■連載/ 

 

 

 それもただ前進するだけに用いられるのではなく、コーナリング中の外側タイヤには前向きのトルクを加え、内側には後ろ向きのトルクを与えて、トルクベクトリング効果を生み出している。それによって、機敏なコーナリングを実現しようとしている。ホンダは、このシステムを「SH-AWD」と呼んでいる。『レジェンド』にも同じコンセプトのものが搭載されており、近年のホンダが標榜しているスポーツドライビング性能向上のための技術だ。

■機械として優れているか?★★★★

 実際、芦有ドライブウェイの連続するコーナーで『NSX』は切り込み過ぎるくらいシャープなコーナリングを見せた。スポーツカーにとっての生命そのものであるコーナリングを高いレベルで実現している。『NSX』にはクワイエット、スポーツ、スポーツプラス、トラックという4つの走行モードが備わっている。サーキット専用のトラック以外の3モードについて切り替えながら試してみたが、モード毎の制御のキメ細かさと精緻さに驚かされた。

 クワイエットというのはモーターだけで走り始め、文字通り静かなモードなのだが、アクセルペダルの踏み方やクルマの速度、その他のパラメーターをクルマが勘案してエンジンを始動する。その判断と切り替えタイミングが絶妙だ。スポーツモードやスポーツプラスモードでも、エンジンとモーターの協調のさせ方が見事にコントロールされている。

 エンジンとモーターそれぞれの良いところをうまく引き出して、エンジンだけのクルマやモーターだけのクルマからは感じられない強力で滑らかな加速感は新型『NSX』の大いなる美点だ。しかし、コンセントから充電できるPHEV(プラグインハイブリッド)方式を採用しなかった理由がわからない。

「PHEVの案も検討されていましたが、採用されませんでした」(ハイブリッドシステムの開発者氏)

 スポーツカーではないけれども『NSX』の数分の一の価格になるはずのトヨタ『プリウス』のPHEV版(価格未発表)でさえ60kmはエンジンを始動しないEVモードで走れるのだから、『NSX』は同等以上であってほしい。それでこそ、車名の由来となっている「New Sport eXperience」ではないか。その点で★を一つ欠いているが、「速く走る機械」としては満点だ。

■商品として魅力的か? ★★

 市販車に近い形でのコンセプトカーを発表したのが2012年。当然、開発とリサーチはその前から行なわれている。PHEVではない点だけでなく、NSXには開発開始からの時間経過を感じさせる点が目立つ。運転席に座ると、それがいくつも目に付く。メーターパネルがフルデジタル化されておらず、針のある大きな燃料残量計と水温計が2つも据わっている。どちらも、警告灯で済ませられるはずだ。メーターナセルの右側に大きなボタンが2つあるので何かと押してみたら、1つがパネルの照度を上げるもの。もう1つが下げるもの。

 

 

 さらに、カーナビ画面の下にはエアコン関連のボタンとスイッチ類に広いスペースを割いている。カーナビモニター画面も小さい。ボルボ『XC90』に関する投稿でも書いたが、現代のクルマは備えなければならない機能と装備が増えていて、それらは整理整頓することが強く求められる。安全性と操作性を向上させるために、ふだんはデジタルの階層の中に仕舞っておいたものをボイスコントロールかタッチパネル操作によって呼び出し、操作するのがスタンダードだ。『NSX』のインテリアには、それが検討された痕跡が見られない。

 ヨーロッパで急速に普及し始め、日本仕様でも実現されているインターネットへの常時接続も行なわれないし、スマートフォンの機能をカーナビモニター画面上とボイスコントロールによって操作できるCarPlayやAndroid Autoもインストールされていない。USBジャックが見当たらなかったが、センターコンソールボックスの最後端に位置しているのをようやく見付けたが、なかなか挿入できなかった。

 急速にインテリアのインテリジェント化を進めているのは、ボルボ『XC90』だけでなく、メルセデス・ベンツ『Eクラス』やテスラ『モデルS』、アウディ『A4』や『Q7』、キャデラック『ATS』などたくさんある。『NSX』のインターフェイスは古く、それが放置されたままになっている。開発期間が長いことは悪いことではなく、完成度を高めるのに貢献することもある。『NSX』の場合、開発中に世界のクルマを取り巻く状況の変化が大きく、かつ速かった。ただ、そういう状況にあっても、一度決めたことだからと頑固に変えないのではなく、時代にフィットさせるべく柔軟に調整していこうと開発者は考えなかったのだろうか。

 確かに『NSX』は「速く走る機械」としては非常に優れているが、「商品として魅力的か?」という問いに素直に頷くのは難しい。ましてや2370万円もするのだ。僕の試乗車はオプションがたくさん付いていて、2658万8000円だった。高価なスーパーカーなのだから、「機械」として優れていることと同等以上の「商品としての魅力」を備えていることを期待したいではないか。

 既存のディーラーで販売するという態勢や派生モデルについてのビジョンが不明なところも、スーパーカーとしての商品性に疑問符をつけていると思う。同じ価格帯のクルマを見てみれば、どう造られて、どう訴求され、どう販売されているか分かるはずだ。ライバルたちは機械として優れていると同時に、スーパーカーという商品としてそれぞれに素晴らしい魅力を備えているのである。

 先代の『NSX』は「スーパースポーツを伝統から解き放つ」という気高くラディカルなコンセプトを掲げ、長い時間を掛けて完成された。新型にも同じように期待したい。

■関連情報
http://www.honda.co.jp/NSX/

文/金子浩久

モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ