今の世の中、「カリスマ」と呼ばれる人は案外多い。中には疑わしい人もいるだろうが、『ちょっとした気づかいがあなたの人生を変える』(アスコム刊)の著者は、正真正銘のカリスマである。本書の著者は、化粧品メーカーのポーラに勤めて55年になる、83歳の現役ポーラレディ。ポーラ史上初のミリオン(月100万円の売上)達成をはじめ、初の累計売上1億円達成という卓越した営業力を持ち、支店長として20の営業所を統括してきた。支店長を希望退職し、ポーラの「自由人」となってからも、営業の第一線として活躍中。まさにカリスマにふさわしい実績とキャリアの持ち主だ。

 55年も営業の第一線で現役を続け、なおかつ成果を上げ続けることができたのはなぜか。著者は「気づかいを心がけてきたからだ」と言う。意外なほどシンプルな答だが、55年も現役でやってきた著者が言うと、シンプルな言葉にも重みが感じられる。

■一流から学ぶ一流の気づかい

 気づかいができる人とは、どういう人か。著者によれば、気づかい上手な人は年齢に関係なく、相手の心を素早くくみ取れるという特徴があるという。とくに、不満、要望、怒り、といった満たされない思いに素早く気づいて相手に寄り添い、共感し、次の行動を起こす。こういう行動をさり気なくできる人が、気づかいのできる人だ。

 著者は、気づかい上手の近道として、想像力を鍛えることを挙げる。自身の例として、小学生の子供を持つお客様との会話例を挙げ、想像力の鍛え方の一端を明かす。

「4月だと『新学年のシーズンですね。PTAや父母会のために、学校に足を運ぶ機会も多くなり大変ですね。奥様はきっと役員に選ばれると思います。一層きれいになってください』。7月だと『そろそろ夏休みですね。給食もなくなるし、食事の用意も大変になりますね。お母様の出番も多くなりますね』。このようなフレーズを想像して、相手に投げかけると、会話は自然に展開します。また、お客様の不満や悩みから、私がお役に立てることが見つかるのです。このように、相手のことを想像するクセをつけていきましょう。すると、相手が目の前にいない場合でも、『○○さんは、この情報が欲しいのではないか?』『あれは、○○さんが喜びそうだ』などと、気づかいができるようになります」(第1章24-25ページより)

 また、著者は、気づかいのプロである一流の飲食店やホテルの従業員から学べる点が多いと言う。なるべく一流の場を訪れる機会を増やし、客の立場になって観察してみることを勧める。そのとき大切なことは投資を惜しまないことで、その点を著者も指摘する。

「一流の場に足を踏み入れる場合、相応の対価はかかるものです。一流ホテルのラウンジなどでは、コーヒー1杯飲むのに、1000円札1枚では足りないことは珍しくありません。しかし、『100円の缶コーヒーと味に大きな違いはないのに、なぜ?』と疑問を感じる人は、プロの気づかいに永遠に触れることができません。あながた、自分に『投資』できるサービス料に比例して、あなたが提要できるサービスの質も自ずと決まります。もし、あなたが本物の気づかい上手を目指すなら、『投資』も必要なのではないでしょうか」(第4章146ページより)

 つまり、一流を知らなければ一流にはなれないということ。一流の気づかいができるようになるにも、本気の覚悟が問われている。何事もそうだが、中途半端な取り組みは中途半端な結果しかもたらさない。

■会話は「ミルフィーユ」のようなもの

 このほかにも、著者は本書で投資について数多く触れているが、気づかい上手になる要素として、投資とともに重要だと考えているのが会話だ。第3章で、気づかい上手になるための会話術を明かしている。

 会話術と聞くと、話し方や聞き方のテクニックをイメージしがちだが、気づかいする上で重要な要素として挙げているのが、声の大きさだ。少し考えればわかるが、聞き取りづらいことはストレスでしかない。相手に無用なストレスを与えない気づかいをするには、声の大きさは大事だということになる。

 著者は、大きな声で話せているという自負があるという。それは、訪問販売という仕事で鍛えられたからに他ならなかったからである。

「50年以上も『インターホンごしに、まったく知らない方に話をする』ということを、何万回も繰り返してきました。忙しいお客様が、わざわざインターホンに対応してくださっている。そんな貴重な機会に、小さな声でボソボソとお話するなんて、失礼なことです。このように、インターホンごしの営業が、ボイストレーニングの場となって、私を育ててくれたわけで、とても感謝しています。もしこのような機会があったら、人と接する訓練だと思って、ぜひ前向きに取り組んでみてください」(第3章97ページより)

 著者によれば、自分の声が小さいということに気づいていない人は多いという。どんな仕事も人と何かしら接する以上、声の大きさを重視するのは訪問販売の特殊な価値観ではない。声の大きさはその人の印象を決める大きな要素であることを自覚した方がよさそうだ。

 もう一つ、会話で重要な要素として挙げるのが口数。口数が少なく間が開くことは、気づかいという面から見ると好ましくない。「会話の『間』は『魔』」と表現する。著者がお客様と会話するときは、際限なく会話が広がるという。その一例が本書の104ページに記載されているが、文章にすると一文が短くて結論がない。しかも疑問形で終わっている。いかにも女性同士の会話にありがちな特徴だが、著者は会話を「ミルフィーユ」にたとえる。

「たとえて言うと、会話とは洋菓子の『ミルフィーユ』のようなものです。フランス語で『1000枚の葉』という意味のこのお菓子は、『たくさんの層をなしている状態』がその由来とされています。会話も『ミルフィーユ』にように多層的であることが理想です」(第3章105ページより)

 際限なく会話を広げるというのは、会話に結論やオチを求める傾向が強い男性には苦手だろう。一歩間違えると、畳み掛けるようになってしまい、相手に威圧感を与えてしまいかねない。こう聞くと、「自信がない」と思ってしまうかもしれないが、そういう人のために、著者は次の言葉を贈る。

「使い古された言葉ばかり重なっていても、かまいません。『ありきたりのことしか話せない』と尻込みして黙っていたり、口数が少なくなったりする方が、よほど失礼です」(第3章105ページより)

 あれこれ考えていても始まらない。せっかく「カリスマ」が背中を押してくれているのだから、まずはやってみること。これに尽きる。人間関係を円滑にするだけでなく深める気づかいは、ビジネスの場面だけでなく日常生活全般でも発揮したいこと。本書で紹介されている気づかい上手になるためのノウハウは、会話術のように特殊なものは含まれておらず、心がけ一つで即できるようなものが圧倒的。ただ、それが徹底できるかどうかが、気づかい上手になれるか否かの分かれ道になるといえそうだ。

■関連情報

『ちょっとした気づかいがあなたの人生を変える』
アスコム刊/森本早苗著
1200円+税

文/大澤裕司

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