三船美佳の、あのパパが生き返った!?
男っぷりも滑舌も驚くほどクリア、今さらだなんて言わないで!

“三船美佳”の“パパ”。と言っても、あの半ば一方的に離婚させられちゃった彼女の夫ではございません。美佳さんの本当のパパ、三船敏郎を始めとする“七人の侍”が見事に、鮮やかに蘇りましたのですよ! 『七人の侍』も、黒澤明も興味ない。ボロボロでボサボサの浪人やら野武士みたいのが、ヨレヨレでフラフラの農民たちとチャンチャンバラバラやるやつでしょ? って怪訝な表情されてる方、もちろんいらっしゃるでしょうけれどね。それ、もったいないです。時代劇や剣劇なんて興味なくても大丈夫(私もそのひとり。あ、爽快アクションは多少好きですけれど)。ストーリー展開の巧みさと鮮やかさ、魅せる役者たち、惚れぼれする構図、そしてそこに流れる野太いメッセージ……どこを取っても、めちゃめちゃ面白い。言っちゃあなんだが、スピルバーグもルーカスもコッポラも大好きな黒澤作品です。で、なぜそれを今を観ていただきたいのか? これから説明しますね。

勘兵衛の所作、その鮮やかな顛末と画期的スローモーション
村の長老のド眼力と低く響く槌音……前半から息つく暇ありませんから

戦国時代、夜盗に身をやつした野武士たちに麦や米を狙われたある農村が舞台。農民たちは、夜盗から村を守るために「侍」を雇うことを思いつきます。それでなくても食うか食わぬかの貧農が、浪人とはいえ侍を雇えるのか? 確かに無謀な話。初老の侍、勘兵衛(志村喬)も、米を報酬に命を差し出すわけにはと渋るものの、側で呑んだくれて農民をむしろ見下していた人足の「自分たちは稗食ってお前さんたちには白い米食わしてるんだ!」という咄嗟の言葉に揺さぶられ、「この飯、おろそかには食わんぞ」と決心。村を守るには最低7人が必要だと算段し、一人一人リクルーティングするまでが前半。浪人たちは、米を目当てというよりは勘兵衛の何がしかに惹かれて集まってくるのですが、勘兵衛のどこにその魅力があるのか? という点も事前にちゃーんと納得行くようになっている筋運び、こうした米にまつわるやり取りで進められる展開に一寸の無駄なし。ここまでほとんど刀は抜かず。お手並み鮮やかな黒澤監督なのです。

初めてちゃんと聞こえた! 菊千代の名ゼリフ
 デジタルリマスターで本当にクリアな音

三船美佳の父、三船敏郎が演じるのは七人めの侍、菊千代です。と言っても本当は百姓の子で最初は勘兵衛に取り合ってもらえないという茶目っ気は有るけれど何かにつけて大雑把なスットコドッコイ。前半は特にコメディリリーフ的な役回りですが、若き日の敏郎、さすがに男前。加えてアンバランスさも魅力的なのです。けれどね、告白します。三船敏郎扮する菊千代。これまで何度か観た『七人の侍』では、耳を凝らしても聞き取れないセリフがいくつもあったんです。それでも面白いから波に乗って観てしまうわけですが、今回の“4Kデジタルリマスター”によって、画像のみならず音声までもがクリアになっちゃったので、菊千代のセリフがとってもよく聞こえます。 「百姓ってのはな、けちんぼで、ずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだ!」と唸り慟哭する菊千代なのです。後半は言わずと知れた“七人の侍+農民vs夜盗”の決戦。百姓が隠し持っていた武器が見つかり、武器が増えたと菊千代は素直に喜んでいたのです。しかし、残り六人、本物の侍である彼らにとっては(野武士とはいえ)同胞が百姓に殺されてきた証でもあり。「貴様、それでも侍か!」と激昂された時、百姓の運命に苛まれてきた菊千代の心の叫びが切なく響くのでした。そうでもしなけりゃ百姓は生きてこれないんだよ! と。侍を讃えるでもなし、農民の悲哀に同情するばかりでもない。そんなフラットな視線もまた、冒頭で少し触れた魅力とともにこの作品が世界的に評価されている理由のひとつなのだと思います。

侍ひとりひとりのキャラクターが魅力的!
 勘兵衛のセリフが刺さります(涙)

そして、七人の侍それぞれが、そのキャラクターを大いに発揮しながら村中を駆け回りながらの大乱闘へと。ここはもう説明するよりスクリーンで。劇場の大画面にどっぷり浸っていただきたい。最近増えている応援上映など本作にもあれば、一緒になって騒げてなお理想的かと(かつて池袋の名画座「文芸坐地下」で観た本作、ほろ酔いのおっちゃんたちと声援送りながら観るのはとても楽しい経験でした)。 決戦の果て、やがて訪れる田植えの季節で終わるビターなハッピーエンド。勘兵衛の最後のセリフを噛み締めるまで、本当にあっちゅー間ですから。以前にも増した没入感は、見難さと聞き取り難さのストレスを取り除いてくれた4Kデジタルリマスターあってこそ。「黒澤監督にも観せたかった。観たら喜ぶよ。三船ちゃんもセリフがわからないって言われてかわいそうだった。呼んで観せてあげたい」と黒澤組のスクリプターだった野上照代さんも感涙しながら太鼓判押されてました。

文=松本典子/Avanti Press


『七人の侍』
 監督:黒澤明
 出演:三船敏郎、志村喬、加東大介、宮口精二、木村功、千秋実、稲葉義男ほか
撮影:中井朝一 音楽:早坂文雄 配給:東宝

10月8日(土)より「午前十時の映画祭7」にて全国公開
 公式サイト:asa10.eiga.com