映画『ロマンス』『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督が中澤日菜子の同名小説を映画化した『お父さんと伊藤さん』。20歳年上の恋人・伊藤さんと暮らす34歳の女性・彩と、そこに転がり込んできた彩の父親の奇妙な同居生活を描き出します。

彩を演じるのは、今年、30歳という節目の年を迎えた上野樹里さん。結婚後に初めて挑んだ主演作は家族のドラマ。これまで、ロマンスやサスペンスなど、幅広いジャンルの作品に出演している上野さんですが、意外にも家族のドラマというジャンルは未体験。同世代の等身大ヒロインを生き生きと演じ、新境地を開拓した上野さんにお話を伺いました。

Q:初めて本作の脚本を読んだとき、どう感じましたか?

私が演じる彩を支える伊藤さん役にはリリー・フランキーさんしかいないと確信して。リリーさんに決まったと知ったとき、この映画は絶対に面白くなると思いました。

お父さん役の藤竜也さんは、撮影に入る前にタナダユキ監督の作品をすべて観たり、自ら車を運転して劇中の大事なシーンに登場する柿の木の下見をしたりと、すごく研究熱心な方で。生徒に慕われる先生だった、本作のお父さんそのものでした。

Q:上野さんにプライベートでの変化があったいまだからこそ、彩により共感出来た、という気持ちは?

そういう気持ちはないですね。役とプライベートを重ねて楽しむ観客の方もいらっしゃると思いますが、私の場合、役とプライベートは全く別モノ。家族のドラマをやってみたいと思ったのは、単純にこれまで演じたことがなく、興味があったからなんです。

これまでラブストーリー、成長物語、復讐劇、刑事モノなど、いろんなジャンルの作品に参加してきましたが、なぜか家族のドラマは経験がなくて。家族をテーマにした作品に参加したら、自分はどういう演技をするんだろうとふと思い、自分を試してみたくなったんです。

しかも本作は3人の出演者の掛け合い次第でどうにでもなる、可能性を秘めた作品。タナダユキ監督なら、彩のような等身大の女の子をもっと魅力的に描いてくれるだろうという期待もありました。

Q:本作に上野さんの意見が反映されているシーンは?

意見というほどでもない、リアクションの変化程度なんですけど、ひとつあるとすれば、お父さんの教え子が訪ねてくるシーン。彩は隣の部屋で、ネイルをしながら漏れ聞こえる会話を聞いているんですけど、監督に、“このとき、彩が自然に笑ったらどうですか”という提案はしました。お父さんとの同居に戸惑っていた彩が、お父さんの屈託のない笑顔や知られざる一面を垣間見て、嬉しくて笑う。そうすると、その後、彩が泣くシーンへの流れが軽やかになるかなと考えたんです。

Q:上野さんのインスタグラムを拝見致しました。お父さん役の藤さんとの2ショットなど、ハッピーなお写真がたくさんある中で、『刑事コロンボ』のブルーレイジャケットが異彩を放っていたのですが、個人的にお好きなのですか?

旦那さんがDVDやレコードをたくさん持っていて、一緒に観ているうちに『刑事コロンボ』を好きになったんです。邦題と原題を見比べて内容を推測しながらタイトルを選んで、ひとりのときも観ています。コロンボの独特の風貌と彼の犯人の追い込み方が楽しくて、ほっこりしちゃうんですよ。コロンボの好物はチリコンカンで、劇中、彼がおいしそうに食べるシーンがよく出てくるんですが、そのシーンを観ているうちに私も食べたくなって。コロンボを観るときは、チリコンカンとナチョスを作り、ビールを用意して、その世界観をより楽しんでいます。

Q:『刑事コロンボ』は、旦那様の影響ですか?

そうですね。私にお薦めしたいものがいっぱいあるらしくて。ある日、ふたりでお寿司を食べに行ったときも、『ロッキー』の話ばかりしていたし(笑)。いまは、旦那さんのお薦め作品を順番に観ている感じですね。

Q:素敵なお話ですね。こちらの心まで温かくなりました! 上野さんは、今年の5月で30歳を迎えましたが、これからの30代をどのように過ごしたいですか?

やらなければいけないことを普通にやっていく。女優としても人としても人間力を高めた上で、楽しいことや面白いことをたくさん経験出来たら良いですね。そうすることで、公私ともに充実させていきたいです。

『お父さんと伊藤さん』
10月8日より新宿バルト9ほか全国公開。
 配給/ファントム・フィルム 
©中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

スタイリスト/岡本純子 
ヘアメイク/HAMA
 取材・文/田嶋真理 写真/横村 彰