昨年、尾田栄一郎原作の漫画「ONE PIECE」を歌舞伎化し、大好評を博した「スーパー歌舞伎II ワンピース」が、この度シネマ歌舞伎として登場。チケット入手困難だった舞台が映画館のスクリーンで楽しめるようになる。海賊王を目指す少年ルフィとその仲間たちが大海原を冒険する長編物語のうち、今回はルフィの兄貴分エースを救出する話がメインとなるが、そもそも漫画を歌舞伎にするなんて、斬新すぎる? いやいや、これこそ歌舞伎のDNA。いったいどこが「歌舞伎」になったの? シネマ歌舞伎化を機に改めて紐解きたい。

娯楽性を追求した「スーパー歌舞伎」

もともと「スーパー歌舞伎」は、三代目市川猿之助(現・猿翁。ルフィ役・四代目市川猿之助の伯父)が始めたものだ。1980年代、当時の歌舞伎が高尚化しすぎ、娯楽性が乏しくなったことに危機感を覚え、江戸庶民が「ケレン」と呼んで好んだ宙乗りなどを復活させた。スピード・スペクタクル・ストーリーの三本を柱に、慣習にとらわれず洋楽も取り入れる新しい歌舞伎のかたちは、歌舞伎人気再燃の起爆剤となる。現在歌舞伎界は、他ジャンルの脚本家・演出家・俳優たちと意欲的にコラボし、続々と新作が生まれているが、「スーパー歌舞伎」はその先駆けでもある。

しかし、そもそも歌舞伎という芸能自体が、ありとあらゆるものを取り込んで成長してきたのも事実。「能」「狂言」が原作のものもあるし、人形浄瑠璃(今の文楽)の台本をそっくり使っての歌舞伎は、いわば「アニメの実写化」の先取りだ。そこに通底するのは「歌舞伎は庶民の娯楽」という大前提。難しいものはわかりやすく、流行には敏感に、地味なものは華やかに、豪快に。今生きる人々がワクワクするものを提供しながら、歌舞伎ならではの様式美や約束事を今に伝えてきたのである。

ハイパーエンタメで描く夢と笑いと涙に興奮が止まらない!

今回の「ワンピース」は、キャラクターデザインを忠実に生かした衣装・メイクのため、原作やアニメのファンにも違和感がない。特に坂東巳之助扮するボン・クレーには大注目だ。また、ミュージカルや宝塚的テイストも取り込むハイパーモダンエンターテインメントになっている。しかし一方で、往年の歌舞伎ファンなら「白浪五人男(しらなみ・ごにんおとこ)」や「碇知盛(いかり・とももり)」、「毛剃(けぞり)」など歌舞伎の名シーンを随所に感じることができるだろう。人は飛ぶ(宙乗り)、巨大クジラも泳ぐ、本当の水が滝のように流れる中(本水=ほんみず)での大立ち回り、目にも留まらぬ早替わり!……と次々に繰り出される飛び道具も、斬新なようでいて、すべて江戸時代に編み出された仕掛けである。

現代に息づく「歌舞伎DNA」を再発見

もう一つ、忘れてはならないのが「ONE PIECE」という漫画の中に「歌舞伎」の要素があったということ。仲間と協力し、困難を乗り越えて大切な人を救出し、そのためには自分の命をも顧みないという物語自体、非常に「歌舞伎的」なのだ。21世紀の現代、私たちの身近にある映画やアニメ、ゲームの中にも、「歌舞伎DNA」が息づいている。そのことを、「スーパー歌舞伎II ワンピース」の成功は気づかせてくれたように思う。

シネマ歌舞伎としての公開にあたり、冗長な説明部分は大幅にカットされ、特殊映像を施してさらにバージョンアップされたシネマ歌舞伎『スーパー歌舞伎II ワンピース』。先入観やバリアーを排し、楽しく観てほしい。

文=仲野マリ/Avanti Press


シネマ歌舞伎『スーパー歌舞伎II ワンピース』
10月22日(土)より東劇、新宿ピカデリー他にて全国公開
 市川猿之助、市川右近、坂東巳之助、中村隼人、市川春猿
 市川弘太郎、坂東竹三郎、市川笑三郎、市川猿弥、市川笑也、市川男女蔵、市川門之助、福士誠治、嘉島典俊、浅野和之
 原作:尾田栄一郎 脚本・演出:横内謙介 演出:市川猿之助
スーパーバイザー:市川猿翁
 主題歌「TETOTE」楽曲提供:北川悠仁(ゆず)
 製作・配給:松竹
(c)尾田栄一郎/集英社・スーパー歌舞伎II『ワンピース』パートナーズ