特定保健指導とは、40歳以上でメタボリックシンドローム(もしくはその予備群)に該当する方に対して保健師や管理栄養士などが生活習慣を見直すそのサポートをする、国で定められた制度です。
本来は保険者(健康保険組合など)に実施義務が課されており、提携しているクリニックや医療機関などで指導を受けられることが多いのですが、近年では健康経営の一環として、保険者と協同して職場で特定保健指導を受けられる環境を整える企業が増えています。

ドクタートラストでは、企業の方から「これまではけんぽにすべてお任せしていたけど、今年からは従業員が就業時間中に職場で保健指導を受けられるようにしたい」とご相談をいただくことがあります。
また、これまで会社で実施をしていた企業でも、担当の方にお話を伺うと「特定保健指導を受けるように呼び掛けても、なかなか従業員が前向きに参加してくれない。せっかく就業時間中に実施しても、なかなか翌年の該当者が減らない……」とお困りの方が多いように感じます。

特定保健指導は、事業所に保健師や管理栄養士などが訪問して実施をしたり、オンラインで面談するケースが多いですが、最初に該当者に周知・連絡をしていただくのは、企業の人事や衛生管理ご担当者様が多いでしょう。
企業担当の方は、対象者の方と指導員の橋渡し役のような存在です。
指導員がお会いする前の段階でどのような周知や説明をしてくださるかが、対象者のモチベーションや参加率を上げるために実は非常に重要です。
この記事では、実際に企業のご担当者様と特定保健指導を企画・実施している管理栄養士が、該当者の方がより前向きに保健指導に参加するために会社としてできることをご紹介します。

「なぜ受けるのか」をきちんと伝える

特定保健指導の対象となる人は、まだ病気になっていない人や健診結果は芳しくないものの自覚症状がない人がほとんどです。
過去の面談で、とても不満げな顔で面談に参加された方がいらっしゃいました。
よくよくお話を伺うと、会社からは「保健指導に行ってください。これは会社の健康事業の一環です」と言われ、「指導って何?」とわけもわからず面談場所へ。ただでさえ仕事が忙しいのに、会社に形式的な指示を出されたことが納得できなかった様子でした。

特定保健指導を会社で進める一番の目的は、あくまで「従業員が防げたはずの生活習慣病になることなく、これからも健康でいること」のはずです。
面談の周知の際に「なぜ受けるのか」という根本の理由を避けて事務的な実施理由を並べてしまうと、かえって反発心を招く可能性があります。
「今は元気でも、このまま放置すると大きな病気に繋がる可能性がある。
将来、通院や服薬が必要になったり、大きな病気になって辛い思いをしてほしくない。会社としても健康に働き続けてほしいから、忙しいこともわかるけれど、面談を受けてくださいね」など、「あくまで、あなたの健康を守りたい」という、本来の目的をお伝えください。

もちろん、指導員も面談内で指導の目的はお話ししますが、面談の時間は限られています。
目的が事前に伝わり、納得の上ご参加いただけると、健診結果やアクションプランの策定などに時間をより多く割くことができるので、ご本人にとっても有益な話ができる時間を増やすことができます。

親しみやすいプロジェクト名にする

初めて保健指導に参加される方は、「指導」という言葉に緊張される方も多いようです。
なので、私は面談のはじめに「生活習慣を注意することが目的ではないですし、無理な変化を強いるわけではないので、気楽にお話してくださいね。できることを一緒に考えていきましょう」とお伝えするのですが、ほっとした顔をされる方が多い印象です。

上記のようなことがあるので、特定保健指導を始めて社内で実施をする企業さまには「『特定保健指導』ではなく、もっと親しみやすいプロジェクト名で周知されてはいかがでしょうか?」とご提案し、合わせてややポップな周知用のポスターをお渡しすることにしています。
「特定」「保健」という、いかにも堅苦しそうな名称……そして何よりも「指導」という言葉が、「怒られる?嫌なことを言われる?」と身構え、始まる前から該当者の方にマイナスのイメージを与えてしまう可能性を感じるからです。
社内では「ヘルスケアプロジェクト」「ヘルスアップチャレンジ」など、より親しみやすく、前向きな企画として展開すると始まる前の抵抗感は薄れるかもしれません。
せっかくの機会なので、「これに参加すれば、自分も変われるかも!」という前向きな気持ちで参加してもらいたいと思っています。
企画名や参加を促すポスターを工夫することは、ちょっとしたことですが大事なポイントだと感じます。

保険者や実施機関との連携を取る

以前、最後の面談が終わった後に感想を伺うと、「昔参加したときは、夜勤明けで寝ているときに何度も電話がかかってきて、非常に嫌な思いをした。今年は就業時間中の面談だけなので、気が楽でした」と感想をいただいたことがありました。
勤務形態上、就業時間が不規則な場合は、保険者や実施機関に事前にその旨を共有して、どのような支援形態を取るのかを相談しておくと、対象者にも負担が少なくなります。
また、実施後は対応にあたった指導員に、自社社員の生活習慣の傾向や対象者の感想、反応などをぜひ尋ねてみてほしいと思います。

それを踏まえて、次年度の実施のために保険者や実施機関と実施フローや進め方を再検討すると、より対象者の方が前向きに参加できるフローにアップデートしていくことができます。
せっかく就業時間内に受けてもらう特定保健指導ですので、前向きに対象者の方が参加できるよう、保険者や実施機関と連携して進めていただければと思います。