10月14日より公開中の『永い言い訳』は、『ゆれる』の西川美和監督の直木賞候補作でもある原作を映画化した作品。人気作家の衣笠幸夫は、不慮の事故で妻がその親友女性と亡くなるも、既に妻への愛情は薄れており、悲しむことはありませんでした。しかし、ふとした思いつきで親友女性の遺された子供たちの世話を買って出て…。人を愛することの“素晴らしさと歯がゆさ”を描き切った作品です。

深みのある物語はもちろんのこと、『おくりびと』以来7年ぶりの映画主演を果たす本木雅弘の演技にも注目です。今回、撮影途中でとある役作りをして路線変更を図ったそうですが、本木は過去の作品でも多様な役作りに励み、周囲を唸らせてきました。ビジュアル面では大胆に、内面では細やかに…本木の役作りエピソードを振り返ってみます。

最新作『永い言い訳』では少年を目指して8キロ減量

約1年におよぶ撮影期間の中で、物語の夏編を撮り終え、最後の冬編撮影に入るという頃。本木は西川美和監督に「毒が抜け、更地の少年のような」人物像を希望されて、8キロほど減量したそうです。本木は現在50歳。一般男性ならメタボやその予備軍が危ぶまれる世代ですが、さすがは経験豊富な俳優です。年齢に関係なくストイックに減量できてしまう上に、さらっと「少年のような」役作りを期待されているところも凄いです。

アイドルから一転、“つるつる”になり話題に

かつてシブがき隊のメンバー「モックン」として一世を風靡した本木。しかしシブがき隊を解散した翌年には、初主演映画『ファンシイダンス』(1989)で坊主頭を披露。実家の寺を継ぐ修業僧の役を受けて剃髪したのです。アイドル時代のイメージを大きく覆すビジュアルとシュールでお茶目な演技が話題となり、その後も俳優としての地歩を固めていくことになります。

『シコふんじゃった。』(1992)では相撲部の入部生という意外な役どころとコミカルな演技を、江戸川乱歩原作の『双生児-GEMINI-』(1999)では眉を剃り、不気味な世界観にハマるビジュアルを披露しました。

昭和天皇、納棺師…難度の高い役を粛々とこなす

内面やちょっとした仕草に対しても役作りを怠ることはありません。原作を読んで感銘を受け、本木自らが映画化を企画したという『おくりびと』(2008)で演じたのは納棺師。撮影に際し、たくさんの納棺師に会い、「ご老人が亡くなったお家にアシスタントとして行って、実際にご遺体を拭かせていただいた」と、実体験して臨んだという本木。「一瞬でも体験しておくと、それが自分のなかで、演じるときの糧にちゃんとなるんですよね」と、2015年放送の『SWITCHインタビュー 達人達』(NHK Eテレ)では役作りに対する心構えを語っていました。

とはいえ、実際には体験できないケースもあります。『日本のいちばん長い日』(2015)で務めたのは昭和天皇役。原田眞人監督が「彼は役作りに関してとにかく真面目」と評するように、撮影前、本木は戦後の昭和天皇の映像をたくさん観て、劇中で使用する予定のなかった「あ、そう」という細かな言い回しまでマスター。そして天皇にふさわしいガウンや眼鏡を自ら探して持参してきたそうです。

同時期に公開された堤幸彦監督の『天空の蜂』(2015)では原発の設計士を演じ、昭和天皇役とあわせて報知映画賞助演男優賞をダブル受賞。堤監督も「本木さんは役に対する探求心、学者のような熱意が半端ない」とその姿勢を称えています。

映画を観る人のみならず、撮る人をも魅了し続けている本木の演技と実のある役作り。最新作でも彼だからこそできる幸夫役に期待したいですね。

(文/藤岡千夏@H14)

<作品情報>
 『永い言い訳』
10月14日(金)全国ロードショー
©2016「永い言い訳」製作委員会 
 配給:アスミック・エース