アニメーション映画『聲の形』は、大今良時のベストセラー・コミックを原作に、思春期の少年少女たちの心の痛みや優しさなどを繊細に描いた青春群像劇である。聴覚障害をモチーフにしているが、そういったものを“感動のコンテンツ”として扱う類とは、当然ながら一線を画している作品だ。

小学6年生の石田将也は、クラスに転校してきた聴覚障害を持つ少女・西宮硝子に妙ないらだちを覚えていじめるようになり、やがてそれが行き過ぎて、硝子は転校。一転して将也はクラスの面々からいじめを受けるようになる。

それから数年後、孤独なまま高校生になった将也は、硝子と、そしてクラスの面々と再会する……。

制作はテレビ・アニメ「AIR」(05)「涼宮ハルヒの憂鬱」(06・09)「Free!」(13)「響け!ユーフォニアム」(15)などでアニメ・ファンから絶大なる支持を受け続けている京都アニメーション(通称・京アニ)。

監督は京アニに所属し、「けいおん!」シリーズ(09・10)「たまこまーけっと」(13)を演出してきた山田尚子。劇場用映画の演出は『映画けいおん!』(11)『たまこラブストーリー』(14)に続き、これが3作目となる。

少女たちの可愛らしさの奥にひそむ残酷さを隠さず描出

山田監督の作風は、登場する女の子を可愛く捉えることに腐心しながら、思春期の躍動を描いていくところにある。それは男性が偶像的に求め、時に性的要素まで期待させる少女性とは一線を画し、あくまでも同性から見据えた可愛らしさを掌握した上で、とことん追求したものでもあるのだ。

そして今回、山田監督はさらに一歩踏み込んだデリケートな部分に挑戦している。

原作漫画は差別やいじめの世界に真正面から向き合いつつ、複雑な10代の心理を巧みに捉えた集団劇として屹立している。映画化に際して山田監督は、その点を大いに汲み取りつつも、登場する少女たちそれぞれの可愛らしさの奥にひそむ“残酷さ”までも隠さず描出。

一方で、それゆえに悩み苦しむ彼女たちがいかに思春期の中で魅力的に映えているかまでも、見事に訴え得ている。

特に、将也にずっと片想いし、それゆえか硝子に対する嫌悪の念を隠そうともしない植野直花は原作でも人気キャラではあるが、映画はさらに彼女を引き立たせた構成になっている。

また今回は山田監督にとって初めて、少年が主人公となった作品であることにも注目したい。ここでは原作に即しながらも、異性の目から見据えた少年の繊細な心理があますところなく捉えられている。その点でも演出面での充実が嬉しい限りだ。

単行本にして全7巻の原作を、1本の劇場用映画としてまとめる作業は並大抵ではなかっただろう。結果として上映時間は2時間を超え(128分)、このあたり、山田監督とずっとコンビを組んできた脚本・吉田玲子の苦労がしのばれる。

原作クライマックスの鍵となる自主映画製作のエピソードをばっさり省いたのは英断ではあった。もっとも、そのために原作ほど描き切れていないキャラクターも出てしまったのは惜しまれるところだ。

とはいえ、原作ファンが愛してやまないエピソードの多くは、京アニならではの丁寧な作画を伴いながら、映画でもきちんとお目見えしている。

実力を兼ね備えた若手声優陣の好演

特筆すべきは主人公・将也役の入野自由をはじめとする今回の若手声優陣の好演。特に早見沙織は、うまく声を出せない硝子という難役に真摯に向き合い、健気に演じ切っている。

ふと思うのだが、今の若手声優は数世代前に比べて、実力と個性を着実に身につけてきている者が徐々に増えてきている気がする。

将也の小学生時代を演じる若手実力派俳優・松岡茉優は、アニメ声優初挑戦となった『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z「ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ」』(16)では不慣れゆえのぎこちなさが感じられたが、今回は少年役ということもあってか硬さも幾分とれ、違和感のない仕上がりになっていた。

つい最近も、日本テレビの「24時間テレビ」を“感動ポルノ”と称して批判するNHK番組の“事件”が報じられたばかりだが、本作はそういった感動の押し売り云々の議論とは次元の異なるところに位置している。

硝子へのいじめがきっかけとなって始まった「友達ごっこ」。しかし、それを重ねれば重ねるほど、他者との交流が上手くはかれなくなる、10代のもどかしくも痛々しい想い。そんな赤裸々な人間関係を前にして、時にうずくまりがちな少年少女らを優しく受け止め、それぞれの心の棘を抜き、傷跡を抱擁していく。それこそが『聲の形』の本質なのだ。

ちなみにこの「友達ごっこ」、大人になってもしばし訪れては、心煩わせる要素でもある。ただ、いつしか人は歳を経るにつれ、そういったものに鈍感になっていく。本作のような思春期の心理を繊細に描いた作品に対しても「死を軽く考えている」「甘ったれるな」などと、安易に批判する向きもあることだろう。

しかし、そんな輩には「では、あなたたちの10代は、そんなに強く逞しい立派なものだったのか?」と問い返してやりたい。

人はいくつになっても、つらく、苦しく、悲しい。だからこそ『聲の形』のような作品が必要なのだ。

文=増當竜也/Avanti Press

『聲の形』
9月17日(土)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー
監督:山田尚子、脚本:吉田玲子、キャラクターデザイン:西屋太志
キャスト:石田将也:入野自由/西宮硝子:早見沙織
西宮結絃:悠木碧/永束友宏:小野賢章/植野直花:金子有希/佐原みよこ:石川由依/川井みき役:潘めぐみ/真柴智:豊永利行
石田将也(小学生):松岡茉優
配給:松竹
©大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会