販車ベースの競技車両は、市販車とのディテールの違いなどが興味深い。
左:1/18 Ottomobile BMW M1 Groupe B Tour de Corse 1983(品番 OT126)
中:1/18 TSM-Models Porsche 959/50 #186 Winner Dakar Rally Raid 1986(品番 TSM121807R)
右:Ottomobile Audi Sport quattro S1 Rallye Monte-Carlo 1986(品番 OT602)

ドイツ車のミニカーが多い理由とは

ドイツ車のミニカーが多い理由は、ポルシェに対する人気だけではありません。もうひとつの理由として、ドイツの自動車メーカーが昔から自社製品のオフィシャルミニカーを積極的に製作してきたことが挙げられます。1980年代には、自動車メーカーがミニカーメーカーに製作を依頼した製品がディーラーやミニカー専門店で販売されていました。例えば、ポルシェのオフィシャルミニカーは建設機械のダイキャスト製ミニカーを手がけるドイツのNZGが製作したもので、ポルシェ911のほか、944や928、959などが1/43スケールで製作されました。

ドイツ車のミニカーたち
▲NZGが製作したポルシェのオフィシャルミニカー。銀色にダークレッドの文字をあしらったミニカーのパッケージは、’80〜’90年代当時のポルシェのカタログ類と同じCIで統一されている。
1/43 NZG Porsche 911 Speedster(品番 327)

メルセデス・ベンツでは、ドイツのコンラートが製作した1/35スケールのミニカーを販促用として使っていました。これらのミニカーは、いかにもドイツ製品らしいカッチリとした出来映えで、実車の雰囲気を感じさせるもの。当時ダイヤペットなどの玩具的なミニカーを見慣れていた私にとって、これらのドイツ製ミニカーはカルチャーショックに近いものでした。しかも、ボンネット、ドア、トランク/テールゲートが開閉するのに玩具的要素は一切なし。ミニカーでありながら実車の剛性感や重厚感を体現していました。

ドイツ車のミニカーたち
▲メルセデス・ベンツのコンラート製1/35オフィシャルミニカー。25年以上前の製品ながら、実車のモデル124の雰囲気がよく表現されている。
左:1/35 コンラート Mercedes-Benz 200TD-300TD Turbo 4MATIC/200T-300TE 4MATIC(品番 1503)
右:1/35 コンラート Mercedes-Benz 230CE/300CE(品番 1504)

1/87ミニカーは昔からドイツでの人気が高い

ドイツといえば自動車とともに鉄道が発達していることでも有名です。ドイツ製の鉄道模型は昔から良質なものが多く、その情景製品のひとつとして作られたミニカーも精密な作りによるクオリティの高さで知られています。ドイツの鉄道模型の主流となるHOゲージ用につくられた1/87ミニカーは、比較的値段が安く、精密かつコレクションしやすい手頃なサイズが特徴です。1/87ミニカーのコレクターも多く、乗用車から商用車まで様々な特注品が製作されています。

ドイツ車のミニカーたち
▲鉄道模型のストラクチャー製品から派生した1/87スケールミニカーは、販促品としても重宝されている。黒いパッケージの製品はディーラーで買えるフォルクスワーゲン特注ミニカー。右上の白いパッケージのほうは、2011年にVW up!のデビューを記念して関係者などに配布された非売品ミニカー。
左:1/87 フォルクスワーゲン特注(ヘルパ) Volkswagen up!(品番 IS4.099.301.OHN)
右:1/87 フォルクスワーゲン特注(ヘルパ) Volkswagen up!(非売品:品番なし)

1/87ミニカーは昔からドイツでの人気が高いため、ドイツの自動車メーカーの多くは、新型車が出るたびに1/18と1/43スケールのミニカーに加えて、1/87スケールのミニカーも製作しています。新型車が出るたびに上記3種類のミニカーをリリースするため、ドイツ車ミニカーのアイテム数は必然的に増えていくというワケです。

ドイツ車のミニカーたち
▲1/87ミニカーはドイツの精密ミニカーを象徴する存在。わずか4cmほどのコンパクトなボディに、実車のエッセンスがギュッと凝縮されている。
左:1/43 ポルシェ特注(ミニチャンプス)Porsche 911 Carrera 4S(品番 WAP 020 076 12)
右:1/87 ポルシェ特注(ヘルパ) Porsche 911 Turbo(品番 WAP 022 034 10)

クオリティと価格で他社を圧倒した「ミニチャンプス」

そして、ドイツ車ミニカーがさらに増加するきっかけとなったのが、1991年に誕生したミニカーブランドの「ミニチャンプス」です。ドイツのポールズ・モデル・アート社が立ち上げたこのブランドの特徴は、量産ミニカーとしては驚異的な精密さを実現したこと。さらに設計はドイツ、生産は労働賃金の安い中国で行うことにより、高品質な製品を安価に提供することに成功し、今日のミニカー設計のスタンダードを築き上げました。クオリティと価格で他社を圧倒した「ミニチャンプス」は、すぐにドイツの各自動車メーカーの特注品を手がけることになります。さらに「ミニチャンプス」の自社ブランドで販売する製品と、自動車メーカーの特注品との間でボディカラーなどの仕様を変える戦略を実施。これにより、コレクターは両方の製品を買うことになり、ミニカーの企画販売においても革命をもたらしたのです。

ドイツ車のミニカーたち
▲ミニチャンプスの初期の1/43ミニカー。それまでの量産ミニカーでは省略されていたミラー類などをプラスチック製の別部品で表現するなど、ミニカーのクオリティを一気に超精密レベルに引き上げた。
左:ミニチャンプス 1/43 Volkswagen Hebmüller Cabriolet(品番 430 052130)
右:ミニチャンプス 1/43 BMW 507 Cabrio(品番 430 022509)

ドイツとの自動車文化の差を感じずにはいられない

このようにドイツでは昔からミニカー文化が充実していたため、現在でもミニカーの主流はドイツ車であり続けています。さらにドイツの自動車メーカーは自社の歴史やクラシック製品を非常に大事にしていて、旧車イベントのために限定ミニカーをつくるメーカーもあります。例えば、”Audi Tradition”の名でクラシックモデルに関する様々な活動を行っているアウディは、毎年ドイツで開催されるクラシックカーイベント Techno Classica Essenのために、自社製品のアニバーサリーイヤーに沿った車種のミニカーを発売。さらにこのイベントを取材する報道関係者向けには立派なプレスキットを配布するなど、力の入れ方は並々ならぬものがあります。

ドイツ車のミニカーたち
▲アウディが製作したイベント限定品の1/43ミニカー。333個限定で入手困難な製品のひとつ。
左:アウディ特注(ミニチャンプス) 1/43 Audi V8 quattro DTM “Audi Tradition 2010″(イベント限定品:品番なし)
右:アウディ特注(ミニチャンプス) 1/43 Audi quattro “Audi Tradition 2013″(イベント限定品:品番なし)

このような取り組みは、日本で例えるなら毎年1月に開催される「ニューイヤーミーティング」に自動車メーカーが過去の自社製品を展示して、限定ミニカーを用意するようなもの。現時点では、残念ながら日本のメーカーにドイツのような取り組みを期待するのは難しいようです。それどころか、日本では初年度登録から13年経過したクルマに重税を課すような状況で、まったく逆の方向に進んでいます。

このようにミニカーひとつ取っても、ドイツとの自動車文化の差を感じずにはいられません。ただ、ミニカーに関していえば、日本メーカーのクオリティは世界トップレベルにあり、ドイツの自動車メーカーが日本の京商などに特注品を依頼するケースも増えてきました。ミニカーでは日本の製品が世界に認められているだけに、クラシックカーの分野においても旧い自社製品を大事にするような取り組みを行って欲しいですね。

[ライター・カメラ/北沢剛司]