ある時は売れないアル中脚本家、ある時は亡霊に悩まされる救命士、ある時はマンドリン弾き、ある時は天使、ゴーストライダー、モト冬樹共演NG俳優、そしてパチンコメーカー名を叫ぶ外国人……これらすべてを体現してきた稀代のハリウッドスターこそ、ニコラス・ケイジその人にほかならない。アメコミマニアで特撮邦画とカルト映画をこよなく愛する52歳。日本から取り寄せた1.5メートルの巨大ガメラ・フィギュアを自宅玄関に置く、正真正銘のグッド・ガイだ。

ここ数年は、映画『リービング・ラスベガス』(1995)での初オスカー受賞の栄光もかすむ小規模作品やB級映画、珍級映画への出演が目立つが、しかしそのすべてに全身全霊で挑み“俺印”を刻印する。そこが昔取った杵柄的な役どころばかりを演じるオールドスターとの一番の違い。しかも毎年必ず出演作品が日本公開およびソフトリリースされており、大手ビデオレンタル会社の高回転率ソフトの上位には必ずニコケイが食い込んでくるとも聞く。

エルヴィス・プレスリーの娘と結婚してすぐに離婚するなど女性関係は毎度のこと上手くいかないが、男と男の契りには熱い。カルト映画好き友達ジョニー・ラモーンの死後には、彼の念願の夢でもあった1973年のイギリス映画『ウィッカーマン』のリメイクをニコケイ自らがプロデュースし、主演も兼ねた。蓋を開けてみたら最低映画賞5部門ノミネートというシビア過ぎる現実もあったが、批評ほど時代に左右されるものはない。愚直さと熱量、そしてイケメンとは到底いえない、しょぼくれフェイスから醸し出される“一生懸命さ”。それらがデヴィッド・リンチ監督やポール・シュレイダー監督、ロブ・ゾンビ監督らツウの映像作家および映画マニアの心を捉えて離さないのだ。

マンネリを嫌うかのように様々な役どころを演じてきたニコケイだが、俳優としての真価を発揮するのは、不条理な状況に巻き込にっちもさっちもいかなくなったとき。顔全体の筋肉が重力に完敗したかのように垂れ下がり、つぶらな瞳は明後日を見つめる。“ぽかぁ〜ん”という苦悶の心境音を見事に顔面上に表出させ、そこに悲哀も滲ませる。これは意識して習得したというよりも、重ねた年輪と生き様のなせる技。この“ぽかぁ〜ん”こそ、ニコケイがニコケイであるというアイデンティティの表れなのかもしれない。

10月22日公開の主演映画『ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄』は、そのアイデンティティが激しく炸裂する。内容はニコケイがいかにも好きそうなゴシック・ホラー。ハロウィンのお祭りの最中に、7歳の息子チャーリーがニコケイの前から「霊に償ってくれる?」との謎の言葉を残して忽然と姿を消す。それから1年後、冷めきったニコケイ夫婦のもとに失踪のヒントとなるような怪現象が次々と起こる。「ハロウィンに何かある!」と睨んだニコケイはその起源を探るとともに、330年前に起こった禍々しき呪いへと辿り着く。

愛する息子の突然の失踪、尋常ならざる怪現象。次から次へと巻き起こる不条理に追い詰められるニコケイの顔は重力に耐え切れなくなり、浮浪者の巣窟となった廃墟の壁に書かれた無数の「PAY THE GHOST」という落書きを目にした瞬間、沸点に達する。ニコケイ十八番の“ぽかぁ〜ん”。カメラはその表情をしばらくの間捉える。エロティックサスペンス『BODY/ボディ』(1992)、実録政治モノ『バーダー・マインホフ 理想の果てに』(2008)とフィルモグラフィーにまとまりのないウーリー・エデル監督だが、ニコケイのどこに魅力があるのかはわかっているようだ。

チャーリーの失踪理由とその際に残した言葉の理由も徐々に判明していくが、それは正直なところ“八つ当たり”もしくは“巻き込まれ事故”の側面がかなり強い。ゆえに真相を知れば知るほどニコケイはやるせない衝撃とともに“ぽかぁ〜ん”を発する。役どころは大学教授という設定だが、残念ながらキャラに深みや面白みはない。にもかかわらずニコケイはいたるところで“ぽかぁ〜ん”を駆使し、飽きさせることなく展開を転がす。性格俳優から顔面俳優へ、いつの時代も彼はキテいるのだ。

『ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄』
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配給:ギャガ・プラス 10月22日(土)渋谷シネパレス他全国順次ロードショー

(石井隼人)