近ごろの日本映画は『君の名は。』『映画 聲の形』といったアニメが興収ランキング上位を賑わせ、どうも実写映画に元気がありません。『シン・ゴジラ』はヒットしていますが、客層を選ばず誰もが楽しめるスタンダードな作品のヒットに欠けている状況ではないでしょうか?最近では李相日監督&渡辺謙主演の骨太サスペンス『怒り』や、山﨑賢人&広瀬すず共演の『四月は君の嘘』も公開されましたが、興行的にも話題的にもアニメの陰に隠れがちです。そんななか、10月22日公開の『バースデーカード』は、公開前の試写から「大人も子供も泣ける」と前評判も高く、その映画の成り立ちにより、映画関係者が密かな期待を寄せている作品です。

珍しくなった映画オリジナルの物語

病で余命少ない母親(宮﨑あおい)が内気な娘の成長を見届けられない代わりに、彼女が成人するまで10年分のバースデーカードを書き残します。はじめのうちは手紙に喜び、励まされるものの、成長するうちに娘(橋本愛)は母に人生を決めつけられている気がして手紙を拒んでしまいます――。

『バースデーカード』は、そんな母娘の手紙を介した心の交錯を描いた家族の物語。……と説明すると「原作は誰の小説?」「漫画の実写化?」と思う人もいるかもしれませんが、本作は最近の全国公開系では珍しい映画オリジナルのストーリー。井筒和幸や中島哲也の現場に携わってきた吉田康弘監督が「母親が死んでいく悲しみを描くよりも、まだ幼い子どもを残して死んでいったときに何を残せるのか、どうやったら亡くなった後も関わり続けることができるのか」という気持ちから脚本を執筆しています。ちなみに先に発売されている原作小説とコミカライズは、映画の後から生まれたもので小説も監督が書かれています。

現場の生の演技で詰められたストーリー

吉田監督(※吉田の“吉”は、正しくは土に口です)は「最初から決め込まず余白を残して」この映画の脚本を書いています。その上で、キャストが衣装合わせや本読みを通して感じた思いや「こういうセリフは言わないのでは?」などの指摘を受けつつキャラクターを密に詰めています。

また、映画の8割近くが主人公の一家が住む長野県諏訪市市街地でのロケでした。そのため、橋本愛をはじめキャストは演じる役がこの街でどんなふうに育ったかをじっくりイメージでき、監督もキャラクターがここでどう生きてきたかを意識して撮影に取り組むことができました。そんな生で感じた世界観が脚本に落とし込まれ、映画は登場人物の10年間を追体験するような心に染みる作品に仕上がっています。

『君の名は。』に近い要素も?

自ら原作も手掛ける監督といえば、最近では『君の名は。』の新海誠監督が挙げられますが、『バースデーカード』と『君の名は。』には、前者は亡くなった母親と成長する娘、後者は離れた場所で暮らす同世代の男女という「時間や場所を超えた人と人の結びつきをどう描くか」という近い要素が流れています。

また『バースデーカード』の舞台・諏訪市は諏訪湖を山々が囲う緑の街で、登場人物が諏訪湖を背に坂道を行来するシーンなども印象的です。この光景は『君の名は。』のヒロインが暮らす町にも似ていて、ニュース番組で諏訪が『君の名は。』の舞台として誤って報じられたのもわからないでもない気がします。いずれにしても生え抜きの映画人がゼロから世界を紡いだ物語を、ぜひ堪能してみてもらいたいものです。

(文/サンクレイオ翼・狩野洋)
『バースデーカード』
2016年10月22日(土)公開

(C)2016「バースデーカード」製作委員会