世に産み落とされた曲は、ときに作者の意図や想いを超えて、ひとり歩きを始める。10月1日からJRいわき駅(福島県)の発車メロディに採用された「フラガール」も、まさにそんな1曲だと思っていた。今年で公開からちょうど10年が経った映画『フラガール』(李相日監督 主演:松雪泰子、蒼井優)の主題歌だ。

映画を超えて復興を支えた応援歌

映画の舞台は、昭和40年のいわき市(当時は常磐市)。常磐炭鉱の縮小に伴い職を奪われていく人々が、町興しとして“ハワイ”を作ろうと奮闘する物語。なかでも、いっぱしのフラガール目指して、戸惑い、泣き、反抗し、最後にはとびきりの笑顔を見せる少女たちの姿に涙した人は少なくないだろう。同作は、日本アカデミー賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞した。

それから約5年後の2011年3月、東日本大震災によりいわき市も甚大な被害を受けた。海岸部には津波が押し寄せ、内陸にあるスパリゾートハワイアンズ(旧:常磐ハワイアンセンター)も大きなダメージを負い、休業を余儀なくされた。踊る場を失ったフラガールたちは、全国巡業の旅に出ることを決意、震災復興の願いも込めて笑顔で踊った。もちろん演目のクライマックスは映画の主題歌「フラガール」だ。気づけば「フラガール」は、映画の主題歌というだけでなく、いわきの人々にとっての復興応援歌になっていた。

ジェイク・シマブクロとフラガールズの固い絆

去る10月1日、市政施行50年の記念行事で賑わいを見せるいわきに、日本公演ツアー中のジェイク・シマブクロはいた。この、ハワイ出身日系5世のウクレレ奏者こそが、「フラガール」をはじめとする映画『フラガール』劇中音楽のすべてを手がけた張本人だ。駅での発車メロディ記念プレート設置式に始まり、駅前広場での無料ライヴ、ジェイク&照屋実穂(「フラガール」の日本語詞を担当したシンガー・ソングライター)の演奏でフラダンスを踊る会など大忙しの彼だが、実に楽しそうだ。

「いわきに来るのは、本当に久しぶりで楽しかった!! 今日ここに来る機会をいただけて感謝しています。ハワイの人がいつも福島の人たちを気にかけていること、僕たちのアロハ・スピリットを伝えることができて嬉しく思います」と語る彼に、今や「フラガール」は映画の主題歌というだけでなく、震災復興の応援歌としても親しまれていることをどう思いますか? と尋ねると、「自分自身では、なかなか信じられないことです。でも、僕の書いた曲がいわきの人たちにとってそれほどまでに意味のある曲になったということを、とても光栄に思うし、誇りに思います」と、少しの戸惑いと照れが混ざったような表情を見せた。そして「そもそも僕が音楽を作り演奏している理由は、世界中の人にポジティヴなエネルギーを届けたいからです。僕は、震災後のハワイアンズのダンサーに感動をもらいました。彼女たちは、『フラガール』とともに全国を行脚し、強さと勇気を持って、人々に喜びや楽しみを届けました。あれほど素晴らしいデモンストレーションがあったでしょうか。困難な状況にあってなお、自分たちのことだけを考えるのではなく、他者のことを考える彼女たちの姿勢は素晴らしかった。音楽や芸術はパワフルです。たくさんの人の心を動かすことができるのです」と続けた。

名曲「上を向いて歩こう」から受け継いだ想い

ところで、「フラガール」はどのようにして書かれた曲なのだろうか? この機会に聞いてみると、ジェイクから興味深い答が返ってきた。「映画音楽を書くのは初めてのことで、それも日本の映画でしたから、日本の有名な曲『上を向いて歩こう』を意識して、この曲のフィーリングを取り入れようと思いました。聴く人を幸せにするようなメロディです。その一方で、曲にワイドなレンジを持たせたくて、映画『オズの魔法使』の主題歌『Over The Rainbow(虹の彼方に)』を参考にしました。みんなが、あの曲は難しいと言います。たしかに歌うときには、低音から高音まで広くカヴァーしなければなりません。けれど、とてもメモラブルで美しい曲です。“僕たちにはなんでもできる、空も飛べるんだ”というようなフィーリングを込めたかったのです」

「フラガール」のひとり歩きは、作者の意図や想いが正しく人々に伝わった結果、必然だったのだ。

文=赤尾美香/Avanti Press


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